第70話 死に戻りの魔法学校生活 - 01 -
「すみません。ちょっとお時間、あったりしませんか?」
声をかけた相手が、美しい金髪を靡かせて振り返る。
オリアナは瞬時に、しまったと思った。
人気の無いラーゲン魔法学校の中庭に、二人の生徒が立っていた。
振り返った人物は端整な顔立ちを、驚愕に染めている。まるで幽霊でも見たかのような、信じられない出来事が起こっているかのような表情だ。
(馬鹿。なんでこの人に声かけちゃったんだ……)
声をかける人物を見誤ってしまった自分に、オリアナは驚いていた。後ろ姿だったため、誰かわからなかった――なんて愚の骨頂である。
もう少しこの悪いおつむを動かせ、観察力を養っていれば、相手が誰かなんて猿でもわかっただろうに――
「どうした」
あちゃあ、と眉を下げていたオリアナに、声をかけた人物――ヴィンセント・タンザインは一足飛びで近付く。
三年生ともなれば、男女で十分な体格差が出る年頃である。背の高いヴィンセントに間近に立たれ、突然の圧迫感と気品に圧倒されたオリアナは、冷や汗を垂らした。
同じ魔法学校に通うヴィンセントは、オリアナと同学年の男子生徒だ。
魔法学校に通い始めて三年が経つが、オリアナとヴィンセントに「同じ学年」以外の接点はまるで無い。
眉目秀麗でいて、品行方正で成績優秀な公爵家の嫡男のヴィンセントと、見た目も成績も家柄も、ひいき目で見てほどほどなオリアナ。接点があるほうがおかしかった。
(そんな高嶺の花に、気安く話しかけてしまった……!)
ぐるぐると目を回しながら後悔していたオリアナに、ヴィンセントは優しくさとすような口調で言う。
「落ち着いて。何があったんだ?」
胸にストンと落ちる声だった。
とびきり優しく、応援するかのような声に促され、オリアナは怖々と口を開いた。
「助けて、いただきたくて……」
「もちろんだ。何をすればいい?」
遠慮がちに頼んだオリアナに、ヴィンセントは即答した。
(話したの、初めてなのに……)
それどころかヴィンセントは、オリアナのことさえ知らないだろう。オリアナは、彼が有名だから知っていただけだ。顔の広さには定評のあるオリアナだが、同じ学年の全ての生徒を知っているわけでは無い。
なのにヴィンセントは邪険にすることも、怯むこともなく、学友に救いの手を差し伸べた。驚いて、一瞬ぽかんとしたオリアナだったが、すぐに頭を下げた。
「ありがとうございます、タンザインさん!」
一瞬、息を呑んだような気配があった。
しかしオリアナが頭を上げた時、ヴィンセントは完璧な笑顔でこちらを見ていた。
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