第205話追撃戦
ガキン!!!
槍と槍がぶつかり合い、重厚な金属音と火花を散らしたのを合図だったのかと言うように、老将とバルタの槍が風を斬り裂き、激しい戦いが開始されます。
バルタの槍が老将の槍を掻い潜り左の肩口を襲い、老将の鎧を難なく斬り裂き肩から血が噴き出し、怯むことなくバルタの槍を弾いた老将の槍が右から左から次々に繰り出されバルタの身体に傷を刻みます。
ポタポタと身体から滴る血が地面を濡らし、赤く染めますが、対峙する二人は気にする事もなく槍を構え呼吸を整え、お互いに機を伺います。
「ふむ、長年魔物を屠って来たが、ここまで血を流したのは何年振りか…。 それもゴブリン相手とは」
「我は、マサト様に仕えしゴブリンジェネラルのバルタだ、その辺のゴブリンと一緒にされるのは心外だ!」
「ふはぁぁぁぁ! 誉め言葉だ! バルタと申したか、そなたを馬鹿にするつもりはない、むしろこのような強敵と出会え長生きはするもんだと思っているぐらいだ」
「そうか、それは誉として受け取ろう、だが、この勝負、いかにご老体と言えど手を抜くつもりはない、覚悟してもらおう」
そういい槍を構えなおすバルタに、老将は全力でかかって来いと言わんばかりにニヤリと笑い、槍を構え、バルタに槍を突き出し、バルタもそれに負けじと槍を突き出します。
バルタと老将が本陣で激しい戦いを続けている頃、戦場全体の戦局は大きく動き出しています。
本陣が襲撃され大将の消息が不明との報告がソパニチア王国の後方から前線に向け伝播し、兵たちが動揺をはじめ徐々に逃げ出し始めている状態です。
影から呼び出したアルチ達サンダーウルフに命じ、本陣が奇襲され大将が討ち取られたと敵兵の中を叫びながら走り回るように指示を出し、カウア達ミノタウロスには、前進し敵を押し込むよう命じます。
「武内、敵軍は混乱して後退を始めてる感じだが、これは勝ったのか?」
敵兵が後退を始めた事で一息ついた土田がそう言いながらこちらにやってきますが、既に勝ちが確定したのかまだこの後も攻防が続くのか判断がつかないと言った表情です。
「そうだな、左右の味方が敵を挟撃し敵は後退しつつあるからもう勝ちだとは思うけど、慢心したらどんでん返しがあるかもしれないから気を抜くなよ!」
「わかった、それで俺はこれから何をすればいいんだ?」
「そうだな、とりあえず、敵が完全に崩れて壊走を始めたら土田は側面から攻めているバイルエ王国兵を率いて追撃をしてくれ、戦いはここからが重要だからな、徹底的に追撃し逃げる兵を討ち取ってくれ」
「まあそれは良いんだが、逃げる兵を徹底的にって、そんなに追撃が重要か? 追い返すだけなら放っておけば逃げ帰るだろ?」
「う~ん、土田的には、昔の戦争で一番死者が出るのはいつだと思う?」
「それゃあ戦闘中だろう、激戦や乱戦で多くの人が死んじゃうのは当然だろ?」
「土田はそう思ってるのか…。 日本の戦国自体では一番死者が出るのは逃げる際なんだよ、敵に背を向けて逃げるから、退却する際に一番被害が出るんだ、それが壊走状態ならなおさらだ、今回はソパニチア王国軍に大打撃を与えて今後チョッカイを出さないようにさせるためだから、壊走する敵を追って被害を増大させてもらいたいんだよ」
「そうなのか? てっきり乱戦とか戦闘中の方が死者が多いと思ったけど、言われてみればそうだな、分かった、じゃあ俺はバイルエ王国兵を率いて追撃の指揮を執る」
「そしてくれ、一応追撃は日が沈むまで、または道の分岐点、ここからだと道の合流地点、朝ソパニチア王国軍が待ち構えていた場所までだぞ」
「それは分かったが、砦まで追撃し一気に砦まで陥落させなくていいのか? 後で増強されたら奪還は困難だぞ?」
「まあ問題ないよ、まずは追撃でソパニチア王国軍に甚大な出血を強いて、こちらは体勢を立て直してから進軍すればいい。 それに捕虜の扱いもあるしな」
「捕虜は殺すのか?」
「いや、捕虜は交渉して金で引き取ってもらうつもりだ、甚大な被害が出たのなら、金で救える命があるのならソパニチア王国も金を出すだろ」
「そうか、確かにそうだな、じゃあ俺は追撃の指揮を執りに行くから」
そう言って土田は用意された馬に乗り側面を攻めるバイルエ王国兵の所に向かいます。
「月山部長~。 聞こえますか?」
「ああ武内君か、聞こえるぞ、こちらは道を逆扇状に塞ぐ形で足止めし、左右の森からゲリラ戦を仕掛ける事でさしたる損害も無く善戦してるぞ!」
「そうですか、ていうかなんか生き生きしてますね、まあそれはさておき、敵本陣はバルタ達が奇襲して壊滅して壊走しましたので、今戦っているソパニチア王国軍も壊走は時間の問題です」
「そうか、それは良かった…。 だが道を進んでこちらに攻めかかっている敵兵はどうするんだ?」
「それに関してはサンダーウルフに本陣が奇襲され大将が討ち取られたと言いふらしながら敵兵の中を走り抜けるように指示してます。 そのうちそちらでもわかるぐらいに動揺が広がると思います」
