激しい風が吹きすさぶ草原。その中心で一人の男と対峙する。暗視コンタクトをつけているため、夜でも相手の挙動がはっきり見える。月明りで照らされた明るい髪の毛と整った顔立ちはよく見覚えがある。
「何のつもりで呼び出した」
「わからないわけあるまい」
白々しい言葉に鼻で笑うと、相手の視線は鋭くなる。相手を見つめたまま一歩足を引く。
「……っ」
その瞬間相手は後方に飛んで距離を取る。
「それで十分か?」
「……もはや言葉は必要ないな」
「最初からそうであろうが」
上着の隙間に手を入れ、背中に手を伸ばす。相手も真似するかのように手を後ろへやった。左へ一歩ずれると、相手は右に一歩ずれる。同じ姿勢で互いを見つめたまま、ゆっくりと辺りを回る。九十度ほど位置が変わったところで足を止める。
相手の視線が下にずれ、また顔に戻る。次に左右に視線を走らせ、それから顔に戻る。草原に一陣の風が巻き起こり、草いきれを巻きあげた。
刹那、互いに前に踏み込む。
相手に一直線に近づきながら、背中から小型ナイフを取り出す。目の前の男も同様にナイフを取り出し、こちらのナイフに注意を払う。その隙に左掌に装着してある装置を起動する。数ミリ掌の角度を変え、スイッチを押す。
「なっ」
そこから光線が出て相手の足を絡めとる。相手は背中側から倒れ、目の前まで引きずられてきた。その上に飛び乗り心臓の真ん中にナイフを突き刺した。相手は目を見開く。それでも右手を持ち上げてナイフで刺そうとしてきた。その手を左手で払うと、あっさりナイフは飛んでいった。
「技術力が足りなかったな」
「だが……す、ぐに……そうさ、が……」
「そんなものかわせないわけあるまいよ」
相手の視線が歪み、鋭く睨んでくる。心臓からも口からも血を滴らせた状態では何も怖くない。寧ろ厄介な人間がこれで消えると思うと笑顔さえ零れる。
「安らかに逝くといい」
相手が何か言う前に心臓のナイフを揺らす。その口から悲鳴ともつかぬ声が出る。息絶えるまでこうして楽しませてやろう。
まだ威勢のいい相手に綺麗な笑顔を向けた。
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