第14話 それぞれの時間

 結局、奥さんとの話の方が長くなってしまい、ユグルスが解放されたのは日が暮れ始めた頃だった。


(はぁ……つ、疲れたよぉ……)


 ほとんど奥さんの独壇場だったため、ユグルスは話を聴くだけだったのだが、それ故に精神的に疲れてしまったのだ。


 部屋から出ると、店主が苦笑いをしながらユグルスに声をかける。


「おう! ありがとうな坊ちゃん! ほい、今回の報酬だ! 受け取ってくれや!」


 そう言うと、五ティアと可愛らしい飴玉をもらった。お小遣い程度の金額だが、ユグルスは気にすることは無く、むしろ遠慮気味にありがたく受け取った。


「あ、ありがとうございます! あの……それでシャインさんは?」


「ああ、あの姐さんかい! もう少しで終わるってさっき出てきて言って来たよ!」


「そうですか! わかりました! それじゃ、少し待ってみますね!」


 そう会話を終えると、ユグルスはシャインがこもっている工房の入口付近で待ち始めた。立って待つのは大変だろうと、店主が椅子をくれたので、それに座る。


(シャインさんの武器って、こんなに時間かかるんだな……。大変だな……)


 そんなことを考えていると、工房の扉が開き、シャインが出てきた。


「……待たせたな」


 珍しく少しだけ申し訳なさそうなシャインに、ユグルスは微笑む。


「いえいえ! 大事なこと、なんですもんね! オレはいくらでも待てますよ!」


 そう言う彼女に、シャインは、


「……そうか」


 一言だけ言うと、店主に料金を支払い、武器屋を後にした。


 ****


「それにしても、シャインさんの武器はとてつもなくメンテナンスに時間がかかるのですね!」


 宿屋への帰り道、そう言うユグルスにシャインは面倒くさそうにしながら、


「……確かに銃弾などは手間だが、ラファに協力させているから楽だ。……工房一つ丸ごと借りたのは弾薬の補充もだが、フレナとラファの武器のメンテナンスも込みだ。だから、時間がかかる」


 シャインの説明にユグルスは納得する。


「なるほどです! でもやっぱり、大変なのですね……!」


 そんな会話をしていると、広場から詩が聴こえてきた。


「……こうして、大英雄ルベラルバスは見事に討ち取ったのです!」


 詩人が詩に合わせて言葉を紡ぐ。その様子をみたユグルスは、


「詩人……ですか? なんの詩なんでしょう?」


 首を傾げるユグルスにシャインが珍しく表情には出さないが動揺する。


「……お前、ルベラルバス・サーガを知らないのか?」

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