第202話日本人の影
夜明けの奇襲は成功し、ソパニチア王国軍を敗走させたと思えるのですが何か引っかかるものを感じるので、不安解消の為、一旦ゲートを開き、もう一方のソパニチア王国軍が野営している場所を偵察します。
ゲートを開き昨日野営をしていた場所に移動をすると、そこにはソパニチア王国がおらず、野営の準備中に神隠しにあったとでも言うような光景が広がっています。
ここに野営をしようとしていたソパニチア王国軍は何処に行った?
まさか夜襲を読まれてた?
そう考えると、背筋に冷たい物が流れるのを感じます。
急いでゲートで移動をし、月山部長へ現状を伝え、追撃をしている部隊以外の兵に指示を出します。
「ドグレニム領兵はこの先、道を進むと左右に森がある場所があるからそこまで移動して敵軍に備えて! ロゼフはゴブリン軍団のうち6千を率いて森の右側に隠れて、そしてバイルエ王国軍は左側の森に隠れて!
バルタ達、混成騎馬部隊はこの辺に隠れて指示を待って、ゾルスはゴブリン軍団3千を率いてこの場で自分と共に待機で」
そう言って各隊に指示を出すと各指揮官達は不思議そうな顔をしながら疑問を口にします。
そんな指揮官達に、もう一方のソパニチア王国軍が野営地に居ない事、奇襲が読まれていて裏をかかれている可能性がある事を伝え、この道を暫く進んだ所で再度敵軍を迎え撃つ準備をする旨を伝えます。
各指揮官には通信魔道具を渡し、連絡が密に取れるようにし、移動を開始させますが、恐らく追撃した先には再度軍を立て直した部隊に加えもう一方の道を進んでいた軍が加わり大軍が待ち構えているような気がします。
土田には追撃を中止し撤収するように連絡を入れていますが、了解という返事だけで、勢いに乗った味方の足を止められず追撃が続行されているような状況のようです。
「マサト様、ここに残ったゴブリンですが、この地に来て仲間に加わった戦意旺盛なゴブリンが600程おります。 その者達を救援に向かわせましょうか?」
ゾルスがそんな提案をしますが恐らく6万以上の軍で待ち構えている敵兵に600匹程度で挑んでもあまり効果は薄い気がします。
「ゾルス、そのゴブリン達は敵と味方の区別は出来る?」
「はい、可能です。 それが如何しましたか?」
「そうだね、ちょっと酷い作戦なんだけど、そのゴブリンを50匹で一組にして移動させて道端で隠れられそうな場所があれば隠れて敵軍を待ち構えさせて、退却してくる味方に敵軍が追撃があるようなら物陰から一気に飛び出して攻撃を加えて敵の足止めをさせて」
「かしこまりました。 ただその場合、生還の期待は出来ませんが…」
「うん、
「かしこまりました、新たに加わったゴブリンには肉などを与えたうえで、帰還後には好待遇を約束すると伝え仰せの通り指示を出します」
ゾルスも自分の意図を察したのか、そして捨て駒にされるゴブリンに同情したのか、新規に加わったゴブリンに携帯食の肉を渡しながら指示を出していきます。
つい最近まで野良だったゴブリンなのであまり深く考えていないのでしょうか、それとも手柄を上げたいのでしょうか、指示を受けたゴブリンは渡された肉を齧りながら50匹単位で移動を開始しだします。
「武内君、いくら何でもあれは酷くないか?」
そう言う月山部長ですが、追撃を受ける味方を少しでも多く救い、かつ敵軍の足を多少でも鈍らせ立て直しの時間をかける為には必要な犠牲であり、すぐ増えるゴブリンの中でも新規加入組はある意味丁度良い存在なので、月山部長もそれを察したのかそれ以上は何も言いませんでした。
その後、各隊が移動を完了し、2時間ぐらいが経過した頃、土田から通信魔道具を通じ悲鳴じみた連絡が入ります。
「武内、大変だ、敵軍が集結してるぞ!! 慌てて退却に移ってるけど全軍で追っかけてきてる、後続がもうすぐ追い付かれそうだ!!!」
そんな通信魔道具から聞こえてくる悲痛な叫び声に、嫌な予感が当たった事と、これから始まる死闘の予感に自然とため息が出てきました。
「土田、とりあえず全力で後退しろ、脱落したら確実に殺されるんだから兵を鼓舞して少しでも多く退却させろ!! 一応足止めの策は立ててるけど、ほんの一瞬足止めが出来る程度だろうから何があっても全力で逃げろ!」
そう言って通信魔道具で土田に指示を出した後、月山部長にも指示を出します。
「とりあえず護衛ゴブリン100匹程付けますんで、道を進んで橋を燃やした川を渡ってそこで待機してください。 その上で敵が川を渡るようならそのままプレモーネまで一気に逃げてください」
「武内君、だが私だけが逃げるなんてことは…」
「月山部長はレベルもそんなに高くない普通の人間です。土田や自分みたいに無茶は出来ないんですからとりあえず今は命を大事にしてください」
そう言うと月山部長も渋々と言った感じで指示に従ってくれます。
「武内君、私が下がるのは良いとして左右の森に伏せた部隊はいつ敵にぶつけるんだ?」
「そうですね、川辺に敵軍が到着したあたりでしょうか」
「そうか、では私はその時に各隊への指示を出す役目を引き受けよう。 それならいいだろう」
「わかりました、お願いします。 それとバルタ率いる混成騎馬隊に本陣を見つけて総大将の首を取れと指示をしてますんで、敵が川辺まで達したらバルタ達にも指示を出してください」
そう言って月山部長にゴブリン100匹を護衛に付けて移動をさせた後、ゾルスに指示を出し3000匹のゴブリン軍団に迎撃態勢を取らせます。
それにしても今回は完全に裏をかかれた感じです。
恐らく奇襲をかけた際に敵が放った照明弾も周囲を明るくする為では無く、味方に襲撃があったことを知らせる為だったのでしょう。
それにうかつだったのはサンダーウルフ達の偵察を終了させて手元に戻した事も完全に裏目に出ています。
サンダーウルフに偵察をさせていれば、奇襲をかける対象を深夜に移動した部隊にしその後に残る部隊を攻撃する事も出来たのですが、すべて後の祭りです。
それにしてもソパニチア王国軍が、というより異世界人がそこまで情報収集と作戦立案能力があるとは思えません。
恐らく日本人が作戦計画、立案をしているのでしょう。
まあ月山部長みたいに歴史好きの人ならそれなりに異世界人よりは作戦計画や立案は余裕でしょうね。
そんな事を思いながらゴブリン軍団が防御陣形を保ちつつ待機する事約2時間ほどでしょうか、道の先から兵士が続々と現れます。
「マサト様、あれはバイルエ王国兵かと…」
そう言うゾルスの言う通り、バイルエ王国兵が続々と退却をしてきます。
退却してきた兵士を収容し、休ませていると、指揮官クラスも退却をしてきたため、部隊の再編成の指示を出すのと現状を確認します。
現在は土田が
まあそうだよね、5千ぐらいの兵で6万以上に突っ込んだら普通に考えて殲滅されるよね。
さてさて、続々と兵が退却して来るけど、土田が率いる
まさかもう既に敵に捕捉され討ち取られたかな。
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