第206話戦いが終わって
日が暮れだし投降したソパニチア王国を武装解除させて各所属事に分ける作業も終わり、朝から戦い続きの兵士やゴブリン達も一息ついた頃、追撃に向かっていた部隊の半数程が大量の物資が積まれた荷車を持って戻ってきました。
「あれ? もう追撃終わって帰還?」
そんな疑問を口にすると、バイルエ王国兵の指揮官が、苦笑いを浮かべながら答えてくれます。
「いえ、土田殿よりソパニチア王国壊走した際にそのまま放置された荷駄の回収を指示されました。 とはいえ量が多いので追撃に移った6千のうち半数の3千で荷駄を回収してまいりました)
「そう、ていうか追撃は3千で大丈夫なの?)
「恐らく問題は無いかと思います。 実際荷駄の回収と運搬に携わっている兵は追撃した兵の中で後続位置し遅れていた者たちばかりですので」
「あ~、ついてこれない者に別の仕事を与えたってとこだ。 まあだったら大丈夫かな」
そんな事を思いながらも回収した荷駄の内訳を確認するように指示を出し、手の空いている兵士達には野営の準備を進めるように伝えます。
今晩中に土田が戻って来るだろうから、戻ってきたら即座に休ませて明日は砦に向けて進軍だな。
その後、指揮を執っていた月山部長を野営用の家に案内しシャワーで汗を流した後、ソファーで寛ぎながら今日の戦闘の話に花を咲かせます。
とは言え月山部長は戦国物の小説好きとあって、普段見れないような興奮した表情で話続けます。
やはり本で読む戦いと実際の戦いでは全く違ったようで、自分の指揮で数千の兵を動かして戦った事が相当爽快だったようで、これが魔道具の無い日本の戦国時代なら指示がスムーズにいかないから、昔の武将たちは相当情報伝達に苦労していただろうなど、聞いている自分が良く疲れないなと思う程です。
兵士達は見張りを残し野営をはじめ、サンダーウルフやミノタウロスに捕虜の監視などをさせていますが、やはり朝からの戦闘続きで兵士もゴブリン達も皆疲れていたのでしょう、野営地は夕食の時はそれなりにガヤガヤしていましたが、食事が終わると、兵士達は眠り込んでしまったようで、野営地は静まり返っています。
「それにしても、月山部長が参戦してくださって、作戦構築や指揮を執ってくださったので助かりました」
「さっきまで話していた内容と矛盾してるのは分かるんだが、本当は戦争なんて反対なんだが、今回ばかりはそうも言ってられないような状況だっただろう、放置してたら我々の居るプレモーネまで危険にさらされるからな」
「まあ確かに、6万越えの軍が攻めてきたらドグレニム領だけでは簡単に蹂躙されるでしょうからね。 それにしても、反撃開始前の訓辞は気合入ってましたね」
「いや、それは言わんでくれ、私も気分が高揚していたというかなんというか、ただ突撃と言うだけでは味気ないと思ったらつい口走ってしまったんだ」
そう言いながら月山部長は照れ笑いを浮かべながら頭を掻いています。
うん、やぱり気分高揚してハイテンションになってたんだな。
マジかでハイになった月山部長を見てみたかった。
そんな事を話していると、追撃をしていた土田達が戻ってきたようで、見張りの兵士達が騒がしくなります。
野営用の家から出て帰還した土田の元に向かうと、若干疲れた顔をした土田が馬から降りて兵士達に食事を摂り休むよう指示を出している所でした。
「土田、お疲れさん! っで追撃の成果はどうだった?」
「ああ武内か、追撃は成功だよ、逃げる敵の背後から槍で突く、剣で斬りつけるだけだからな、さしたる抵抗も無くかなりの数を打ち取ったよ」
「そうか、まあとりあえず、兵士達を休ませて、野営用の家でシャワー浴びて一息つけ」
そう言って土田を促し、野営用の家に戻ると大した怪我も無く無事戻って来た土田の顔をみて月山部長も安心した表情を浮かべます。
その後シャワーを浴びて、軽食を摂った土田と月山部長、そして自分とで明日以降の打ち合わせをしますが、土田の主張としては明日一日はこの場で休養を取る事を提案してきました。
確かに土田の判断は間違っていないですし、疲れを癒した後、砦に向けて進軍するのが普通なら正しいでしょうが、ハンゾウに指示を出した内容を伝えると、月山部長も明日進軍を開始する事を支持します。
土田は渋っていましたが、明日の朝、アルチが結果を報告に来ると思われるため、成功したのなら進軍する事に同意をしました。
まあ実際砦を取り返せばいくらでも休息を取れるし、多少敵兵の遺体を埋葬したとはいえ、死体がそこら中に転がる平野で野営を続けるよりも、多少設備の整った砦で過ごした方が兵士達も安心して休めるでしょう。
「さて、もう23時頃だけど、一応日本にゲート開いて報告だけしとこうか」
そう言って補助魔道具をアイテムBOXから出して日本の対策室にゲートを開きます。
「今晩は~、どなたかいらっしゃいますか?」
そう言って声をかけると、鈴木さんがゲートの前にやってきます。
「武内さん、戦争はどうなったのですか? 話合いとかで回避できましたか?」
「いや、回避はしてませんし、戦争は終了しましたけど、鈴木さんどんだけ残業してるんですか? もう23時ですよ?」
「残業はいつもの事ですし、休みも取ってますのでお気になさらず、それよりも終了したってどういう事ですか?」
「そのまんまの意味で、今朝から激戦を繰り広げて敵軍を壊走させただけですけど?」
「そ、それじゃあ亡くなられた方も大勢いるんじゃないですか? 亡くなった人たちにも家族が居るんですよ?」
「まあそうですけども、それは攻め込まれたこちら側にも当てはまるんですよ? まあ戦争反対の話は議論が平行線ですから一旦棚上げして、とりあえず結果だけ伝えると、何とか勝利しましたので一応自分達が把握している日本人の無事は確保されました」
「そうですか、日本人の無事が確保されたのは良いですが、戦争でどのぐらいの人が無くなられたのですか?」
「まだ完全に調べ終わって無いですけど、味方は人間が2千人ぐらい、ゴブリンが3千匹ぐらいでしょうか)
「2千人も…」
そう言って驚きの表情を浮かべる鈴木さんですが、恐らくソパニチア王国兵の死者数を聞いたら倒れるんじゃないかと思えてきます。
鈴木さんには、一応明日から、奪われた砦の奪還をした後、捕虜1万5千人の返還交渉を行う旨を伝えゲートを閉じます。
「武内、ソパニチア王国に与えた被害は伝えなくてよかったのか?」
土田が、少し不思議そうな顔をしながら質問をしてきます。
「鈴木さんに、相手側が万単位で死者が出たなんて言ったらそれこそ収集つかないどころか、発狂しそうだぞ?」
「そうだな、味方が2千人近く死んだって言っただけであの反応だもんな」
「そうだよ、だからゴブリンの被害と人間の被害を逆に伝えたんだ」
「はっ? どういう事だよ、実際の死者は3千なのか?」
「そう、負傷者は除いて人間の死者は約3千人だよ、ゴブリンは約2千匹、まあこれは集団戦闘と実戦経験の差が死者の数に直結したって所だな」
渋い顔をする土田ですが、その後の言葉が出てこない様ですので、今日の打ち合わせはここまでにして、休むことにします。
ていうか3倍近いの兵力差の相手と戦争して死者が合わせて5千程での勝利ってある意味奇跡的だと思うよ。
とはいえ約1/4の損害だから完勝とも言えないけど。
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