第12話 グーガスラヒ南東、リルの町

 馬車を走らせる事三日間、やっとグーガスラヒ領内の町、リルまでやって来た。

 この三日の間に、すっかりシャインの舎弟となった男は、


「姐さん! 坊ちゃん! ここでお別れですが、良い旅路を!!」


 あの怯えはどこに行ったのか。打ち解けたからか、それとも解放感からか、御者台の男は意気揚々と別れを告げ、馬車と共に去っていった。


「あっという間に行っちゃいましたね……」


 呆然とするユグルスに、シャインは、


「くだらん感傷は不要だ」


 そうバッサリと切り捨てるシャインとそれに苦笑いをするユグルスは、リルの町にある冒険者ギルドを目指して歩き出した。


 ****


 冒険者ギルドに早くに着いた二人は、受付を済ませ、今夜の宿を確保する。


 今回は、馬車での旅路だったためか魔獣に襲われることなく着いたため、依頼完了の報酬はない。


「この町は、けっこう大きくて治安も良さそうですね!」


 町の賑わいも相まってか、安心したようなユグルスの言葉にシャインは冷静に、


「惑わされるな。賑やかだから治安がいいかどうかはわからんし、どこにでも小悪党はいる。油断するな」


 相変わらずのシャインの厳しい言葉に、ユグルスは緩んでいた気を引き締めなおす。

 食事処に行き、注文を終え、空いている席に座る。


 席に座っても警戒心を解くことなく、むしろ威圧するシャインに、他の冒険者達は賑やかさを失う。


【シャイン、そんなに殺気立っているのは良くないとお兄さんは思うな! 美人な方なんだし、少しは可愛げを出したらどうだい?】


 ラファの言う通り、シャインはかなり美人な方だ。それこそ微笑めば男達を魅了出来る程に。だが、微笑むどころか眼光鋭く周囲を威圧するその姿で、容姿の良さが台無しだった。


【うるさい。ほっとけ】


 シャインは苛つきながら内側にいるラファに言うと、やり取りをしていると察したのだろうユグルスと目が合う。


「……なんだ?」


「いえ、なんでもありません! それより、食事が楽しみですね!」


 あえて明るく言うユグルスに、シャインは無言になる。彼女は元来話す事が好きではないのだ。自然と会話も止まる。なんとも言えない時間が流れ、食事が運ばれて来ると、静かに食べ始めた。


【全く、せっかくの女子同士なのだから、会話を楽しめばいいものを……】


【黙れ】


 先程からうるさいラファをシャインは一蹴し、食事を口に運ぶ。そろそろ食べ終わると言う頃に、シャインが口を開く。


「食べ終わったら武器屋に行く。……お前は武器のメンテナンスをしてもらえ」


 シャインにそう言われ、ユグルスは首を傾げる。


「……いいか? 武器は定期的にメンテナンスするものだ。普段の手入れも重要だが、専門家にしかわからんこともある。町に武器屋があるなら、メンテナンスをしてもらうことだな」


「な、なるほど! 了解です!」


 納得したユグルスを見て、シャインはさっさと食事を食べ終える。ユグルスも慌てて食べ終わり、武器屋へ向かうことにした。

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