第204話逆襲

自分と土田、そしてゾルスの3人で敵中を突破した後、一旦距離を取っては押しを止めて戦い、また距離を取る、そんな戦いを繰り広げながら後退を続けます。


大声で渡河の時間を稼ぐために粘れだの少しでも足止めしろなど叫びながら戦っているので、追撃をするソパニチア王国軍も渡河前に主力を殲滅しようとムキになって攻めかかってきます。


通信機器の無い時代の戦いって言葉や音、そして旗とかで意思疎通を取っていたって言うけど、実際にその通りなんだな…。


指揮を執ってる貴族っぽい人も必死の形相で部下に対し追撃の指示を出してる感じだし。

やっぱり貴族階級は手柄次第で貰える領地や褒章なんかも変わって来るんだろうな。


そんな事を思いながらも、後退を続けていると、街道の左右に森林が広がる地点に近づいてきます。


「土田! ゾルス! あの場所を死守するぞ!」


血で赤く染まった大剣で街道の左右に森林が広がる地点を指して大声で指示を出すと、土田もゾルスも大声で了承の意を伝えてきます。


広い平野部で大軍を左右に展開していたソパニチア王国軍ですが、森に分け入って追撃をするつもりは無い様で、森を抜ける街道を突破する為か、徐々に陣形を変えて街道を矢じりのような陣形になっていきます。


恐らく先頭集団は自分達3人を足止めして、左右の部隊が横をすり抜け街道を進むつもりなのでしょう。


足を止めて迎撃態勢に入った自分達3人に、矢じりの先端と言うべき部隊が突撃をし、左右の部隊は予想通り左右を抜けて森を抜ける街道を突き進んでいきます。


「しまった!! 敵に抜けられたぞ!! 武内、どうするんだ!」

「どうするって、どうも出来ないだろ! この状況ですり抜けた敵を追う事なんて出来ないぞ!!」


「それじゃあ渡河をして退却する部隊が退路を川に阻まれて全滅するぞ!!」

「そんな事は分かってる! だからってどうしろって言うんだ! 今ここで俺達が置かれている状況も深刻なんだぞ!」


そんな三文芝居と言われても仕方ないようなやり取りを大声で続けている間も、左右を抜けたソパニチア王国軍が街道を突き進んでいきます。


あとは川辺に敵が到着して戦闘が始まって、動きが鈍った所で森の左右から伏せてる兵が攻めかかるだけだな。

せっかく広域魔法も使わず大剣だけの物理オンリーで戦って来たんだから、見事に引っかかってくれないと。


そう思いながら大剣を振るい戦い続けていると、左右をすり抜けて街道を進む兵の動きが徐々に遅くなってきます。


そろそろだな…。

そんな事を思った時、通信魔道具より月山部長の声が聞こえて来ます。


「この戦いに身を投じる兵士全員に告ぐ、我々の3倍もの兵を前に諸君はよく耐え忍び、よく戦った、それもこの一戦で終わる、敵軍はもはや勝ったつもりで気も緩んでいるうえ、隊列も伸びきっている、皆も朝から戦いの連続で疲れてはいるだろうが、この一戦で我々の勝利が決まる事は間違いない! 全軍最後の力を振り絞って敵を殲滅せよ! 勝利は我らの手中にあり! 全軍、突撃!!!!!!!!!」


いやいや、月山部長張り切り過ぎでしょ。

ていうか訓辞長いし、ていうか訓辞って必要?


そんな事を思っていると左右の森から喚声が響き渡り、森の右側からはゴブリン軍団6千が、左側の森からはバイルエ王国軍6千が突撃を開始し左右からソパニチア王国軍を包み込むように襲い掛かります。


