第2話 大蛇と冒険者

大蛇達と睨みあうフレナは、じりじりと距離を詰める。


 一体が大口を開けて、フレナ目掛けて襲って来た。それをかわさずに真正面から縦に斬り伏せると、ついで襲って来た二体を同時に大剣を横に振り、斬り捨てた。


 怖気付いたのか三体は、踵を返して逃げて行った。それを見届けると、フレナは少年に声をかける。


「……怪我。はない?」


 ボーっとしていた少年は、はっ! とした表情でフレナに向けて震える声で答える。


「は、はい! おかげさまで!」


 その言葉を聞いて、安心したフレナは、少年に背を向けその場を立ち去ろうとする。だが、


「お、お待ちください! わ……オレをお供させてください‼︎」


「?」


 引き止められたフレナは、少年の方へ身体を向ける。聞いてもらえると判断したらしい少年は、続け様に言う。


「見たところ、お強い冒険者の方とお見受け致しました! オレは武器商人なのですが……あまり戦闘は得意ではなくて……でも、訳あって旅をしなければならないのです‼︎ どうか! なんなら今ある武器全てをお渡ししても良いので! なんとか!!」


 必死な少年の言葉に、フレナは内側にいるシャイン達に声をかける。


【……どうしよう?】


【お前が助けてしまったんだ。責任とれ】


【おやおや、シャイン。他人事のようだけれど、私達にとっては大問題だからね? 彼がいると交代が出来ないのだから!】


【……ラファ、シャイン。ごめん。ほうっておけない】


「あ、あの?」


 黙っているように見えるフレナに、少年は不安げに声をかける。


「……いいよ。ただし、町に着くまでね?」


 フレナの言葉に、少年の顔が明るくなる。


「ありがとうございます! わ……オレはユグルスと言います! 冒険者さんはなんとお呼びすればいいですか?」


「……フレナ。それでいいよ」


 やり取りを終えた二人は、町に向かい歩き出した。


 ****


 ゼルガ辺境の町、ボルレ。

 小さいながらも流通のいいこの町は、治安も比較的良く、初心者の冒険者が多く集まる町でもある。


「……それじゃ。約束通り町まで、着いたから。じゃあね」


 町に到着すると、開口一番そう言うフレナに、ユグルスは焦ったように言う。


「そ、そんな! せめてもう少しくらい一緒に居て下さいませんか⁉︎ わ……オレはこの町初めてなんです!!」


「……初めて?」


 ユグルスの言葉に引っかかりを覚えたフレナは、思わず聞き返してしまった。


「は、はい! 実はその、武器商人をはじめたのがつい最近でして……」


「……そう。なんだ」


 反応するフレナに、シャイン達が慌てて言う。


【バカ! 話を広げてどうする?】


【訳ありのようだし、深入りは良くないと大魔術師のお兄さんは思うな!!】


 二人の忠告に、フレナは困り顔になる。


(……どうしよう……シャイン達は反対してる。それに……ボクはダークエルフ。また、怖がられるのは……嫌、だな)


 少し考えたフレナは、


「……ごめん。ボクも訳あり、なんだ。一緒には居られない」


「……そう、ですか……。わかりました。無理を言ってすみませんでした。ここまで、ありがとうございました!!」


 ユグルスはそう言って頭を下げると、名残り惜しそうにしながら、町の中へ消えていった。それを見届けると、フレナは、町の外れの人が立ち入らない所へ行き、シャインと交代する。


「……全く。お人好しも大概にしろよ?」


【……ごめん】


 謝るフレナに、ため息を吐くと、シャインは冒険者ギルドに向かう。

 早々にたどり着いたシャインは、受付に行く。


「冒険者、シャイン・グレンベック・レッド。Bランク。遺跡調査の依頼遂行だ」


 無愛想にそう言い、回収して来た水晶玉と調査結果をまとめた紙と、ランクを表すプレートをカウンターに置く。

 受付嬢は、穏やかな表情でそれらを確認すると、


「はい。確かに依頼達成されたようですね! それでは報酬の500ティアになります!」


 報酬を受け取ると、シャインはさっさとカウンターから離れた。


 冒険者ギルドは、ユスティティア連合国とその同盟国に設置されている。冒険者にとってはなくてはならない、依頼の受付と報酬の提示、また、食事処に休息室が完備された複合施設だ。


 ちなみに、冒険者にはランクがあり、S、A、B、C、D、E、Fで表わされ、Sは英雄級で在野の最高ランクはA、最低ランクはFとなっている。

 シャイン達は、呪いの性質上普通のパーティが組めないので、Bランクにおさまっている。


【さてと、今夜の宿は決まったことだし! のんびりしようじゃないか!】


 ラファの呑気な言葉に、シャインは今日何度目かもわからないため息を吐くと、


【……そうだな】


 それだけ伝えると、シャインは給仕に声をかけ、注文をし、食事が来るのを待つ。

 そうしていると、受付が騒がしい。面倒事が嫌なシャインは、気にしないようにつとめるが、


【……シャイン。気になる。ねぇ?】


 お人好しのフレナが、シャインに言う。


【お前な? また厄介な事になったらどうする?】


【だけれど、私も気になるな! 見るだけならいいんじゃないかな?】


 二人におされ、仕方なくシャインは受付近くまで行く。

 すると、そこにはユグルスが居た。


「ですから、フレナと言う冒険者はここに来ておりません! 確認も致しましたし、間違いはありませんよ! どうかお引き取りください‼︎」


「そんな! 確かに冒険者だって‼︎」


 食い下がるユグルスと追い返そうとする受付嬢とのやり取りに、


【だから言っただろう? 厄介な事になると】


 シャインは内側にいるフレナにそう言うと、その場を去ろうとする。だが、次に聞こえて来た言葉で足を止めた。


「でしたら、依頼を出します‼︎ 冒険者のフレナさんを探してください‼︎」


 それを聞いたシャインは、困惑する受付嬢とユグルスの間に入って行き、


「……フレナを知っている。だから依頼はするな」


 そうユグルスに声をかけた。

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