第16話 ユグルスの謎

 食事を終え部屋に戻ると鍵を閉め、シャインはラファと入れ替わる。


「さてと、お腹いっぱいで眠くはないかな?」


「は、はい! 大丈夫です!」


 元気に答えるユグルスにラファは嬉しそうに微笑むと、


「それじゃあ、改めて! ユグルス、キミの謎について考えていこうか!」


「よろしくお願いします!」


 そう言うと深々と頭を下げるユグルスを椅子に座らせ、ラファも椅子に腰掛ける。


「ではまず、キミが目覚めたのは遺跡だったね?」


「は、はい! その通りです!」


「そして、記憶喪失になっていて、かつ身体も普通ではなかったと……。それらに気付いたのはいつなんだい?」


 ラファの問いかけに、ユグルスはわずかな記憶の糸を辿る。


「ええと……遺跡で目覚めて。裸? だったと思います。……で、ここはどこなんだろう? ってなって……それから記憶がないことに気づいて……身体の方は、服がないか探している時に破片で切って……あれ? 血が出ないってなりました」


 ユグルスの説明を聞いたラファは、


「ふむ。なるほど。以前より記憶が鮮明になっているのはいいこととして……やっぱり不可思議な状況だね! 裸ねえ……。記憶についてはある程度の常識的な事は覚えていた感じかな?」


 ユグルスはこくりと頷く。


「うんうん! となると……何が欠落しているのかを探って行くのも必要そうだね! まぁ、それはおいおいやるとして……。現状として。一番興味深いのは、常識的な事はある程度認識出来ているのに、我々ユスティティアに生きる大半の者が知っているルベラルバス・サーガを知らないこと。そして、謎の文字が読めること。かな?」


 ラファの言葉にユグルスは頷きながら、食事前に感じた違和感について話しだした。


 ****


 一通り聞き終わったラファは、


「うーん! まさかルベラルバス・サーガ自体に違和感を感じる者がいるとはね! サーガ自体知らなかったのにだ。不可思議だねぇ。聞けば聞くほど不可思議だよ!」


【関心している場合か?】


【これ、じゃ。わからないことが、沢山ありすぎて……】


 困惑する二人の声を聞きながら、ラファはどうやら落ち込んでしまったらしいユグルスに優しく声をかける。


「なに! 落ち込むことはないさ! それより、わかっていることとわからないことが明確になったんだ。それだけでも十分な成果だと、私は思うね!」


 そう言われ、ユグルスが伏せていた顔をあげる。


「うんうん! 女の子は落ち込んでいるより笑っているほうが素敵さ!」


【……ほう?】


 怒気を含んだ声が聞こえてくる。ラファは冷や汗を背中に感じながらも、


「と、とにかく! キミの謎もおっていくとして、今日はここら辺にしておこうか?」


「はい! ありがとうございました!」


 お礼を言うユグルスに、ラファは目を細め、


「明日には遺跡に向けて出発だからね! ゆっくり休んでくれたまえ!」


「は、はい!」


 椅子から立ち上がっているユグルスに、


「あと、あまり考え込まないように!」


 それだけ言うと、ラファはシャインと入れ替わる。ただ寝るだけなのだが、それでも不測の事態に備えるためだ。

 面倒くさそうに、シャインはユグルスに目を向け、


「……寝るぞ」


 一言だけ言うと、さっさと部屋へ入ってしまった。


「は、はい! おやすみなさい!」


 扉が閉まるのと同時にユグルスも言い終わり、大人しく割り振られた部屋に入って行った。

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