第182話防塁攻防戦2
門を破壊し、第二防塁に雪崩れ込んだ魔物は出口の無い袋小路にはまり、兵士や冒険者が放つ魔法や矢を受け倒れて行きますが、その光景を恐れることなく次々と押し寄せてきます。
とは言え、元々築かれていた防塁と違い、自分が石材を使用し錬成術で作った防塁の為、足や指をかける隙間もない為、壁をよじ登る事も出来ず、防塁の下で犇めき合うだけの状態になっています。
兵士や冒険者達からしたら、投げつけられる魔物の死骸や、放たれる魔法にだけ気を付ければ良いだけの安全な防戦ですが、防塁の上は兵士や冒険者が大勢いる為、投げつけられた魔物の死骸をよけきれず怪我をするもの、また運悪く死骸が当たった事で防塁から落ちて魔物の群れの中に消える兵士も出てきます。
指揮を執るダダルインさんもその他の指揮官クラスの人も声を枯らして指示を出していますが、第二防塁の袋小路に犇めく魔物の数は一向に減る気配を見せません。
防塁の上の兵士達に気の緩みが出てきた頃、魔物の動きが変わり始めます。
防塁の真下に魔物の死骸を投げ、積み上げるようにしていきます。
どうやら死骸を足場にし防塁を登ろうという感じでしょうか。
そんな光景を驚きの表情で見ていたダダルインさんが慌てた風に大声て指示を出し、死骸を崩すように命じますが、防塁の上から積み上げられた魔物の死骸を崩す手立ても無く、徐々に積み上げられる死骸の山が出来て行きます。
「まずいぞ! 上位種が生まれ指揮を執りだしたかもしれん、あの死骸の山を崩さないと、あれを登って防塁の上に魔物が押し寄せて来る。 そうなると数で押し負ける…」
そんなダダルインさんの言葉に従兵が顔色を変えて慌てますが、ダダルインさんも従兵も打開策を見つけられず、積み上げられ次第に高くなっていく死骸の山をただ睨みつけ歯切りしします。
「もっと兵が…。 いや、突出した戦力があれば…」
一方、砂漠で分断に成功した魔物の群れとの戦闘を繰り広げるゴブリン達は、防塁を守備する部隊と比べ順調に魔物の数を削っていきます。
統率はされていても、獲物に向かって欲望のまま襲い掛かる魔物と、槍を揃え集団戦闘を繰り広げ、5匹一組で魔物と対峙するゴブリン達とではどちらが有利かは火を見るより明らかな状況で、じりじりと魔物の群れを押し込んでいきます。
時折、魔物の群れの中から魔法が放たれ、ゴブリン軍団に被害を与えますが、それ以上の魔法が、そして矢が魔物の群れに降り注ぎます。
外側からはゴブリン軍団による圧迫、内側は魔法により混乱し崩れるのも時間の問題と思われます。
そんなか、中心に固まっていたトロールが咆哮を上げ、群がるゴブリン達に向かって走り出します。
矢と魔法がトロールに集中しますが怯むことなく前進するトロールにゴブリン達をの前進する足が止まりますが、ゾルスが大剣を掲げてトロールに向かい、一匹斬り捨てると、ゴブリン達も喊声を上げトロールに立ち向かいます。
トロールが手に持つ太い木の棒を振りぬく度にゴブリンの体が宙を舞いますが、それでもゴブリン達は果敢に槍で刺し、剣で切りつけ、矢を放つ事でトロールを一匹、また一匹と仕留めます。
トロールの数が大幅に減り出した頃、後方に回り込んだバルタ率いる騎馬ゴブリンが魔物の群れに襲い掛かかかると、完全に魔物の群れは統率を失います。
大軍は一度崩れると立て直しが難しいとは言いますが、もしかしたら魔物を指揮していた魔物がバルタ達の突撃で討ち取られたのかもしれません、混乱をしていた魔物達が急に我に返ったように周りを見渡し、その後雪崩を打って逃げ出します。
急に背を見せ逃げ出す魔物達にゴブリンが喊声を上げて追撃し、後ろから槍で突き刺し、または剣で斬りつけ逃げ惑う魔物を確実に仕留めて行きます。
