第188話日本の倫理と異世界の倫理

264日目


昨日は、兵士の移動や今回の戦闘報告、そして砂漠の先にある大地の説明などをして、プレモーネの自宅に帰った頃には夜になっていましたので、日本にゲートをつなぐのをやめて、のんびり過ごさせてもらいましたけど。


とはいえ、ずっと放置していたステータスの割り振りをしたので、魔力量も全体的にUPした感じだし、ゲート、もう少し大きく開けられる気がするな。


それにしても、この世界の事、調べれば調べる程疑問ばかりが浮かんでくるのは何でだろう?

昨晩のんびりしながら考えてて疑問が浮かんだけど、そもそもネレースは日本人を集団転移させなくても、この世界の人間に強い加護を与えてその人達がどういう事を成し、どのような生活を送るかを眺めれば良いんじゃない?

娯楽って言ってたけど、異世界人じゃなくてもこの世界の人間に力を与えればいいのに。


そう考えるとネレースも何か別の意図がありそうな気がしてきた。

本人に直接聞いてみようか、まあ絶対に誤魔化されるだろうしな…。

まあ確信がある訳じゃないし、あのネレースの事だから目的も無く思い付きって可能性も高いし、深く考えるのは止めよう。

うん、無駄に悩むとハゲそうだし。


そんな事を思いながらも、日本にゲートを繋ぐと案の定、内閣府の鈴木さんがすごい剣幕で迫ってきます。


「今まで何処で何をしてたんですか!! 本だって希望通りの数揃えてますし、今国会でも大騒ぎになってるんですよ! なのに12日ですよ! 12日間も音信不通ってどういう事ですか」

「いや、これには色々と深い訳が、ていうか日本人に被害が及ばないように魔物の大群を処理してきたんですよ。 それに今後の脅威が無いかも確認をしてましたし、遊んでた訳じゃないですから」


「それは分かってますが、数日おきに短時間でも連絡を寄越すとかして頂かないと、こちらからは連絡が取れないんですから、何かあった時困るんです!」

「てことは何かあったんですか?」


「ええ、またマスコミ…というか週刊誌に異世界の記事が載りました、それも日本人が主導して国を動かし戦争で他国を侵略占領したっていう記事です! それも聖女を手籠めにした上に人質にしたとか、大騒ぎですよ!」

「う~ん、まあ日本人が主導して国を動かして他国を侵略したのは合ってるけど、聖女を手籠めにはしてないね、本人達ラブラブだし…」


「武内さん、この件に関して何か詳しい情報知っているんですか?」

「うん知ってる。 というか主導したの自分だもん、ただ領土拡張が目的では無くて滅んだ国の国民の救済が目的だね、教会の幹部や関係者が私腹を肥やして領民は飢えで難民にまでなってましたし、魔物が発生しても何の対策もせず放置してるような国ですからね」


「な、なにを言ってるんですか? だからって戦争で侵略っておかしくないですか!! もっと話し合いとか平和的な方法があるはずです! 武力で何て間違ってるに決まってるじゃないですか!」

「いや、無理でしょ、基本的に封建国家や独裁国家ですし、話し合いでなんて無理ですよ? 実際日本人を拉致した国と日本政府は何十年と交渉しても進展ないでしょ? 物や金だけ要求されて、仮に支援をしても権力者の懐が温まるだけで国民の生活は変わりませし」


「確かに多少権力者の懐に入るかもしれませんが、国民が居なければ国が成り立ちません、なので支援をすれば国民にも行き渡るはずです。 国民が居なければ国が成り立たないんですから!」

「そうは言いますが、それは日本をはじめ地球上の国家の倫理ですよね? 異世界では人の命なんて金貨5~10枚で買える世界ですよ? そんな世界で底辺に位置する農民や貧民なんかが飢えても国は動きませよ」


「それなら武内さん達が人の命の重みや倫理を説いて説得すればいいじゃないですか! 侵略を主導して戦争をするよりも遙に人道的じゃないですか!」

「う~ん。 まあ、これに関しては日本人や地球の人達とは間違いなく意見は一致しませんから論ずるだけ無駄ですね、異世界人と日本人は、住む世界…育った世界が違うんですから」


そう言う自分に鈴木さんは、だからと言って戦争と言う手段は間違ってます! と喰ってかかってきますが、そもそも過去に多くの血を流した事のある世界の人間とそうでない世界の人間では、命の価値に隔たりがあるので、ここで意見をぶつけ合っても無駄なので話を先に進めます。


