9
私は銀行に向かった。銀行は国道沿い──新聞社から四百メートルほど離れた郵便局の前にあった。コンクリート二階建ての、色気のまったくない外観だった。関係者専用の地下駐車場があったが、入口は爆弾でもびくともしないような、硬い門で閉ざされてあった。入るには専用のIDが必要らしかった。内装は当たり障りのない簡素な造りだった。昼飯時だったので、客は少なかった。やくざ紛いな風貌の警備員が数名屯していた。彼らは無遠慮に、私に警戒の目を投げかけていた。
運よく現金出納係補佐の
私は用件を伝えた。
「ええ、ゆうべ上田さんの小切手の保証手続きをしました」彼はいった。「
「その龍崎ってのは、何者なんだね」
「この町で、ちょっとした民宿を営んでいる方です。四年ほど前、東京から越して来られたんです」はにかみ、声をひそめた。「ものすごい美人さんですよ。若い連中の間で、彼女でヌかないやつはインポだって評判がたつぐらいのね」
「ほう! そいつは一度お目にかかりたいな」私は下卑た笑みを浮かべた。声の調子はそのままに、続けた。「で、彼女はこの銀行に口座を持っているのかい」
「はい。今朝がた、その小切手を振込にきたそうです。まあ、警察に差し押さえられましたが」
「なるほど。それで、彼女の民宿というのはどこにあるんだい」
「国道をずっと直進して、峠を越えたところに。〈リゾナーレ〉って看板が立っているはずです」
「ありがとう。仕事の最中にすまなかったね」そういって、私は警察署に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます