第189話反乱者捕縛作戦1

日本政府との接触を終えた後、月山部長の相談所に向かい、報告書の相談をします。


大体の成り行きを知っている月山部長に再度進攻前のウェース聖教国、国内情勢の詳細から現在の業況まで順を追って説明をします。

流石、一部上場企業の部長になるだけあって、要点をメモし、疑問点などを質問し、大まかに報告書の骨子をまとめます。


「武内君、一応聞くが、これは自己防衛の為に使うのではなく、ウェース聖教国への進攻が正当かつ人道的観点から必要な事だったと伝える為の物なのだな」

「そうです。 実際餓死者も出てますし、難民も多く居ます。 ただマスコミに接触してる日本人が意図的に、または悪意を持ってなのか、情報を流した為、社会主義を広めてる野田課長達の件と合わせて政府が批判の的になってるみたいなので、批判を多少なりと緩和する為の物ではあります」


「だが、ウェース聖教国の酷い内情を誇張して表現するのはどうなんだ? ここまでする必要があるのか?」

「ありますね、鈴木さんと話したんですが、日本人の感覚と異世界人の感覚、倫理観と言うのでしょうか、その辺が全くかみ合わないんですよ」


「噛み合わない? どういう事だ?」

「そうですね、まず難民、餓死者が出たのなら食糧支援をすればいい、手を差し伸べてあげればいい、国を亡ぼすのが間違っていると言うのが日本人、いえ地球にある多くの国家の感覚です。 ただ実際そのような事をしても全く意味をなさないどころか、支援された国の要人が肥え、国民の生活は変わらないんですが、それでも戦争では無く話し合いをと言うぐらいですから」


「それは確かに話し合いで何とかなるなら話し合いで解決するのが好ましいが、この世界の国家形態を考えると難しいだろう、まあ地球上では世論などもあるから戦争をせず話し合いで何とかなるかもしれんが」

「ただその辺がマスコミや日本国民も理解できないというか、現状が分からない中で自分達の倫理を当てはめて批判をするので政府も困っているようです。 まあ政府関係者もおおむね日本の倫理観で話をして来るんで、その辺にも理解してもらう為の報告書ですね」


「そういう事なら、国家形態や国家間の確執を含め誇張して報告書に追記して作成しよう」

「お願いします。 世界中でも同盟や盟約なんて紙切れだった時代があったのと同じで、話し合いは相手を油断させ騙す為の行為、異世界はそんな世界だという事を広められる感じにして貰えると助かります」


「そうだな、異世界に転移させられた人間に日本人の倫理観で行動しなかったからと言って批判の的になるような事は避けんとな」

「ええ、現状として日本政府には止められていますが、帰還も限定的ですが可能になってますんで、転移者が批判に晒されないようにしておきたいですね」


そう言って月山部長と報告書の内容を打ち合わせした後、パルン王国に移動し、反乱の状況確認をします。


パルン王国首都、港湾都市のブテナにある王城に向かい、ワンダムさんと面会し状況を確認すると、どうやら本をばら撒いた効果は出ているようで、若干反乱は沈静化しているようですが、首謀者達が精力的に活動しているようで一進一退と言ったようです。


「マサト殿、我々としては、教えられた拠点を一気に制圧して首謀者を捕えようかと思っているのだが、内部にも反乱の首謀者達に情報を流す者がいるとの話を聞いた為、なかなか実行できないのだが、何か策は無いか?」


そう言ってワンダムさんは、困ったと言うような表情を浮かべます。

城内や軍部にも優秀な指揮官や参謀は居るのでしょうが、何処に内通者がいるか分からない状況で大々的に作戦会議も開けず一部の人間だけで計画をしないといけない為、どうやら良い作戦が思い浮かばないようです。


「ワンダムさん、内通者がいるのならその内通者を逆手に取った作戦を立てればいいじゃないですか」

「内通者を逆手に取った作戦? どういう事だ?」


「ようは、内通者から作戦が反乱の首謀者達に流れる事を前提として、判明した拠点を強襲するんです」

「まて、それでは強襲した時には逃げられた後になるじゃないか」


「そうです、なのでこの前渡した拠点24か所のうち、20か所を兵士達に伝えたうえで強襲します。 そうすれば内通者から情報を得た首謀者や幹部たちは強襲予定にない拠点に移るでしょうからそこを強襲するんです」

「どういう事だ? 要は全部の拠点を強襲するという事だろう?」


そう言って不思議そうな顔をしているワンダムさんですが、どうやらパルン王国の上層部は見た目も筋肉質で海の男って感じですが、頭の中も筋肉で出来ているようです。

う~ん、自分の説明が悪いのかな…。

そう思い、再度順を追って作戦をワンダムさんに説明します。


まずは大々的に反乱を起こしている者の拠点を制圧すると宣伝し、兵を集めます。

その後、集めた兵士や指揮官に判明している拠点うち4箇所程を省いてそれ以外の拠点を伝えたうえでゆっくり軍を動かし、伝えていない拠点4か所の近く、おおむね半日から1日の場所を本陣としてそこから兵士達に伝えた拠点を強襲させる兵を動かします。

事前に強襲すると情報を流しているので、内通者から情報を得て強襲される予定の拠点はもぬけの殻になり、兵士達に伝えていない4箇所いずれかの拠点に反乱の首謀者達は避難するはずですので、それを見越して強襲するという作戦です。

ただ要注意なのは、兵士や指揮官に教えていない4か所を強襲する際は、直前まで兵士達に伝えず、拠点に迫って初めて伝える、または何も伝えずその拠点い居る人間を全員拘束するように命令を下すことで一網打尽とする必要があるという事です。


再度説明をして納得したのかワンダムさんは、何度もうなずき、自分が提示した作戦を実行するつもりになったようです。

即座に反乱討伐をすると告知し兵を招集する指示を出し、地図を見ながら、何処に本陣を置き、何処を兵士達に伝えない拠点はどこが良いか質問をしてきます。


いやいや…。

もう少し考えようよ。

自分達の国でしょ? もう完全に他力本願じゃん。


なんか野田課長達、社会主義を広めてる人たちがこの国に狙いを定めた理由が少しわかって来た気がする。


だって脳筋ばっかりだもんこの国。

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