第8話 荒くれ者の町

 シーリンに着いてすぐに、この町の特色がわかる。町のあちこちで武器をたずさえた人々が昼間から酒をあおり、ゴミは散乱し、物乞いが至る所にいる。


 そんな中をフレナとユグルスは歩いて行く。これだけ治安が悪い町は初めてなのだろう、ユグルスからは不安の色が隠せずにいる。


【ユグルスに言え。もっと堂々としろと。これではカモにされる】


 シャインの厳しい指摘を、フレナが小声で伝える。


「ユグルス。堂々と、して? 大丈夫、だから」


「は、はい!」


 自分の不安を払拭するように首を振り、手にしているモーニングスターを握り締める。

 その様子を確認しながら、二人は冒険者ギルドになんとか無事にたどり着いた。


 シーリンの冒険者ギルドは、酒場の色が強く、受付嬢の服装もどこか乱れていた。荒んだ目をした受付嬢を前に、フレナがいつもの調子で言う。


「Bランク、の、冒険者、フレナ・アルストレイ・ブラッディングス。と、パーティメンバー、Fランクの、ユグルス・ノーメモリー。共に依頼、遂行中。の、ついでで狩った魔獣達の部位の一部、複数。換金と、宿、お願いします」


 ボルレの町で冒険者登録する際に、ユグルスのファミリーネームを付けていたのだ。別になくても問題はないのだが、ラファがどうしても付けたいと譲らなかったのだ。


 受付嬢はプレートと狩った際に切り取った、魔獣達の角や牙などを確認すると、愛想なく、今夜の宿の鍵を渡して来た。


 フレナ達は遺跡調査が基本的だが、それ故に遠出が多く、行きがけに魔獣退治も行っているのだ。


 鍵を受け取るとフレナは、ユグルスに向き合い、


「それじゃ、食事、に、しようか?」


 そう声をかけた。


 ****


 早々に注文を終え、フレナとユグルスは二人かけのテーブルの椅子に座る。


 周囲を見渡すと、ガラの悪そうな男達がこちらを見ていた。


「あ、あの……なんか見られてる気がするのですが……」


 不安げなユグルスに対しフレナは珍しく鋭い視線を周囲に向ける。


「余所者だから、ね。ボク達を、見定めてる、多分」


 そう会話をしている間に、食事が運ばれてきた。


「さっさと、食べ、よう?」


 何かの肉と野菜のスープにパンがセットの、久しぶりの野営食以外の食事に自然とユグルスから笑みがこぼれる。


【……不安げかと思えば存外図太いな】


【まぁまぁ! 怖がって食事が摂れないよりマシじゃないか!】


 二人の言葉に、フレナも食事を摂りながらユグルスの様子を見る。確かに、美味しそうに食べているので、内心ホッとする。


 ****


 食事を終えた二人は、そそくさと今晩泊まる部屋に戻ろうと席を立った。が、そこに酒場の中央で呑んでいたガタイのいい男が絡んで来た。


「おい! てめぇらみねぇ顔だなぁ? どこから来た?」


 酔っ払っているのだろう、雑な絡みにフレナとユグルスは顔を見合わせる。


「ボルレから、だけど。冒険者、だから。珍しくは、ない、でしょ?」


 睨みつけ、ユグルスを守るように前に出るフレナに、男はニヤニヤと笑いながら近寄って来る。酒の匂いにフレナは顔をしかめる。


「そっちのボウズは新米か? それと、中々腕がたちそうな兄ちゃんと来たか! どれ、お手並み拝見させていただきてぇなあ!」


 男の言葉に、フレナが嫌そうな顔で言う。


「悪い、けど。ボク達は、長旅だった。から、休みたい。失礼、する」


 つれないフレナの回答が気に食わなかったのか、男はフレナの肩を掴み、


「俺が言ってんだ! ちょいとツラ貸せや!!」


 怒鳴る男に、フレナは臆することなく掴まれた腕に手をかけると、思い切り捻った。


「ぐあああ!? い、いてぇ! いてぇよ‼︎」


 余程の力だったのか、痛みに叫ぶ男を面倒くさそうにフレナは足で蹴り飛ばす。

 床に転がった男は、喚き散らし、痛そうに捻られた腕を抑える。


「まだ、やる? ボクは……それなり、に、強い、よ?」


 語尾こそいつも通りだが、殺気を放つフレナに、男は酔いがさめたのか、はたまた畏怖したのか、


「ちっ! 余所者が! さっさと出ていけ!!」


 そう捨て台詞を吐くと、ギルドの酒場から逃げるように去っていった。

 酒場は先程までの賑やかさはどこへやら、静寂が支配していた。フレナは苦い顔をしながら、


「ユグルス、部屋に、行こう、か?」


 そう声をかけた。ユグルスは無言で頷くと、二人は共に部屋へと向かった。

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