第9話 夜が明けて
部屋に着くなり、ユグルスはため息を吐き、ズルズルと床に座り込んだ。その様子を見たフレナは、少し考えてから声をかける。
「大丈夫?」
「は、はい。ちょっと、その、初めての出来事だったので、驚いてしまって……」
ちなみに、二人は同室である。理由は、パーティを組んでいるのと、ユグルスが男装しているため同性同士と思われて、同じ部屋割りになってしまったのだ。
そんなわけで、床に座り込んでいるユグルスを備え付けの椅子に座らせる。少し落ち着いたのか、腰に下げていた水筒を取り出し水を飲む。
「はぁ。世の中には、ああいう方もいるのですね」
【……やはり妙だな】
【? なに、が?】
首を傾げるフレナにシャインが続ける。
【記憶喪失を差し引いても、所作や態度が上品過ぎる。そして世間知らずにも程がある】
内側からのシャインの言葉を受け、どうやら緊張が解けたらしいユグルスに、フレナが優しく聞く。
「キミ、は、所作とか綺麗ってシャインが言ってる、けど。なにか、思い当たる、こと、ない?」
言われてポカンとするユグルスと答えを待つフレナ。二人の間に沈黙が流れる。しばらくして、ユグルスがゆっくりと口を開く。
「え、ええと。自覚がないのですが……?」
「そう」
【シャインの言う通り、恐らく身分が高い家の可能性は高いだろう。だけれど、それだけだと何故遺跡で目覚めたのか? 記憶がないのか? そして何より人工的な肉体なのは何故か? 疑問が尽きないね!】
相変わらず楽しそうなラファに、シャインはため息を吐き、フレナは困惑する。
黙り込んでいる……ように見えるフレナに、ユグルスが不安げな顔をする。
「あ、あの! なにかまずいのでしょうか?」
フレナは首を横に振ると、
「いや。ただ、何かの、手がかり、かもね?」
そう言われユグルスは、不思議そうな顔をする。
「意識していませんでしたが、わ……オレ、そんなに所作、目立ちますか?」
「目立つ、というか、育ち良さそう、に見える、かな?」
【いかにもお嬢様って感じだからな。…男装しているから坊ちゃんか? とにかく、単独行動はさせるなよ? この町とは相性が悪い】
シャインの忠告をフレナが伝える。それを聞いたユグルスは、
「わかりました!」
元気よくそう返事をした。
****
翌朝、部屋を出て食事を摂ろうとすると、昨日絡んで来た男と遭遇した。男はすぐに二人に気づくと、
「おい……出てけっつったよな? ああん? なんでまだいやがるんだ‼︎」
そう言って近くにあった椅子を蹴り飛ばす。
それに思わずビクついてしまうユグルスに、動じないフレナは、
「ユグルス……下がって。ボク達、は、これから、この町を出る。だから、どいて?」
昨日のように睨みをきかせるフレナの態度が男の苛立ちを悪化させてしまったらしい。男は、剣を抜き、
「表に出ろ! 俺様をこけにしやがって! ぶった斬ってやらぁ‼︎」
息巻く男に、フレナはため息を吐くと、
「出ていく、って、言ってる、のに」
そう言って男と二人で表に出る。すると、周りには騒ぎを聞きつけた野次馬達が囲んでいた。
男は二振りの剣を取り出し、
「この二刀流のドゥイン様に無礼を働いたこと、後悔させてやらぁ‼︎」
そう宣言し、野次馬達、ギャラリーをわかせる。
【アタシが言うのもなんだが、二刀流だから強いと言うことはないのだがな……。というか、これでは入れ替わった意味がないな】
シャインのツッコミにフレナは思わず頷くと、端から見守るユグルスに親指を立て、
「じゃあ、わかった。やる、よ?」
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