「ゾルス!! 追撃はもういいから、ゴブリン軍団を防塁の方に向かわせて! アルチ達は追いかけて強そうな魔物だけを間引いて!」
そう自分がゾルスとアルチ達に指示を出すと、ゾルスが咆哮を上げ、ゴブリン軍団に指示を出すと、追撃していたゴブリン達の足が止まり、各部隊ごとに集結を始め、500匹程の集団になると防塁に向かって走り出します。
砂漠での追撃戦は、どこまで追撃すれば効果的なのか分かりませんし、何より防塁の方はカウア達しか防衛にあたっている眷属は居ませんので指揮を執っている魔物が居る集団が壊走を始めたのならあえて追わず、防塁の守備を優先したほうが良さそうな気がします。
ゾルス達ゴブリン軍団が防塁に向け進軍を始めると、自分はラルを走らせバルタ率いる騎馬ゴブリンの元に向かいます。
とは言え背を見せて逃げる魔物を追い抜きながらバルタの所に向かうので、行きがけの駄賃代わりに手近な魔物を後ろから斬り捨てながら進みます。
バルタの元に到着すると、バルタ達騎馬ゴブリンは追撃をするでもなく、かといって逃げる魔物を塞き止める訳でも無く、壊走する魔物に側面から突撃し反対側に抜けると、再度突撃をするという感じで一撃離脱の襲撃を繰り返していました。
「バルタ、指揮していた魔物はどんな魔物だった?」
バルタに近づくと共に声をかけると、バルタは部下たちに突撃の継続を指示した後に自分と轡を並べます。
「申し訳ございません、指揮を執っていた魔物と言うのは見かけられませんでした。 ただ、後方にオークの一団がおり、その一団の周りを更に魔物が固めておりましたのでまずはそこを攻撃しましたが…」
「そうなんだ、そのオークの一団が居たのってどの辺り?」
バルタにオークの一団が居た場所に案内をして貰うと、逃げる魔物に踏みつけられてでグチャグチャになった状態ではありますがオークの死骸が多数横たわっています。
そんな中で一匹だけ毛皮の服を何枚も纏い、骨で出来た装飾品を身に着けたオークの死骸があります。
「バルタ、このオークは?」
「はい、おそらくオークシャーマンかと思いますが、オークにしては身体つきが細く背丈も一回り程小さいですな、まだ若い個体か、それとも進化して小型化したのだろうかと…」
そう言ってオークシャーマンと思われる死骸を見分するバルタですが、オークが大量の魔物を指揮または使役する事なんてあり得るのでしょうか?
「マサト様、この死骸は損傷こそありますが、死霊術で操る事が可能ですぞ?」
「死霊術か…。 確かに普通のオークに比べ見栄えも悪くないし、砂漠の先にある大地の情報を聞くのには持ってこいだけど…」
そんな事を思いますが、現状では情報が不足しており仮にこのオークが指揮を執っていた魔物でなくても貴重な情報が得られるかもしれません。
ラルから降り、オークシャーマンの死骸に歩み寄ると、一旦深呼吸をした後、死霊術を発動しおーくます。
ボキボキ、バキ…。
音を立てて折れた腕などが元に戻り、動き出したオークシャーマンが片膝をついて自分にこうべを垂れます。
「わが主、何なりとお命じください」
そう言って指示を待つオークシャーマンに、今回発生した魔物の群れの主と砂漠の先にある大地について質問をします。
質問に答えるオークシャーマンですが、その話を聞くにつれ冷たい汗が背中に流れます。
いやいや…。
いくらなんでもそれは無いでしょ。
ていうかありえなさすぎる、これが争いに敗れて逃げて来た魔物の集団って、砂漠の先の大地はどんな事になっているんだよ。
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