第203話後退
退却してくるバイルエ王国兵が大体4000人程になった頃、ソパニチア王国の大軍を率いるような形で土田が退却をしてきます。
「武内、死ぬかと思ったぞ! まさか大軍が満を持して待ち受けてるとは…」
そう言って馬上から自分を見つけ馬を寄せてきた土田が汗だくになりながら話かけてきます。
「だろうな、とはいえこっちが防御陣形を整えてるのを見て相手の足も一旦は止まったから今のうちに態勢を整えて退却だ」
「そうだな、だが退却と言っても何処に退却するんだ? このまま退却したら行きつく先はキャールだぞ?」
「それなんだがな、もう一戦仕掛けるぞ! ぶっつけ本番の釣り野伏せだ!」
「そんな事、どうやってやるんだ?既に味方は満身創痍だぞ?」
「そんな事は分かってる、今ここに居る兵で
そう言うと土田は「わかった」とだけ言ってバイルエ王国兵の所に行き指示を出しています。
そしてソパニチア王国軍はと言うと、自分達から200メートル程離れた場所で一旦停止し、追撃で伸びきった軍の集結を待っているかのようで、今の所はすぐに襲い掛かって来る気配はみせていません。
指示を出し終えた土田が戻って来たので一応退却の作戦を伝えますが、明らかに不満そうな顔をしています。
「ていうか明らかに包囲されそうなのに押しては引くなんてうまく行くのか? 撤退中何度も物陰からゴブリンが突然飛び出して敵に向かって行ったが大して足止めにもならなかったし、完全に無駄死にだったぞ」
「無駄死にでは無いだろ、一瞬でも敵の足が止まれば成功だ、実際追撃に参加した兵5千のうち4千は生きてもどってきたし、それに敵も6万近い全軍で俺達を包囲し殲滅させようとはしないだろ」
「じゃあ全軍で攻めかかって来た時はどうするんだ?」
「その時は、退却する、もちろん
「逃げるってどこまでだよ! ていうか逃げ切れるのか?」
「それはさっき言っただろ、川辺までだって、それに左右のゴブリン軍団を鶴翼に展開し敵に包囲されないようにしながらの撤退だから兵力はかなり削られるだろうな」
そう言う自分の言葉に土田は渋々頷きアイテムBOXから何かを出して口に運んでいます。
今のうちにエネルギー補給かな?
いい事だ、どうせもうすぐ敵さんも総攻撃に移るだろうし。
そんな事を思いながら睨み合う事約1時間、ソパニチア王国軍は陣形が整ったのでしょうか、足並みを揃えてジリジリと前進を開始します。
「さて、撤退戦を開始しますか」
そう言って土田とゾルスに声をかけ、前進するソパニチア王国軍に合わせて味方もジリジリと後退を開始します。
暫くのあいだ付きつ離れずで推移していましたが、ソパニチア王国軍が徐々に速度を上げて向かって来ます。
両翼のゴブリン軍団に防戦に徹しつつ後退するように指示を出し、バイルエ王国兵にはその援護を依頼し、中央は自分と土田そしてゾルスで迎え撃ちます。
土田には特製の大剣を10本程渡していますので、3人とも向かって来る敵兵を大剣で薙ぎ払うと言った戦いになるでしょう。
まあ特製の大剣は柄の部分が血で濡れても滑らない様デコボコにしてありすっぽ抜けにくい造りになっているので10本もあれば十分でしょう。
両軍がぶつかり戦闘が始まりますが、流石に敵兵の数が多く圧力が強い為、予想よりも防戦しながら後退する速度が速くなります。
中央は自分達3人が無双しているのでほぼ問題は無いのですが、そうでない両翼は圧力をもろに受けて今にも崩壊しそうになっていますが、流石バイルエ王国兵といったところでしょうか、疲れ切っているとは言え指揮官の指示のもと的確に崩れそうなところに兵を送り崩壊を防いでいます。
森の入り口まで大体1キロほどはあるでしょうか、果たしてそこまで陣形を維持できるか…。
そんな事も頭をよぎりますが今となっては味方の奮戦を信じるしかありません。
「武内、このままだともう少しで崩壊するぞ! 俺達は良くても兵が持たないぞ!!」
返り血を浴びた土田がすごい形相で叫びますが、言われなくてもそんな事は分かっています。
そんな時、ふと頭をよぎったのは、大声で自分達が作戦や味方の状態を叫んでやり取りをすれば敵軍の首脳部にもその声が届くんじゃないのか?
そうだとしたら、大声を出して叫んで土田やゾルス達と話す事で欺瞞情報を敵に信じ込ませる事も出来るんじゃないか?
