第5話
メリアとキャロルとのお茶会は各家を順番に回るように開催する。今回は私の番。ただ、部屋とお菓子を用意するだけだから、お母様がお客様を呼んでなければいつでもできるんだけど、昔からの癖でちゃんと招待状まで用意している。
最初は将来の練習に。って話だったんだっけ?
「久しぶりね、エレナ」
「少し身長伸びたんじゃない?」
キャロルはそうやっていつも身長の話をするけど、勿論一ミリも伸びていないと思う。もう身長は伸びないのではないかと、不安になる時がある。それをケリーに相談した時は、「小さい方が可愛らしくて良いではありませんか」と笑顔で返されてしまった。
可愛いとか可愛くないとかじゃなくて、身長が欲しいのに。
「そういえば、ケイトお兄様が帰ってきたの。二人にお土産を預かっているのよ」
昨日の夜は晩餐もそこそこにお兄様は土産を配り歩いた。顔に似合わずマメな彼は、使用人にも一人一人手渡しをしていた。半年の間に新しく人が雇われていたら困るからと、多めに買っておくことも忘れないのだから、本当マメだと思う。
そして、彼は私の友人であるメリアとキャロルにもお土産を用意してくれていたのだ。
「まあ! 素敵ね。匂い袋?」
「みたい。隣国の花の香りですって」
「へぇ~。嗅いだことない変わった香り。ありがとうってケイトさんに伝えておいてね」
三人でお揃いの匂い袋を吸い込む。異国の香りがした。前にお兄様から送って貰った紅茶の香りに近い。
その香りのお陰で、私達は行ったこともない異国を想像することに費やした。
「どんなところなのかしら。お隣って」
「暖かいって聞いたよ」
「うちより南にあるんだしねぇ」
「あそこは今、女が強いんでしょう?」
「なんで?」
「ほら、いるでしょう? 強~い
強い
「王太子妃様よ。ご成婚してから大分幅をきかせているみたいなの。王太子も色々と後ろ暗いところがあるのか、お妃様の言いなり。王妃になってあの国を裏で牛耳るのは時間の問題なんじゃないかって、噂になっているわ」
「そうなんだ。そんなに強い人なのね」
そんなことまで噂になっているんだ……。知らなかった。
私はそんな凄い人を目指しているの? さすがに裏で牛耳るとか無理だと思う。でも、それをライナス様が求めているのだとしたら……?
想像することすらできず、何度も頭を振った。
何より、私は今なぜか避けられているような状態なのに、それを掌握するなんて途方もないことのように思える。そういえば、なんで私は避けられているんだろう。ただお茶会に積極的に出ただけ。
色んなお茶会に参加すると白い目で見られるとか、暗黙の了解があるのかしら。でも、それならお母様が止めてくれるよね?
二人に聞いたらわかるかもしれない。それが良いとケリーも言っていたし。
「どうしたの? エレナ」
「いつもの妄想癖でしょ? すぐ一人の世界に入っちゃうんだから」
「……そういえばね!」
私が声を出すと二人は顔を見合わせて笑う。
「ほら、出た。エレナの『そういえば』」
「えっ?! なに? なんの話?」
首を傾げても二人はくすくすと笑うばかりで教えてはくれない。
「エレナが可愛いって話よ」
メリアが笑いながら冗談みたいなことを言う。これはなにか絶対誤魔化されていると思う。疑いの眼差しを向けると、二人して肩をすくめた。それで誤魔化されると思っているのだろうか?
「ほら、なにか相談したいことがあったんでしょ? 次はどんな悩み?」
「そうよ。時間は有限だわ」
「あ、そうだった。あのね……」
こうして私は二人に最近起きた奇妙な出来事を説明したのだ。
「ふーん。お茶会の誘いがピタリとね」
「そう。ピタリとね」
「そういう時期……ではないものね」
二人の元にはそれなりにお茶会の誘いの手紙が届いているという。年代が違うとはいえ、お母様の元にもひっきりなしに届いているし。
三人で首を傾げていると、キャロルが思い出したように口を開いた。
「そういえば、この前のお茶会で妙なこと言われたわ。『お友達は選んだ方が良いわよ』って。それって、エレナのことと関係あるのかな?」
「あら、そういえば私も『周りには気をつけてね』と言われたわ。あまり気にしていなかったのだけれど……」
キャロルとメリアが視線を合わせる。そして、何か言いたげに私を見つめた。
「え……なに?」
「エレナ、なにかヘマやらかしたんじゃないの?」
「なにかって何?」
「変な噂流されるようななにかよ」
「してないよ! た、多分……」
そんな変なことしてないと思う。ただお茶会に出て、お喋りして帰ってくるだけなのだから。その場で誰かの悪口を言ったりなどもしていないし。
とは言っても人の心など分からない。私の何かに気分を害した人がいてもおかしくはないと思うと不安になった。
「少し探ってみた方が良さそうね。エレナと親友の私達にどこまで情報が回ってくるか分かんないけど、それとなーく探りをいれてみるよ」
「私も聞いてみるわね」
二人の優しい笑顔に胸が熱くなった。込み上げるものを感じ、唇を噛みしめる。
「……二人ともありがとう」
「なぁに感動してるの。親友なんだもん、当たり前よ」
「二人とも大好きっ……!」
二人を思いっきり抱きしめると、小さな笑いが漏れる。今、二人がいてくれて良かったと、心の底から思うのだ。もしも、私一人だったら不安でどうしていいか分からなくなっていただろう。
その日の晩、どこからかふらりと帰ってきたお兄様に呼び止められた。
「明日はお兄様と夜会に行こうか」
これは誘いではない。強制。私の顔は言うまでもなく酷く引きつっていたと思う。
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