第11話 グーガスラヒへ向けて
馬車の停留所付近まで来た二人は、人影のない場所に行く。
「ここで交代ですか?」
さすがに慣れてきたのだろう、ユグルスは動じることなく聞いてくる。
「……うん。面倒ごと、を、避ける、ために、ボクに替わった、けど。結局、騒ぎになっちゃった、し。それに、馬車、で、何かあった、時、小回りのきくシャインの方が、都合がいい、から」
そう説明すると、さっさとシャインに入れ替わる。
「……行くぞ」
入れ替わって早々、それだけ言うとさっさと歩き出すシャインに、ユグルスは慣れたようにその後をついて行く。
****
数時間後、運良くグーガスラヒ行きの馬車を見つけた二人は、運賃を払い、乗り込む。
すると、小声でシャインがユグルスに声をかける。
「……いつでも戦える準備をしておけ」
シャインの言葉にユグルスは首を傾げる。
「馬車に乗るのにですか?」
「ああ。治安の悪さはあらゆる所に伝播する。御者がぼったくったりとかな? だから、覚悟はしておけ」
理由を聞いて納得したらしい。ユグルスは頷き、
「……確かに、先程のフレナさんの勝負も言いがかりがきっかけでしたもんね……」
彼女の言葉にシャインは呆れた顔でため息を吐くと同時に、御者の男が声をかけてきた。
「お嬢ちゃん達、グーガスラヒに向かうよ! 準備はいいかい?」
一見して、人の良さそうな中年男性だった。シャインはいつも通りの愛想のないどころか異様なほど殺気を放ち、男性を威嚇しながら答える。
「……ああ。出してくれ」
あまりの迫力に、男性は完全に威圧されたらしい。震え声で、
「あ、あいよ!」
そう言うと馬車が走り出した。
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シーリンの町を出てから四時間後、馬車が急に停止した。
「な、なにごとですか⁉︎」
動揺するユグルスに、シャインは、
「武器を構えろ」
そう言って腰のホルダーから二丁拳銃を取り出し、構える。
「悪いね、お嬢ちゃん達! ここから……⁉︎」
御者の男が言い切る前に、シャインが威嚇射撃をする。
「仲間は何人だ? 言え」
そう言うや、シャインは合計十発の弾丸を男の身体に当たらないギリギリのところを狙い撃ちまくる。
あまりの勢いに、男は腰が抜けたらしい。初対面時の時よりも更に震え、いや、怯えながら、
「五人です! ど、どうかお許しを! 命だけは‼︎」
とうとう命乞いすらして来る男を、シャインは蹴り飛ばし、馬車の外に落とすと、合図を待っていたのだろう、取り囲んでいる五人の男達に向けて、鋭い視線と殺気を放つ。
「な、なんだ⁉︎ なんの音だ! あの女? お前の仕業か⁉︎」
ちなみに、拳銃などの科学技術の先進国はシャインの出身地マーテル共和国だ。ユスティティア連合国とは協定を結んでおり、銃器なども流通はしているのだが、わりかし高価であり、広いユスティティア連合国内での銃器の普及率は五割程度である。
特に野盗など、貧困層が多い町周辺では、銃器を扱える者は少ない。そのため、御者の男と共謀していた野盗達にとって、シャインの武器は未知のものなのだ。
「先に言っておく。命が惜しければ、去れ」
シャインの一切の隙もない姿に、五人の男達はたじろぎながらも、
「ええい! 野郎共! やっちまえ‼︎」
リーダーであろう男の言葉を合図に、シャインとユグルスに向かって来る。
「しゃ、シャインさん! どうしたら⁉︎」
ビビるユグルスにシャインは冷静に、
「片っ端から殴れ。アタシは出る」
素っ気なく言うと、シャインは馬車の外に出て、構えていた三人目掛けて銃弾を放つ。
はじめて見る武器に、一歩も動けない三人に向かって容赦なくシャインは素早い動作で、まず一人を蹴り飛ばす。
吹き飛び近くの木に激突し、気絶する仲間を見て、皮肉にも正気に戻ったのか、シャインに向けて持っていた短剣を振り上げる二人の男達。
シャインは、その攻撃を華麗に舞うかのようにかわすと、二人の肩と足目掛けて銃弾を放つ。
「ぐぁあ!?」
「ひ、ひぃい!!」
はじめての痛みに、二人共に地面に転がる。すると、馬車の荷台から残りの一人の男と首元にナイフを突きつけられたユグルスが降りて来た。
「おい! コイツの命が惜しけりゃあ、そのわけのわかんねぇ武器を捨てな!」
「す、すみません! 一人は倒したのですが……」
申し訳なさそうに言うユグルスに、シャインはため息を吐く。
「このガキに、仲間の一人は動けなくされちまったんでな? 責任はとってもら……」
またまた言い終わる前に、シャインがナイフを握っている方の男の手に弾丸を放つ。
クリーンヒットした弾丸の痛みで、男はナイフを手放し、
「⁉︎ な、なんて女だ! くっそ! 撤収だ‼︎」
シャインによって地面に転がされた仲間達も、ついでにユグルスに反撃された男も、身体を引きづりながら撤収していく。御者の男も逃げようとするが、その動きをシャインの弾丸が男の顔を掠めたことで止まる。
「お前は馬を動かせ。アタシ達をグーガスラヒまで連れて行け」
もはやどちらが野盗なのかわからない。シャインの脅しに御者の男は観念し、
「へ、へい! 喜んで! 姐さん‼︎」
そう言うと、蹴り飛ばされた衝撃で痛む身体を動かし、御者台に座る。それを確認すると、シャインは、
「ユグルス、行くぞ」
「は、はい!」
こうして二人は、改めて荷台に乗り込み、グーガスラヒへ向けて馬車が動き出した。
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