「それはそうと、その週刊誌の記事がそんなに問題なんですか? 自分的には日本人が社会主義を広めてる方が問題だと思うんですが」

「それについても政府が公表したので、マスコミやSNS上では批判の嵐です。 それに加え戦争を主導する日本人の存在まで出てきて更に大騒ぎになってるんですよ。 そのうえ政府は転移者と接触しているのに誰一人として帰還を実現させていないと、批判の矛先が政府にも及んでるんです」


「あ~、確かに、接触は出来ても帰還が実現しなければマスコミとかが政府が隠蔽してるとか言いそうですもんね~」

「ですもんね~じゃないです! 毎日ニュースで政府批判の嵐ですよ、それに野党も便乗して騒ぎ出して収拾がつかなくなってる状態なんです」


「まあ帰還に関しては制限つきで何とかなるかもしれないけど、問題は戻った後だよね。 確実にマスコミの餌食だし」

「そうなんです、それも悩みの種なんです。 帰還が実現すれば批判も落ち着きはしますが、被害者のプライバシー対策、そして移動が出来るなら救助、捜索隊をとかマスコミや国民が言い出すのは目に見えてますし、なにより諸外国の干渉もありますから」


「諸外国? ああ~、手つかずの土地から得られる資源って事ね…。 まあどの国も異世界の資源は喉が出るほど欲しいでしょうしね。 しかも文明レベルが中世ぐらいとなれば少ない投資で莫大な利益が出そうですし」

「そうです、とは言え現在ゲートを開けるのは武内さんだけなので、諸外国も早々手が出せませんが、場合によっては強硬手段で武内さんを拉致しようとかする国が出てきてもおかしくない状況なんです」


う~ん、まあ自分は拉致されても影に潜って逃げれるしゲートで異世界に逃亡も出来るけど、地球に戻っても魔法が使えるか分からないしな…。

まあそう考えると異世界からゲートを繋ぐだけの役割に徹してれば安全だな。

流石にどの国の諜報機関も異世界に居る自分は拉致れまい。


「それはそうと、武内さん、先程条件付きでなら転移した日本人が戻れるような事を言ってましたが、それはほんとうですか?」

「ええ、本当です、しばらく放置していたステータスを弄ったので魔力が大幅にUPしたんで最大50センチ四方のゲートが開けます」


「50センチ四方ですか…。 という事は肩幅の狭い人限定という事ですね」

「まあそういう事です、女性なんかはすんなり通れるでしょうが、肩幅の広い男性はチョット厳しいかと思いますね」


「確かに、とは言え帰還の目途が立ったのは朗報です、とは言え政府内で調整し対策を考えてからになると思いますが」

「まあそうでしょうね、因みに、滅ぼして占領した国、ウェース聖教国って言うんですけど、一応報告書でも用意しておきますね、どういう状況が発生し、何故侵略をしたか、そしてその後の復興状況など、公表できる内容があれば多少なりと批判も収まるでしょ。 死者も両軍合わせて100人にも満たないですし」


「そうですね、報告書はお願いします。 それと戦争をしたのに本当に死者は100人にも満たないんですか?」

「ええ、なんせ腐敗しまくっていた国なので、首都に軍が迫ってやっと侵略に気付いたような国ですから、ろくに戦闘と言う戦闘は無かったんですよ、むしろ戦争で死んだ人より、ウェース聖教国が何もせず搾取だけしていたせいで飢えや魔物に襲われ命を落とした人の方が圧倒的に多い状況です」


「そうですか、武内さんの言っている事の裏付けが取れれば批判も収まるでしょうけど…」

「裏付けは無理ですね、なんせ異世界の出来事ですし。 それはそうと、今度は、A4の紙にバイルエ王国の王都及びドグレニム領のプレモーネにくれば日本に帰還できると書いた紙を増産して貰えます?」


「それは構いませんが、急に帰還を進められても困るんですけど、先程の話を聞いてましたか?」

「聞いてましたよ、依頼したものは今後の為の準備を早めにしておこうって言うだけです。 実際何処に居るか大まかに把握している日本人は2000人居るか居ないかぐらいですし、帰還が始まったら用意してもらった紙をばら撒いて日本人を集めないと何時まで経っても全員帰還出来ませんよ」


「わかりました、そういう事でしたら上に許可を取って準備をしておきます、10万枚ぐらいでいいですか?」

「個人的には100万枚は欲しいですが、コピー機フル稼働すれば数日で用意出来そうですし、文面も変わるかもしれませんから一応10万枚ぐらいで大丈夫です」


その後、鈴木さんと何件か打ち合わせをしてゲートを閉じます。


さて、報告書を作成しないとな…。

月山部長に依頼して誇張した報告書を作ってもらおう。


なんせ自分の報告書は会社に居た時から毎回駄目だしされてたし…。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る