第183話防塁攻防戦3

自分がオークシャーマンを死霊術で操り、情報を聞き出している頃、防塁は阿鼻叫喚の状況になりつつありました。


積みあがった魔物の死骸を足場にし防塁の上に到達した魔物と、その魔物をこれ以上増やさないように防ぐ兵士、防塁上の所々で乱戦の様相を呈しています。


「クソ! このままでは防塁の上に上がって来る魔物が増えるばかりでいずれは突破されるぞ!」

そう口汚く毒を吐くのは防塁守備の総指揮官ダダルインさんです。

普段は丁寧な口調を心掛けているのでしょうが、この戦況を見るにつれ地が出てきているのでしょう。


「おい! マサト殿への伝令は送れたのか?」

「いえ、魔物が防塁に群がっており伝令が出せません!」


「それでは援軍が来ないではないか! このままでは防塁が突破されるぞ、遠回りとなろうともマサト殿に伝令を出し援軍を依頼しろ」


そんなやり取りを幕僚としていると、防塁の外を指揮していた兵が指揮所に駆け込んで来ます。


「ダダルイン様、ゴブリン軍団が、防塁に群がる魔物達の後方から襲い掛かっております!」

「それは本当か!!」


そう声をあげたダダルインさんは指揮所を出て防塁の外を見渡します。

「おお~!! 魔物達の後続をゴブリン軍団が攻撃しているぞ、これならもう暫く凌げば守り通せる」


そうダダルインさんは呟き、近くに居る兵士達に檄を飛ばし、各隊へ伝令を走らせます。


とは言え数に押され、防塁の上も魔物に侵食されつつある状況を檄一つで覆すことなど出来ません。

防塁の上での戦闘は刻一刻と激しくなります。


魔物の攻撃でバランスを崩し防塁から落ちる兵士も、運よく外側に落ちれば生き残れる可能性もありますが、魔物が犇めく内側に落ちた者は即魔物に身体を引き裂かれ、食い千切られます。


防塁の一角が崩れ、魔物が殺到するともはや止める手立ても無く、魔物が防塁を越え出します。

ダダルインさんは防塁の外にも兵士を配置してはいましたが主に防塁上に精鋭を配置し、外には戦い慣れない兵士などを多い為、すぐに防塁を越えた魔物が押し込んでいきます。


「クソ! 兵が足りん! あと2000、いや1000でもいれば凌げるのに!」

そう歯噛みするダダルインさんの元に、伝令が駆け込んで来ます。


伝令の内容は、砂漠の外で戦っていたマサト殿が援軍に駆け付けたとの事で、ダダルインさんの顔が途端明るくなります。


オークシャーマンを死霊術で従属化させた後、指揮を執っていたオークシャーマンを連れて転移魔法でゲート開き防塁の戦況を確認に来たところ、既に防塁の一部が突破され外での戦いも始まっている状況です。


アッサリと防塁を抜かれていることに驚きはしたものの、放置する訳にも行かず防塁の外にあふれた魔物の群れに飛び込み斬りかかりますが、急に現れた大型のフォレスホースと自分に魔物の群れの動きは一瞬止まりますが、即座に敵と認識し襲い掛かってきます。


自分はラルから降りるとアイテムBOXから大剣を出し、日本刀から武器を大剣に替えて群がる魔物を薙ぎ払います。

防塁の上に居る魔物にはオークシャーマンが魔法を撃ちこみ牽制をしている影響か防塁の外にあふれた魔物も数を減らし、兵士達も魔物を押し返し始めます。


暫く、魔物の数を減らした後、防塁の上に飛び乗り防塁上の魔物を追い落とします。

突破された防塁の魔物を殲滅すると、即座に兵士がやってきて防衛を始めましたので、自分はそのまま防塁の内側に飛び込み積みあがった魔物の死骸をアイテムBOXに収納し魔物の足場を無くしながら大剣を振るいます。


防塁に登る為の足場を失った魔物達には、上から降り注ぐ矢や魔法が降り注ぎ、防塁の内側にいる魔物はその数が目に見えて減ってきます。

恐らくゾルス達ゴブリンが砂漠側に居る魔物をあらかた追い散らしたのでしょう。

門を抜けてくる魔物も居なくなり、防塁には動かぬ屍となった魔物と、それを見つめる兵士と冒険者だけになります。


「勝ったぞ~!!」


そう誰かが叫ぶと防塁を警備していた兵士全員にその歓喜の声が伝播し防塁の上では仲間と抱き合うもの、お互い肩を叩き合う者など様々な形で全員が勝利を噛み締めているようです。


