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 私は席を立ち、バーに向かった。バーには牧村の一団がいた。彼らは騒がしかった。私はカウンター席に行き、バーテンにブランディを頼もうとした。

「おい」カウンターにもたれかかっていた、ひょろ長い男が声をあげた。「酒は出すな」

「なぜだ」私は口角を吊りあげた。「ここはバーだろう? 呑ませてくれよ」

「見てわかるだろう。貸切だ」ひょろ長い男はいった。派手な金髪以外、のっぺりとした顔つきだった。「かえれ」

「悪いが、あんたがたの法律に従うつもりはないよ」

「意味わかんねえこと言ってんじゃねえよ」ひょろ長い男は私に詰めより、キスができそうなほど身体を近づけた。わけのわからない奇声をあげる。威嚇しているらしかった。

「息が臭いよ、離れてくれ」私は笑った。

 男は私の腹に膝を入れた。大した威力はなかったが、私はよろめいた。次いで腿に蹴り。また詰めよって威嚇。「かえれ!」

「やだね」

 男はポケットから拳を抜き、大きく振りかぶった。私は脚を引いて躱し、顔面にワン・ツーをくわえた。男はのけぞった。私は腕をつかみ、投げた。床に背を打ち、男は涙ぐんだ呻きを洩らす。懐から拳銃を取りだし、銃把をのっぺりとした鼻頭に叩きこんだ。鼻血が噴き出て、男は黙った。

 私は微笑みをつくって、バーテンに床を汚したことを詫びた。窓側の席を見ると、牧村の一団が殺気立っていた。私は表情を変えず、

「わかったよ、そこまで言うなら部屋で呑むよ」

 といって、部屋に戻った。

 部屋に戻ると、シャワーで身体を洗った。ほぼ全裸で本を読んでいると、チャイムが鳴った。急いで浴衣を羽織った。ドアを開けると、従業員の女性がブランディの瓶とメッセージ・カードを持っていた。私はそれらを受けとって、チップすこしを握らせた。従業員はにっこりとして去っていった。

 瓶をテーブルに置き、椅子に坐ってメッセージ・カードを読んだ。松永からのものだった。明日朝八時半に訪れる、朝食を一緒にとりたい、という内容だった。

 私はカードをテーブルに投げ、戸棚からグラスをだしてさっそくブランディの蓋を開けた。上物だった。煙草と読書をあわせて愉しんだ。就寝前の読書はこうやって読むに限る。六杯ほど呑んで、ベッドに身を投げた。照明のスイッチをさぐる。なにかが床に落ちた。なんとか灯りを消すと、掛布団にくるまって眠った。

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