私は銀行に向かった。銀行は国道沿い──新聞社から四百メートルほど離れた郵便局の前にあった。コンクリート二階建ての、色気のまったくない外観だった。関係者専用の地下駐車場があったが、入口は爆弾でもびくともしないような、硬い門で閉ざされてあった。入るには専用のIDが必要らしかった。内装は当たり障りのない簡素な造りだった。昼飯時だったので、客は少なかった。やくざ紛いな風貌の警備員が数名屯していた。彼らは無遠慮に、私に警戒の目を投げかけていた。

 運よく現金出納係補佐の上野凛うえのりんという男を捕まえた。二十四、五の血色のいい青年だった。同性愛者が好みそうな顔立ちをしていた。

 私は用件を伝えた。

「ええ、ゆうべ上田さんの小切手の保証手続きをしました」彼はいった。「龍崎琴美りゅうざきことみさん宛てに、額面は五十万円でした」

「その龍崎ってのは、何者なんだね」

「この町で、ちょっとした民宿を営んでいる方です。四年ほど前、東京から越して来られたんです」はにかみ、声をひそめた。「ものすごい美人さんですよ。若い連中の間で、彼女でヌかないやつはインポだって評判がたつぐらいのね」

「ほう! そいつは一度お目にかかりたいな」私は下卑た笑みを浮かべた。声の調子はそのままに、続けた。「で、彼女はこの銀行に口座を持っているのかい」

「はい。今朝がた、その小切手を振込にきたそうです。まあ、警察に差し押さえられましたが」

「なるほど。それで、彼女の民宿というのはどこにあるんだい」

「国道をずっと直進して、峠を越えたところに。〈リゾナーレ〉って看板が立っているはずです」

「ありがとう。仕事の最中にすまなかったね」そういって、私は警察署に向かった。

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