第6話 全ての始まり
誘惑にまんまと負けたマゴラは夢中で地球を観察していた。初めて触れた地球の雑草は、ソーシャの草の感触と変わらない。人工空間で生命は育つのかという実験施設だったからだろうか。かつてスサインから持ち込んだものではある。そこからどう進化の過程をたどったかはスサインと一緒とは限らないが。いずれにせよ、地球が身近に感じられて嬉しかった。地面だけでなく木にも手を伸ばしてみる。ざらざらとした幹も同じ感触。
「……すごいや、すごい」
思わず呟いてしまう。声となって耳に届くとさらに興奮した。また地面に手を伸ばして撫でる。
すると突然視界に動くものが入ってきた。思わず息を詰める。女と男の小さな子供だ。地球人。見た目はソーシャ人と何ら変わりはない。服はあまりなじみのない見た目で、男の子はズボン、女の子はスカートを履いている。
二人の地球人は手を戻す暇もなく近寄ってきたかと思うと、手を触り始めた。マゴラは驚いて固まってしまう。男の子が手の甲に登ってくる。とても小さな手や足に触られてくすぐったい。でも怖くて動けない。
どうすればいいのか。急に動かしたら子供が怪我をするかもしれない。だが動かさなければ何かされるかもしれない。木の枝などで刺されない保証はない。マゴラはぐるぐる考えながら二人の動きを凝視する。
男の子に続いて女の子もすぐに手の甲に登ってきた。二人で何か楽しそうに会話している。顔がそっくりだから双子だろうか。しかもこの双子はオッドアイだ。地球人でオッドアイとは珍しい。
双子は一向に手から下りる気配はない。若干手を揺らして下りることを促すのもいいかもしれない。しかし余計に興奮したらどうなるだろう。下りる選択肢が消え去るかもしれない。
為す術なく止まっていると、女の子と不意に目が合う。
マゴラは息を飲む。まさかそんなはずはない。女の子には空から延びる手しか見えていないはずだ。あり得ない。
女の子はやがて左目を隠す。すると更にしっかりとこちらを見た。先程は顔のあたりを見る程度だったのに、今はしっかりと目を見つめてきた。すぐに興奮した様子で、隣の男の子を叩く。男の子も空を見上げ、最終的に右目を隠した。試しにピープレットの倍率を上げてみる。二つの真紅の瞳がはっきり見ていた。ルビーみたいな輝きがこちらに注がれる。
じわり。重い恐怖が頭をもたげる。
見えるはずはない。そうとわかっているのに。
「ひっ」
急に双子が手首を登ろうとしてきた。虫が腕を這うかのようにぞわぞわした感覚がする。弾けた恐怖は体の縛りを解いてしまう。もう何も気にしていられなかった。恐怖に従って腕を引く。双子はしがみつく。
腕は来た時と逆に空を抜ける。そのまま地球を抜け、アジャストループにさしかかる。双子にしがみつかれたまま、アジャストループを抜ける。
――閃光と爆音。
マゴラはその勢いに飲まれた。
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