うん、作戦通り、じゃあ敵軍に混乱してもらう為にもう一手。

そう思いながら大剣を左手に持ち替え、右手に魔力を集め、ソパニチア王国軍に向けて炎槍を投げ込みます。


まさか広域魔法が降って来るとは思ってもみなかったのでしょう。

左右の敵に気を取られていたソパニチア王国軍は突如撃ち込まれた広域魔法に驚き、混乱し隊列が崩れます。


「今だ!! 全軍かかれ~!!」

バイルエ王国軍の指揮官でしょうか、突撃の指示を出すと兵士達は混乱するソパニチア王国軍に攻めかかり、槍で突き、剣で斬り裂き、敵兵を次々に討ち取っていきます。


そんな中でも兵を鼓舞し指示を与え組織的な抵抗を見せようとする部隊もありましたが、そんな部隊が目に入ると自分の炎槍が飛んで行き、指揮を執る将兵を焼き尽くします。


指揮系統が寸断され、混乱のドツボに陥ったソパニチア王国軍は組織的な抵抗も出来ず、兵は右往左往するばかりです。


とはいえ、大軍は伊達じゃないと言うべきか、中々殲滅とまでは行きませんが、後方から砂煙が近づいてきて、ソパニチア王国軍の後方が騒がしくなります。


バルタ達混成騎馬部隊が本陣に突撃を開始したのでしょう。



「我こそは、マサト=タケウチ様が第二の臣、バルタ、大将の首貰い受ける!!!!」

突如ソパニチア王国軍の本陣に押し寄せた騎馬集団の先頭を走るバルタは大声を張り上げ、本陣を守る兵に向かって突撃をします。


それにしてもマサト様の真意が分からない、我々騎馬ゴブリンには大将までの突破口を開く役割を与え、大将首はバイルエ王国兵に取らせろとは…。

実際、バイルエ王国の騎馬兵も練度は高いが、それでも騎馬ゴブリンには劣っているように見えるし、何より敵の兵数を見ただけで士気が低下するような者たちに任せられるのか?


主の指示とは言え納得がいかないバルタは、それでも尻込みするバイルエ王国兵に、ソパニチア王国軍本陣の兵数は5千だが、四方に千人づつ、中央に千人なのだから、突撃し実際に戦うのは側面に控える千人と中央の千人だと説き伏せ、その上、自分達が先陣を切り突破口を開き敵中央の大将までの道を開くと言い、その上、道が開けなければ騎馬ゴブリンには構わず撤退をしていいとまで言って納得させ今に至ったてます。


バルタとしては自分達で一気に突入し大将の首を取った方が早いのではないかと感じでしまいます。


そんな事を思うバルタですが、敵兵に近づくにつれ、そんな事よりも今マサト様より与えられた使命を全うしようという意思が強くなり、名乗りを上げて敵兵を目指し突き進みます。


突然の奇襲に側面を守るソパニチア王国騎馬兵は慌てて馬首を変え迎え撃とうとしていますが、各々が各自の判断でバラバラに向きを変えようとしたために混乱状態にあります。


足の止まった騎馬と一直線に突撃してくる騎馬とでは例え力量が同程度だとしても勝敗は火を見るよりも明らかでしょう。


バルタを先頭にした騎馬ゴブリンは敵兵の中に突入すると、槍を振るい、側面を守る騎馬隊を突破し後続のバイルエ王国騎馬兵の道を作ります。


側面を突破すると、本陣は歩兵で囲まれていましたが、まさか騎馬隊がこんな短時間で突破されるとは思ってもみなかったのでょう。


味方騎馬隊の壁を突き破って突入してきた騎馬ゴブリンに驚き慌てて防衛体制を敷こうとしますが、勢いのまま突撃をするバルタ達の槍に貫かれ、馬蹄に踏みつけられ、あっけなく突破を許します。


本陣の中央に備え付けられた天幕を槍で斬り裂くと、そこには金ぴかの鎧を着た兵士と戦場にはふさわしくない椅子に腰かけた者が一様に驚いた顔でバルタ達に視線を向けます。


「本陣への道は開いたぞ!!! バイルエ王国騎馬兵の腕の見せ所だ! 大将首を取れ!!!」


バルタがそう叫び、騎馬ゴブリン達が本陣周囲の敵兵に襲い掛かると、後続からバルタ達を追って来たバイルエ王国騎馬兵が続々と本陣に突入していきます。


ソパニチア王国本陣に控える老将が刃渡りの長い槍で突入してくるバイルエ王国兵を斬り裂き大将を守り、側近らしきものが先導し、大将を逃がそうとしています。


老将に防がれ、大将を取り逃がしそうなバイルエ王国兵に対しバルタは舌打ちをし、老将の方へ馬首をかえし、対峙をします。


「ほう、ゴブリン風情が奇襲の指揮を執っておったのか」

老将がそう言い、血に濡れた槍をバルタに向け苦々しい顔でバルタを睨みつけます。


「我は、マサト=タケウチ様、第二の臣ゴブリンジェネラルのバルタ、ご老体の命を頂戴する!」


そう言ってグリーンフォースからおり、老将と対峙しますが、恐らく長年多くの戦場を駆け巡り幾度も死線を潜り抜けて来たのでしょう。


お互い槍を構えたまま、円を描くようにすり足で距離を取りながら機を伺います。


周囲では、騎馬ゴブリンが混乱を始めた敵兵を駆逐し、バイルエ王国騎馬兵は逃げた大将を追いかけます。


戦場の喧噪の中、バルタと老将の周りだけは誰も近づきがたい、周囲とは隔絶された空間のように感じます。


そんな中、静寂を破り先に槍を突き出したのはバルタでした。


あとがき--------------------------------------

本日から新作の「戦国時代の初期にタイムスリップ? いえ、ここは異世界らしく天下統一の為に召喚されたみたいです」を投稿いたします。

5月度は毎日更新しますのでお読み頂ければ幸いでございます。

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