「そうか、では我々も追撃をするんだな?」
「それなんですが、とりあえず道を進んで月山部長達の方に攻込んだ兵士は武装解除させて捕虜にしてください」
「捕虜にするのか? 討ち取って被害を増やすのではないのか?」
「そうなんですが、ちょっと悪だくみがありまして、そのために捕虜を利用しようかと…」
「そうか、武内君がそう言うなら、捕虜にするように指示を出そう」
「お願いします。 あと捕虜なんですが、仕えている貴族ごとに分けておいてください」
「仕えている貴族ごとか? それは可能だろうが、何でそんな面倒なことをするんだ?」
「まあそれも悪だくみの一環です。」
「そうか、分かった、それと武内君の言う通り攻め込んで来ていた敵が動揺を始めたからこちらも攻勢に出る事にする、こちらの指揮は私に任せて武内君は君の仕事をまっとうしてくれ!」
そう言って何か異常に張り切っている月山部長ですが、通信魔道具の通話スイッチを切り忘れているようで、魔道具から月山部長の声が響いてきます。
「全軍、敵の大将は討ち取られ、森の入り口に居る兵は壊走を開始したとの事だ、我々の勝利だ!! 後残るは目の前にいる敵兵のみ、これが最後の戦いだ!! 各員奮励努力せよ!!! トラ・トラ・トラだぁ~~~~!!!!」
いやいや月山部長、滅茶苦茶ノリノリじゃないですか…。
しかもトラ・トラ・トラって、奇襲開始のモールス信号で、トラ連打って言われる奴じゃないですか。
なんか使い場所間違ってる気がするけど…。
まあ本人がやる気なんだから良いか、ていうか月山部長川を渡って避難しておくように言ったのに、これ絶対川を渡らずに戦闘指揮してたっぽいな。
そんな事をおもっていると、遂に何とか戦線を保っていたソパニチア王国軍の後方が壊走をはじめ、その流れが徐々に伝播し、完全に壊走状態になり出します。
攻めかかっていたバイルエ王国兵は土田の指揮のもと一旦集結をし、手早く隊列を整えると即座に壊走を始めるソパニチア王国の後を追って追撃戦を開始しだします。
「マサト様、我々は如何されますか?」
ゾルスが血で真っ赤に染まった大剣を肩に担ぎゴブリン軍団への指示を聞いてきましたので、一応ロゼフの指揮のもと森から逃げて来るソパニチア王国を捕虜にするよう指示を出します。
「恐らく月山部長が率いる兵に押し出される形で出て来るだろうから、降伏を勧告し武装解除させて捕虜にしておいて、管理は月山部長がしてくれるから」
「かしこまりました、ではそのように致します」
そう言ってゾルスは側面攻撃の指揮を執っていたロゼフの所に向かい指示を伝えます。
指示を受けたゴブリン軍団は即座に追撃を止め、森の入り口から出て来る兵を捕虜にすべく包囲する形で陣を敷き始めます。
う~ん、皆さん働き者な上につかれているだろうにキビキビと働くな…。
そう思いながら、多くの死体が横たわる戦場を見回していると、本陣を奇襲した混成騎馬軍団が戻ってきます。
「マサト様、申し訳ございません、敵大将を取り逃がしました」
そう言ってグリーンフォースから飛び降り頭を下げるバルタですが、えらく傷だらけになっています。
「いや、まあ大将は取り逃がしたとしても、敵軍が壊走したから問題ないよ、それよりその傷どうしたの?」
「はっ、それが本陣に控えていた手練れの老将がおりまして、その者と一騎打ちをした際の傷でございます。」
「そう、相当の手練れだったんだね」
「はい、あのような剛の者、初めて手合わせを致しました、とは言え敵軍が壊走を始めたので勝負は一旦預けとなり、機会があればまた再戦をと互いに約束をしてまいりました」
「そう、再戦の約束してきたんだ…。 まあ良いけど、とりあえず混成騎馬部隊は、包囲陣に加わって、敵の投降を呼びかけるのを手伝ってあげて、ゴブリンに投降を促されるより、バイルエ王国の騎馬兵がいれば投降もスムーズにいくだろうから」
そう言ってバルタに指示をだした後、戦闘から戻って来たカウア達ミノタウロスに戦場の死体の片づけを指示し、アイテムBOXから椅子をだし、座って状況を見守ります。
「アルチ、ハンゾウはまだ砦に居るのかな?」
「はい、正確には砦の近くに潜み様子を伺っておりますが、それが如何いたしましたか?」
「うん、ちょっとハンゾウの所までひとっ走りして指示を伝えてくれる」
「かしこまりました、それでどのような指示を」
「うん、指示内容は……」
「かしこまりました、では行ってまいります」
そう言ってアルチは一直線に草原を走り出しますが、流石と言うべきか、走る姿がどんどん小さくなり数秒で見えなくなります。
やっぱ早いな、まあアルチから伝えたえられた指示をハンゾウが実行して成功させればこの戦争は終わりだな。
まあ、土田が奇襲されて逃げ帰ってきたら振り出しに戻るけど、この分なら大丈夫だろうし。
夜にでも鈴木さんに報告の一方だけ入れておこう。
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