第4話 謎と訓練

「それで? 男のふりをしているのはなんとなく察するが……武器商人なのはなんでだ? リスクが高いと思うんだが?」


 シャインの疑問に、ユグルスは、


「実はですね……ワタシが目覚めた部屋に、武器が大量にあったのです。だから……本当はいけないことだとは思うのですが……」


「拝借して、売り出そうとしたわけか」


「……はい」


 消え入りそうな声で言うユグルスに、シャインは慣れないながらもフォローを入れる。


「まぁ別に放置されていたのなら、いいんじゃないか?」


 一区切りして、シャインが続ける。


「……ユグルスという名はどこから来たんだ?」


 シャインの疑問に、


「ああ、それはですね。えっと……この小さな石版を握っておりまして、そこに書かれていたのがユグルスだったのです」


 そう言って、ユグルスが見せた石版には、あの遺跡で見つけた文字が書かれていた。


「⁉︎ お前、この文字が読めるのか⁉︎」


 珍しく声を荒げるシャインに、思わず身体をビクつかせながらユグルスが頷く。


【シャイン。彼女にあの石版を見せてみては?】


 内側からラファが言う。シャインは、無造作に石版を取り出すと、ユグルスに見せる。


「お前、これが読めるか?」


 突然差し出された石版に、やや躊躇しながらもユグルスが顔を近づける。


「ええと……起動パーツナンバー10……5? 3? 最後がすみません、かすれてて読めないのですが、そう書いてありますね。この石版がどうかしたのですか?」


 ユグルスの問いにシャインは、


「遺跡調査で見つけたモノだ。……お前が目覚めたのはどこだ?」


「確か……荒廃した遺跡だったかと。その……目覚めた時は混乱状態で、無我夢中だったもので……場所がどこだったかまでは……」


【ふむ。起動パーツねぇ。興味深いな】


【ボク達の、呪いに、関係あるのかな?】


【わからんが、今までではじめてのケースだ。調べる価値はあるだろう】


 内側で話し合いをしているとはつゆ知らず、ユグルスは申し訳なさそうに言う。そんな彼女にシャインは仕方ないと割り切り、


「……そうか。なら仕方ないな。ところで、話題は変わるが……その肉体なら大蛇相手でもどうにかなったのではないか?」


 もっともな疑問に、ユグルスは頬をかきながら言う。


「確かにこの身体は大蛇にも耐えれたかもしれませんが……やはり怖くて……」


 その答えを聞いたシャインは、何か思いついたのか彼女にこう言った。


「……幸いにもここは、初心者冒険者が多い地域だ。正直戦力にならん者を連れて旅するのは、リスクが高い。だから」


 ユグルスの顔を見てシャインは言う。


「お前が戦力になるよう、鍛えてやる」


 ****


「ハァハァ……」


 息が上がるユグルスに、シャインは容赦なく持っていた木刀を向ける。


 ここは、初心者冒険者用の訓練所の一角であり、戦闘訓練を希望した者には無償で場所を貸してもらえる、目下、初心者の館である。


 そこで一時間程訓練をしていたのだが、ユグルスは既に限界だった。


「どうした? その程度では死ぬぞ?」


 対してシャインは、まだまだ余裕そうに悠然と木刀を構え立っている。


「ハァハァ……シャインさんは……拳銃使いとおうか……がい、して、いたのですが……何故木刀でも……つ、強いんですか……? ハァハァハァ」


 息を切らしながら言うユグルスに、シャインはバツが悪そうに、


「……まぁ、それなりに場数は踏んでいるからな」


 適当にはぐらかすと、


「それより、訓練に集中したらどうだ?」


 シャインが木刀を構えなおす。ユグルスはゆらゆらと立ち上がると、


「い、行きます‼︎ うあああ‼︎」


 一直線に木刀を振るう。が、それを右にかわされ、背中に木刀で思い切り叩き落とされた。顔面もろとも地面に沈む。


「うぅ……」


「……これ以上は無駄だな。今日はもう休め」


 それだけ言うと、木刀を返却しシャインはさっさと行ってしまう。慌ててユグルスも重たい身体を引きずって木刀を返し、シャインの後を追った。


【ふむふむ。傷やダメージからの回復は早そうだね! でも痛覚はちゃんとあって……それから魔術は使えそうにないか! なるほど、興味深い身体だね!】


 内側から、楽しそうなラファの声が響く。やれやれとシャインは呆れると、遅れてやってきたユグルスと共に宿に戻った。

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