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宿泊先は、峠を二つほど越したところにあった。ゴルフ場併設のホテルだった。ほかの客といえば金持ち風な身なりの人間ばかりだった。部屋は三階の二等室だった。涼しげなバルコニーがついていて、そこからはゴルフ場と豊かな山々が一望できた。
松永はスーツケースをおろすと、懐から名刺を取りだした。
「何かあったら、ここに連絡をください。町へ出たいなら、フロントに申しつければ車が出ます。酒はあとでお運びしますが、一階にもバーがあります。その際には、ああ──」
松永は私のスーツケースから平たい箱を取りだした。私はすこし揺らした。金属質な音がした。
「その際には、銃をお忘れずに。ここは比較的安全とはいえ、この町を出たわけではありませんので」松永は上着を脱いだ。空のショルダー・ホルスターを外し、「これもどうぞ。裸で持ち歩くのは、さすがに顰蹙を買いますので」
私は受けとって、さっそく身に付けた。少々きつかったが、ないよりはましだった。
「銃だが」私は訊いた。「もうすこし厳ついやつはないか? 商売柄、脅されることもしばしばだし、脅すこともある」鞄から拳銃をだす。「それにはこいつはちと可愛すぎる」
松永は微笑んだ。「わかりました。あした持ってきます」
「それと、
「大丈夫です、それも用意します」
松永は出ていった。私はバルコニーへ出て、椅子に腰をおろして煙草を吸った。田舎の日の入りは早い。夕陽が空を山吹色に染め、山並みはずんと黒かった。ゴルフ場を見ると、まだプレイしている組が二、三いた。ナイター照明がついた。上空を、カラスが群れをなして飛んでいる。この町が本性を剥き出しにする時間がやってきた。
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