第15話 ルベラルバス・サーガについて
「るべらるばす・さぁが?」
キョトンとするユグルスに、内側にいるラファとフレナも驚きを隠せない。
【なんと!】
【なん、だって?】
ラファが珍しく慌てて言う。
【シャイン、これは……ただの世間知らずと言うわけではなさそうだぞ? お兄さんが説明するから、早く宿屋に戻りたまえ!】
ラファの意見に賛同するように、シャインが言う。
「……宿屋に戻るぞ。話はそれからだ」
「? は、はい!」
未だ困惑の色を隠せないユグルスを連れ、宿屋に戻った。
****
宿屋に戻ると、すぐに部屋に入る。今回の宿はリルの町が豊かだからか、少し豪華で二部屋とダイニングつきだ。
ダイニングのテーブルに向かい合うように座ると、シャインはラファと入れ替わった。
「さてと! それじゃ、もう一度聞くけれど
……ルベラルバスを知らないんだね?」
ちくり。と、胸にわずかな違和感を感じながらも、ユグルスは頷く。
「……となると、やはり妙だね。まぁ記憶喪失の時点で元々妙なんだけれども! 更に妙になったというか、深まったというか……」
「……あ、あの! そんなに有名なのですか?」
ユグルスの言葉に、ラファは頷く。
「ユスティティア連合国及び協定を結んでいる国……つまりはほとんどの世界の者が知る、大英雄さ!」
「大英雄……」
新米とはいえ、冒険者になり旅をしてきたからこそわかる、その言葉の重み。ユグルスはゴクリと唾を飲み込んだ。
「とりあえず、キミの謎については後でゆっくり考察することにして、ルベラルバス・サーガ。伝説の大英雄の話をしようか!」
ユグルスが緊張した面持ちで頷く。コホンと咳払いをすると、ラファは語り始めた。
「ルベラルバス、またの名を”灼熱のルーベ”。彼は、ある日突然どこからともなく現れ、当世のユスティティア王国を襲った大きな魔獣を打ち倒したと言われている。
そして、各地を転々としながら魔獣達を打ち倒していき、ついには、その魔獣達を使役して、他の国々を支配しようとしていた当時のフェイラス帝国の皇帝マウーロと、その部下達をたった一人で滅ぼし、世界を救ったと言われている」
ちくり。また、ユグルスの胸が痛む。
「……”灼熱”……」
「なんでも、赤い髪に赤い瞳をしていたからそう呼ばれていたとか。偶然にも、シャインと同じだね!」
【……うるさい】
内側でやり取りをするラファとシャイン。
「ああ、ちなみに。これまた偶然なんだけれど、彼は双剣使いだったと言われている。それも、両方とも名のある聖剣だったとか!」
【だから、うるさい】
内側で反論するシャインに、ラファは苦笑する。
(”灼熱”……双剣? 違和感がある。それに、皇帝マウーロ?)
『聖剣だと? 冗談にもほどがある!』
「!?」
(なに? 今のは?)
先程から感じていた妙な違和感どころか、妙な記憶が現れ困惑するユグルスに、更なる記憶がフラッシュバックする。
業火の中。崩れ落ちる建物、そして……[???]と呼ばれる装置。
『おやめ下さい! ……上!!』
その装置に拘束され、動かせない身体を無我夢中で動かす。
『こんなこと、こんなこと望んでなどいないはずです!……上!! 父上!!』
「……ちちうえ……?」
ユグルスからこぼれ落ちた言葉に、ラファが反応する。
「父上? もしや記憶が? ユグルス?」
「……うぅ」
頭をおさえながら、ユグルスはこくりと頷く。
「断片的なので……すが……うぅ……頭が……!」
苦しげなユグルスに、ラファは冷静に考える。
「まさかルベラルバス・サーガで記憶の手がかりがとはね……。ユグルス、キミはやはり特別なのかもしれない」
「……とく……べつ?」
水を渡しながら、ラファは頷く。
「そうとも! キミは……もしかしたら私達が考えている以上の存在なのかもしれない!」
【だが待て! ユグルスの正体とアタシ達の呪いがどう結びついているかはわからんだろうが! 無駄かもしれんぞ?】
珍しく声を荒らげるシャインに、
【シャイン。確かに私達の呪いの手がかりにはならないかもしれない。だけれど、それが無駄かどうかはまた別問題さ! それに私の大魔術師としてのカンが関係あると言っているのさ!】
【……ボク、も。遺跡で目覚めた、って言うのが、気になる。ボク達の呪い、も、遺跡でかけられた、でしょ?】
二人の言葉にシャインは、
【……エルフと大魔術師様のカンときたか。……いいだろう。信じるとしよう。ユグルスとアタシ達の呪いが繋がっていると】
「あ、あの? ラファさん?」
ユグルスに呼ばれ、ラファが笑顔で話す。
「ふふ、なに! いつものやり取りさ! 気にすることはない! それより調子はどうかな?」
ラファに言われ、ユグルスは全身を動かし、
「大丈夫そうです! ありがとうございます!」
「それはなにより! さてと、そろそろ食事時だね。一旦休憩にして……交代かな?」
そう言うとラファはシャインと入れ替わる。
「……食事に降りるぞ」
「……はい!」
笑顔で返すユグルスに、シャインは愛想ない顔で、
「行くぞ」
それだけ言い、部屋を出る。ユグルスも優しく扉を閉め、後に続いた。
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