第3話 ユグルス
「あ、あの。貴女は?」
突然の乱入に、困惑するユグルスにシャインは素っ気なく言う。
「フレナの知人だ。用ならアタシが聞く。付いてこい」
シャインはぶっきらぼうにそう言うと、怪しむユグルスを連れて、借りている部屋に入れる。
部屋は簡素なベッドにサイドテーブルがあり、個室のトイレとシャワールームが付いていた。
サイドテーブルの椅子にユグルスを座らせると、シャインはベッドに腰掛け、
「それで? フレナを探していたのはどういう理由だ?」
詰め寄るシャインに、ユグルスは警戒を解くことなく、
「貴女がフレナさんとお知り合いなのは信じましょう。でも、理由は、フレナさんに直接話したいのです! あの方はどこですか⁉︎」
一歩も引かないユグルスにシャインは、
【厄介この上ないな】
【……ごめん】
謝るフレナに、ラファが言う。
【過ぎてしまったことは仕方ないさ! それより、コレはフレナでないとおさまらないとみた! 後で私が記憶を消すから、ここで交代してしまえばいいんじゃないかと思うんだけれど?】
ラファの提案に、シャインは少し考えると、
「……おい。これから見ることで騒ぐな。いいな?」
「え、ええと?」
シャインの言葉に困惑するユグルスを前に、彼女の身体が光り、ユグルスが瞬きする間もなく、フレナと替わった。
「え? ふ、フレナさん⁉︎ 一体どこから⁉︎ あの人は⁉︎」
驚きを隠せないユグルスにシーっと指で合図すると、
「……。ボク達は呪いにかかっているんだ。だから、その……、悪いけど……」
断わりを入れようとするフレナに、ユグルスは、
「フレナさんも呪いにかけられているのですね!」
一言そう言うユグルスに、今度はフレナが困惑する。
「? キミも呪いを?」
「はい。オレ……いえ、ワタシは……」
そう言って、ユグルスは上着を脱ぐ。すると、サラシを巻かれた上半身を晒し、
「まず第一にワタシは記憶喪失です。名前も出自も何も覚えておりません。わかるのは女であること、第二に、何かなさなければならない事があることだけ。第三に、ワタシのこの身体はどうやら普通の肉体ではないと言うことです」
ユグルスの話に、ラファが反応する。
【ほう。記憶喪失に肉体が普通でないと? 興味深いな!】
【おい! 深入りしないんじゃなかったのか?】
シャインの言葉を無視し、フレナは聞く。
「……肉体が普通じゃない、って?」
「はい。例えば……このナイフで手に傷をつけますね。すると……」
ユグルスが左手をナイフで切ると、彼女の身体からは出血がせずに、痣のような痕がついたかと思ったらすぐに塞がってしまった。
「! これ、は?」
【ほうほう。どうやらその身体は、自然に出来たものじゃないだろう! 人工的なモノだね!】
「ワタシは、この呪いとも言うべき記憶の喪失と肉体の正体を知りたいのです‼︎ だからどうか、ワタシと共に旅をして頂けませんか? 貴方は、いえ、貴方々は強い! ワタシでは行けないところもきっと行ける! お願いします‼︎」
深々と頭を下げるユグルスに、フレナは困惑しながら、シャイン達に声をかける。
【……どう。しよう?】
【私は興味深いな! 人工的に造られた肉体! 不可思議だし何より奇妙だ! それに、我々にかけられた呪いと関係性がないとも言えないだろう?】
【……あまり深入りしたくないんだがな。ラファの言う事も一理あるか。手がかりはほしい】
二人の意見を聞いたフレナは、未だ上半身を晒したユグルスに、
「……まず。上着を着て? で、連れてくのはいい……って結論になった。から、ボク達の事も話すね?」
彼女に服を着せると、自分達の呪いについて話をし始めた。
****
「なるほど。それで、シャインさんの身体が光った後にフレナさんが現れたのですね。納得しました!」
明るい声で言うユグルスに、フレナは恐る恐る言う。
「……それから。怖がられるの嫌、だけど。一緒に行動、するから。フード外すね?」
そう言ってフードを外し、尖った耳を見せる。
「……ボクは、ダークエルフなんだ。だから……その、怖いかも知れないけど……慣れてほしい。な?」
ユグルスは、フレナが想像したような畏怖の目を向ける所か、嬉しそうに言う。
「ワタシはダークエルフについて詳しくありませんし、フレナさんはフレナさんですよ! 全然怖くなんかありません‼︎」
そう言ってフレナの右手を握り、握手をする彼女に、フレナはやや嬉しそうにでも困惑気味に、握手をかえす。
「そう言えば、三人という事はもう御一方いらっしゃるんですよね? その方にもご挨拶したいのですが!」
ユグルスの発言で、唐突にフレナとラファが交代する。
【ちょ! まだ、話してた!】
反論するフレナとビックリしているユグルスを知り目に、ラファが胸を張って言う。
「私は大魔術師、ラファ・シファー・ステンディダンバルネルさ! 魔術の事ならなんでも聞いてくれたまえ!」
そう自己紹介を終えると、ラファは早々にシャインと入れ替わった。
「……ラファ。唐突過ぎる」
目まぐるしく替わる彼らに、ユグルスは少し笑うと、
「それじゃ、シャインさん、ラファさん、フレナさん、これからよろしくお願いします!」
そう言って笑顔を見せた。
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