そんな兵士達をしり目に、転移魔法でゾルス達の所に向かい、防壁外の魔物の処理を指示し、指揮所に向かうと、指揮所ではダダルインさんをはじめ各指揮官クラスの人や幕僚の人も各々勝利に沸き立っていました。


「ダダルインさん、とりあえず防衛の成功おめでとうございます」

「ああ、マサト殿、先程は助かりました、防塁を突破されて万事休すかと思いましたが、マサト殿が駆けつけてくれたおかげで魔物が領内に入ってしまうのを防げました」


そう言って笑顔で握手を求めるダダルインさんと握手をしますが、さっそく本題に入ります。


「それでダダルインさん、喜んでいる水を差すようで所申し訳ないんですが、魔物の群れを指揮していたオークシャーマン死霊術で従属化させたんですが、あまり状況は良くなさそうなんですよね…」


そんな自分の言葉にダダルインさんの顔が引き締まり、話の先を促します。


「どうやら今回砂漠を越えて来た魔物は砂漠の先にある大地で争いに負けて逃げて来た魔物の群れのようなんです」

「争いに負けた? それはどういう事ですか」


「はい、どうやら砂漠の先にある大地では力ある魔物や魔物を従える能力を持つ魔物が跋扈し大きな群れを形成し縄張り争いを繰り広げているようです」

「縄張り争いですか…。 今回はその縄張り争いに敗れた魔物が新たな土地を求めてやってきたと?」


「まあそういう事になりますね、なので今後も縄張り争いに負けた魔物が砂漠を渡ってくる可能性があります」

「なんと。 それでは今後もこのような戦いが起きると?」


「そうなりますね、その上、従属化させたオークシャーマンの話では、砂漠の先にある大地には多くの遺跡があり、その遺跡にある魔道具を使う事で魔物が本来持ちえない力を扱えるとか。 今回魔物の群れを指揮していたオークシャーマンも遺跡で手に入れた魔道具を使い多くの魔物を使役していたようですし」

「な、なんと…。 それでは魔物が本来以上の力を得て砂漠を渡って来る可能性があるという事ではありませんか、このような襲撃が再度あれば守り切れる保証は…」


「ですよね~。 毎回自分達も援軍に来れるか分かりませんし、とりあえずゴブリン軍団の損害状況を確認したら砂漠を渡ってみようかと思ってますが」

「砂漠を渡る? まあマサト殿なら可能かもしれませんが、渡っていかがされるのですか?」


「まあ砂漠の先にある大地がどんな所かをこの目で見るのと、目の前に脅威が無いかの確認ですね」

「そうですか、我々では砂漠を越えて戻って来るのは困難ですが、マサト殿の転移魔法があれば帰って来るのは楽ですからな、確かに確認に行かれるのには最適ですが…。 それよりもマサト殿、先程魔物を使役する魔道具と申しておりましたがその魔道具は何処に?」


「ああ~、その魔道具なんですがね、逃げる魔物に踏みつけられて完全に砕けて壊れてたんですよ」

「そうですか、魔物を使役できれば、砂漠を越えて来た魔物を使役し押し返す事も出来ると思ったのですが…」


そう言って落胆するダダルインさんですが、うん、実は壊れてはいないんですよ。

まあ預けても良いんだけど、この魔物を使役する魔道具って使い方によったら思いっきり戦争の道具になるんだよね。


今は良くても、10年後、50年後に悪意を持って使われないとも限らないし、壊れてたって事にしておいた方が丸く収まりそうだし。


その後もオークシャーマンから得た情報をダダルインさん達に伝達しましたが、何一つ良い情報は無く、危機感を煽る話ばかりの為、外で勝利に湧く兵士達とは異なり指揮所に居る人たちはお通夜のような雰囲気になっています。


うん、とりあえず、明日ゾルスに被害状況確認して、負傷したゴブリンを二ホン砦に戻したあとでラルに乗って砂漠を渡ってみよう。


ラルが全力で走れば3~4日ぐらいで砂漠を渡れるかな…。

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