第47話 星の守護者 - 03 -
「よっ、オリアナ」
校舎を出て、デリクと並んで東棟へ向かっていると、中庭を歩くミゲルに声をかけられた。
「ミゲルじゃん! やっほ。何持ってるの?」
オリアナが持っているレポートの束にミゲルも興味津々なようだったが、すぐに口に咥えた飴の棒を揺らして笑う。
「聖剣。岩に刺さってるのぶち抜いてきたんだ」
「なにそれ、強そう」
「いいだろ」
にっと笑うミゲルは、片手に掴んだ二本の木剣をゆらゆらと揺らす。
「もしかして、マハティーンさんの試練に挑むのかい?」
オリアナの隣に立っていたデリクが、目を輝かせてミゲルに問うた。
「俺、いつの間にか砂漠の王女を籠絡した、伯爵家の放蕩息子らしいから」
他人事のように面白がっているような口ぶりのミゲルに、オリアナが笑った。
「貴方とヤナのお噂はかねがねよ。ミゲルは既に結婚指輪を渡してるとか、アズラクの目を盗んで頻繁にデートを重ねてるとか」
「そりゃすごい。ザレナの目を掻い潜る実力があるなら、諜報員として重宝されるな」
「僕は既にマハティーンさんのお父上から、本国に呼ばれてるって聞いたな」
「呼びつけられるのは、どこの父親でも嫌な話だ」
デリクの話に、ミゲルは初めて顔を曇らせた。
「どうしたの?」
「父に呼ばれてたんだよ。街に出てた」
ラーゲン魔法学校の生徒は外出許可さえあれば、街に出ることが可能だ。基本的には休日に限られるが、理由があれば平日の外出も許可されていた。
ラーゲン魔法学校がある時期は、大抵の貴族も領地から王都へと出向いてきている。フェルベイラ伯爵も、王都の住まいにいるのだろう。
「呼び出し食らうような何かをしちゃったの?」
「放蕩息子に、お灸を据えに?」
「――まさか、ミゲルのお父様にまで噂が? しかも、噂を信じちゃってるの?」
オリアナが唖然として尋ねると、ミゲルは口の端をつり上げた。
「うちのお父ちゃまは、噂さえあれば十分だからな」
つまり、煙があるところに火をたたせようとしているのだ。
「えっ、じゃあ、今から試練に行くの!?」
「そう。まあ一回勝負しとけば、うちの親父も諦めるだろ」
負けるのがわかっている口ぶりだった。それも仕方無い。アズラクはこれまで誰にも負けたことが無い。
「ええええ、見たい!」
「俺が無様にザレナに踏みつけられるところを? オリアナ、俺のこと応援してよ?」
「応援するする。ねえ、いつやるの?」
「今から。さっさと終わらせたいからな。昼休み中にやるよ。丁度いいところにオリアナ見つけたと思ってさ。ヤナ達が今どこにいるか知ってる?」
それで声をかけてきたのか。オリアナは肩を落とした。今からオリアナは女子寮に戻り、レポートを持って東棟へ行かなくてはならない。決闘は見られないだろう。
「残念……私が別れる時までは、食堂にいたよ。右側の窓際のところ」
「あんがと。んじゃーな」
ミゲルは二本の剣を肩にかけると、ひょいひょいっと大股で走り去った。
「見たかったね、決闘」
「ね~」
デリクとオリアナは小さくぼやいて、女子寮へと向かった。
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