そんな事が頭に浮かびます。
影からサンダーウルフのイルチ、ウルチ、エルチを呼び出し、各指揮官に指示を出したら壊走を装って退却するようと指示を伝え、土田に向かって大声て叫びます。
「土田、後2時間ぐらいこのまま敵軍を足止めすれば本隊の渡河が完了する!! 橋は燃やしてあるからそれまで耐えれば川を挟んでの防戦になるからそれまで耐えろ!!」
その叫び声に、何も聞かされていない土田は何の疑いも無く、大声て返事を帰してきます。
「2時間なんて持つわけ無いだろ! ていうか何で橋を燃やしたんだよ!! 渡り切った後に燃やせばいいだろ! それにあと1時間も持たないぞ、このままじゃ川で逃げ場が無くなった味方が包囲殲滅されるぞ!! 何とかならないのか?」
うん、さすが土田、何の疑いも無く味方の現状を大声て叫んでくれます。
「そうならない為に俺達が
そう大声で土田に伝えた後、しばらく後退を続けながら戦い続けますが、戦況はどんどん悪化の一途をたどるばかりです。
敵もここを突破したら一気に進軍し渡河途中の味方を背後から殲滅する好機と思ったのか、どんどん圧力が増している感じです。
そろそろかな…。
圧力が更に増したのを肌で感じながら、影からサンダーウルフのオルチ、カルチ、キルチを呼び出し、各指揮官に壊走を装って川辺に退却をし、川辺で防御陣形を組んで敵を待ち受けるよう指示をだし、伝令に向かったサンダーウルフ達は壊走する際に後ろから襲って来る敵兵を多少足止めして被害が増えない様に味方を守るよう伝えます。
サンダーウルフ達が散った後、しばらくすると、中央に位置するバイルエ王国兵の後続が徐々に壊走をはじめ、その流れのまま両翼が崩壊し壊走をはじめ、戦場に残るのが自分と土田、そしてゾルスのみになります。
「土田、ゾルス!! 味方が崩れて壊走したから俺達も引くぞ!! 全力で走って敵の包囲を突破だ! 先陣はゾルス、中に土田、
そう自分の叫び声にゾルスと土田が反応し、自分の所に向かって敵兵を薙ぎ払いながら向かって来ます。
「武内、総崩れだぞ! 森の入り口で足止めってそんな事出来るのか!!!」
「土田、話は後だ! まずはこの包囲を突破してから説明する!」
そう言ってゾルスを先頭に敵軍の中を全速力で敵を薙ぎ払いながら退却を開始します。
まあ自分達チート組は普通の兵士が束になってかかって来てもそれなりに対処できるんだよね。
実際に自分も土田もゾルスも大きな怪我してないし。
そんな事を思いながら包囲を中から食い破る形で突破した自分達はそのまま一目散に森に向かって走ります。
「武内、お前この状態をどうやって覆すんだ? それに釣り野伏せだ! とか言ってたが、渡河するまで粘れって、どういう事だよ!」
「あ~あれな、大声で欺瞞情報を叫んで土田と話せば敵の指揮官達の耳に届いて騙されてくれるかと思ったから、それに壊走もサンダーウルフ達を使って指示をして壊走させたんだぞ」
「じゃあ渡河って言うのは?」
「嘘だ! 月山部長には渡河して安全圏に避難するように指示をしてあるけど、それ以外は森に潜んで待機してる、今の所、川辺に居るのはドグレニム領兵1500だけだ」
「という事は、川辺はそこに今逃げた味方が加わり約8千近くになるって事か?」
「そう、敵には渡河途中の兵に見えるだろうし、道もそんなに広くない、防御陣形で森を抜ける道を扇状に塞ぐ形で布陣してるだろうから突破はそうそう出来ないだろ」
「そういう事か、なら俺達は森の入り口で無双したけど敵に突破された感を装って戦い続ければいいんだな?」
「そういう事、むしろ戦いながら道から離れて敵が道を進みやすいようにしてあげないとな」
そう言ってニヤリと笑うと土田も意図を理解してニヤリと笑います。
うん、返り血を浴びた男がニヤリと笑うとエグイな…。
「この惨状、日本政府に報告したら鈴木さん卒倒しそうだな…」
「ちょっ、お前、これ報告するのか? 俺たち思いっきり大量殺人犯だぞ?」
「まあ戦争するって伝えてあるし、ここ異世界で日本の法律適用外だから大丈夫、まあSNSで炎上したりマスコミが取り上げたらブーイングの嵐だろうけど」
そんな言葉に土田はため息をついています。
まあ土田は日本の事を気にしなくて大丈夫だよ。
なんたって異世界でお嫁さんゲットしたんだから‥‥。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます