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 指先で机をたたく。一定のリズムが室内に響く。その音が苛立ちを加速させる。

 苛立つのも無理はない。一年以上、何の成果も得られていないのだ。特に多くのことをやったわけではないが、成果がなければ時間を浪費したことになる。何が悪かったかといえば、駒だ。使用した駒が間違いだった。情けをかけてやったのに、何も結果を出さない。所詮ただのはみ出し者だったということだ。

 だがここで浪費という苛立ちに飲まれるほど馬鹿ではない自負がある。今の方法がだめなら新たな策を取ればいい。

「……大きな変化、か」

 今の状況を転がすには、変化が必要だ。今以上の変化。

 どうせなら他の実験も同時に進められるものがいい。その場合選択肢はかなり絞られてくる。

 手元の薄型機械を手に取り、部下の一人にテレビ通話をかける。三秒と経たずに相手は通話に出た。

「御用は何でしょうか」

「接触を試みることにする。ようやっと新たな任を課すぞ」

「待ち侘びておりました」

「そうであろう。方法はもう決めてあるのでな。準備を済ませておけ」

「御意」

 通話の相手が画面の向こうで礼をしたのを見届け、通話を切る。薄型機械をもとの位置に戻し、背もたれに体重を預けた。

 この策がどう転ぶか。先のことは見えないが、いい予感はする。今度こそ成果が出るのではないだろうか。全ての運がこちらに向かっている感じは悪くない。あとは焦らず驕らず、時間をかけて行っていくだけだ。

「いい方に転べよ……」

 低い声が部屋に落ちた。










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