第10話 男同士の決闘の行方

 睨み合うフレナとドゥインは、互いに距離を保ちながら出方を伺う。


「おい! そのデカブツは振らないのかぁ?」


 ニヤニヤしながら言うドゥインに、


「わかってる、くせに」


 フレナの大剣はその名のとおり、身の丈程もある。たいして、ドゥインの二刀流の剣は小回りがきく程度の長さ。抜けば大振りになってしまう大剣は、この勝負では不利でしかない。


 それがわかっていながら、剣を取れと言ってくるドゥインに、珍しくフレナはイラついていた。


 そもそも、この決闘にフレナにメリットがない。早くグーガスラヒに向かいたいのに、無駄なことで足止めをくらっているからだ。


「……素手の相手、に、刃を向ける、恥ずかしく、ないの?」


 わざと挑発気味に言うフレナに、イラついたドゥインは二振りの剣を逆手に構え、フレナに向かって行く。


「ごちゃごちゃうるせぇな! おらぁあああ‼︎」


 両方から交互にくる斬撃を、フレナが右へ左へと身体を動かし、ギリギリでかわす。


「ちぃ! これならどうだ⁉︎」


 ドゥインは地面を蹴り、跳び上がる。そして、両手に持った剣を牙の如く、上から斬り付けようとする。それをフレナは後ろに跳び、下がることでかわすと、


「はぁっ!」


 珍しく声を張り上げながら、フレナが全速力で走り、地面に剣を突き刺したままの体勢でいるドゥインの横っ腹を蹴ろうとする。


「くぅっ! そっが‼︎」


 慌てて両手を突き刺さって抜けなくなったのだろう剣を手放し、横に転がりフレナの攻撃をかわす。二人共に素手となり、互いに拳を構え対峙する。


 それを見たギャラリー達が声を張り上げ、ボルテージが上がる。


「おっらぁ‼︎」


 右手を振り上げるドゥインの拳を、フレナは自分の拳で相殺する。


「ぐぅっ⁉︎」


 フレナの拳の方が耐久性が上だったらしい。痛みで右手を離し睨み付けるドゥインに、フレナは容赦なく左の拳を大きく振りかぶり殴りかかる。


 ドゥインはかわすと、左拳でフレナの横っ腹に一発かまそうとするが、その拳をフレナ右手でいなし、左拳でドゥインの顔面に拳を入れた。


 その一発で勝負は決まった。モロに攻撃を食らったドゥインは勢いよく吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。


 ギャラリー達から拍手と喝采とブーイングと投げ銭が二人目掛けて飛んで来る。フレナは、投げ銭を拾うことなく、ギルドの入口付近でこの勝負を観ていたユグルスを呼び、その場から立ち去ろうとする。


「……うぅ、待てよ……」


 地面に寝転ぶドゥインが呼び止める。


「……なに?」


 冷めた視線を送るフレナに、ドゥインは親指を立てると、


「……それほどの実力でBランクとはな……俺様もまだまだだってことを思い知らされたぜ……ふっ、せいぜい頑張れよ!」


「……うん」


【おやおや、男同士の拳の語り合いで芽生えた友情心かな? いやぁ、久々にこんなベタな展開を観たね! お兄さんは楽しいよ!】


【……くだらん。無駄な時間だ】


 楽しげなラファと対象的な反応をするシャインに、フレナは、


【……特に、友情とか、ないから】


 そう否定すると、ユグルスに声をかける。


「ユグルス。グーガスラヒ行きの、馬車、あるか行って、みよう?」


「そうですね! 行きましょう!」


 明るい声だが表情が少しおかしいことに気づいたフレナは、いまだ騒いでいるギャラリー達から離れ、静かな路地で改めてユグルスに声をかける。


「……どうした、の?」


 フレナの問いに、ユグルスは目をうるませながら、


「先程の決闘……フレナさんが怪我したらどうしようって凄く不安で! ワタ……オレ、フレナさんが強いのはわかってますけど! 怖かった……です!」


 自分の身を案じてくれていたのだと理解したフレナは、ユグルスの肩に手を置き、


「……不安、に、させて、ごめん。ありがとう」


 そう優しく声をかけ、肩から手を離し、


「それじゃ、馬車、探そう?」


 泣きそうだからか、無言で頷くとユグルスはフレナの横に並ぶ。それを確認すると、二人は馬車があるであろう場所まで歩き出した。

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