堕天した俺は全人類に対して復讐を誓う

楽樹木

堕天


この世界には大きく分けると3つの種族が存在する。

天地を創造した天神の末裔と言われる天使族

秩序を生み出した邪神の末裔と言われる魔族

天神と邪神が共同で誕生させた最初の生命体の末裔と言われる人間族


見た目はさして変わらない。

天使族は翼を有し

魔族は角があり

人間族は翼も角もない


太古はどうであったか定かではないが、現在の認識では

天使族は魔族を敵視し人間族を見下し

魔族は他種族干渉を避け

人間族は天使族は敬い魔族は廃する

それが一般的である。


ある時、天使族が治める地で大事件が起こる

天使族序列一位、熾天使ルイスが魔族の娘と恋に落ち魔族の娘は子を成した。


天使族が魔族と交わるなど禁忌中の禁忌であり、天使族の王である天王ゼウルガルはこれに激怒

ルイスを天使族の敵、討伐対象サマンと改名し全天使族へサマン抹殺命令を下した。


天使族の精鋭に囲まれ、妻と一歳にも満たない子を背に庇いながらルイスは言った。


「罪は甘んじて受け入れる。ただ、私の命と引き換えに妻と息子にだけは手を出さないでほしい」


ルイスが全力で抵抗すればいかに精鋭といえども良くて半壊、下手をすれば全滅もあり得る


ルイスが抜け、天使族序列二位より一位となった熾天使ミラエルはその要求を受け入れ炎の剣によりルイスの天核は貫かれ絶命し

残された妻と子は強制転移魔法により魔族領の入り口へと送られ事件は幕を下ろした。






事件から五年の歳月が経った。

魔族領内の端にある、魔族が暮らす小さな村

そこに一組の母子が暮らしていた。


母は懸命だった。

他種族干渉を嫌う実家に頼る事もできず、名家である身分を隠しその身一つで行う子育ては苦難の道であったが、気立てのいい娘に村の人々は親切であった。


母は子の背に生える純白の翼をひた隠し

それでも平和に暮らしていたが、いつまでも隠し通せるものでもない。


日中に外に出すわけにはいかない我が子を、村人が寝静まった頃に連れ出し遊ばせる。

家の中でも帯で締め付け見えないようにしている翼を存分に羽ばたかせ、笑顔で外を駆ける子を眺める愛しいひととき

それを村人の一人に見られてしまった。


翌日には話は村中に広まり、厄介事を持ち込んだと、出て行けと、石を投げられる。

あんなに親切にしていた村人がである。

それ程までに種族間の確執は深かった。



母は石をぶつけられ、頭から血を流しつつも子を庇い、涙ながらに言う



「クロノス、ごめんね‥ごめんね‥辛い思いばかりさせて、ごめんね」



魔族領にも居られなくなった母は魔族の象徴たる自身の角を折り、人間族が治める地へと向かう。


魔族の角は魔族の心臓たる魔核と直結しており、これを折ると死を懇願する程の激痛と共に身体能力が著しく低下し、魔力循環も滞る事から折ってより10年から15年で身体は機能を停止する。



それでも母は自身の角を折った。



愛する我が子がせめて独り立ちできるようになるまでは、私がこの子を‥その一心で






さらに五年の歳月が経った。

母は子を、知り合いから預かっていると偽り、人間族領の街の一つである城塞都市へ身を寄せていた。


スラムに近い一画ではあるものの、貧しいながらも幸せな暮らしであった。

そう、この日までは‥


クロノスはスラム地区に住まう天使族として認識され、それはどう考えても訳有りとしか言いようがなく、周りは腫れ物を扱うかのごとく接し、話し相手などいない。

それでも愛情をたくさん注いでくれる母との暮らしは幸せであり、朧げに覚えている魔族領での暮らしよりも窮屈さは無く、充実したものであった。


この日も一人で森に入り、食べられそうなものを識別し籠に詰めていく。


ふと空を見上げると翼を生やした少女のような影が見えた。


「天使族‥」


クロノスは少し前に母から自分の父の事を教えてもらっていた。

父が命を賭して守ってくれた母と自分の命。

そんな父の想いを無駄にしない為にも天使族とは関わらないように言われている。

恨みが無いと言えば嘘になるが‥


よくない考えに向かいそうな頭を振ったところで野苺を見つけた。


「母さん、野苺好きだったよね」


嬉々として野苺を摘んでいく。




その頃、母はパン屋での仕事を終えたところであった。


元々は日雇い清掃の仕事をしていたが、パン屋の店主がその美麗さに目をつけ清掃の仕事の五割増しでの日銭を提示し、売り子として引き抜いた。

売り子としてだけが目的かは‥


今日は初日であるが、目論見通り見た目に惹かれた客が押し寄せ、ずいぶんと早く店仕舞いとなった。


「お疲れ様、どうだい?この後一杯」


店主は色欲に染まった目で問うが


「すみません、同居人がそろそろ帰ってきますので食事の準備がありまして」


店主は、まだ時期相応であったか‥これから懐柔していけばいいと考え、せめて己の欲を鎮めるためにと着替えを覗く事にした。


「ぐへへ、いい身体してやがる」


その時に目撃してしまう。

普段は髪飾りで隠している角が折れたその跡を


「ま、魔族‥」


人間族領において魔族には懸賞金がかかっており、首を差し出すだけでパン屋の売り上げの3ヶ月分は超える。

本来は角が魔力媒体として有用である事からなのであるが、それを店主は知らない。


嫌らしい笑みを浮かべながら、店主は金で動くゴロツキのもとへと向かった。




夕刻となりクロノスは家へと帰った


「母さん、ただいま。今日は森で野苺を見つけたから摘んで‥」


「ああ?何だこのガキ?」


あたり一面に赤が散っていた。


赤く赤く赤く紅い室内。




そこには凌辱され、蹂躙され尽くした首のない母親の身体と、




下卑た笑みを浮かべながら髪の毛を掴んで母親の首をぶら下げた男達が‥









「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああッ!!!」









生命感知能力者がこの場にいれば、驚くべき報告をしたであろう。


今では砂と瓦礫のみではあるが、この城塞都市において生命反応はたったの一であると。


一人の真っ黒な翼を背に生やした少年が魔族の女性の頭を大事に抱え、涙ながらに呪詛を吐き出す


「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる、父さんを殺した天使族も‥母さんを捨てた魔族も‥母さんを殺した人間族も、‥‥‥殺し尽くしてやる」






かつて、天使族最強と謳われた男の血を引く子供がこの日

——————堕天した
















※※※※※※※※※※※※※※※

続く‥かも?

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