第一章 歯車は回りはじめる
第1話 遺跡調査
二日後、魔獣にも野盗にも襲われることも無く、フレナ達は早々に遺跡にたどり着いた。
朝日に照らされた小さな入口に、所々崩れた小さな遺跡を前にして、
【さてと、何が出るかな?】
ほんの少しの期待を胸に、ラファが言う。それを聞いたシャインとフレナは、
【楽観的だな】
【……規模的に小さいから。ボク達の呪いに、繋がりそうなのはない、んじゃない?】
五年間という長い期間、この繰り返しをして来たために、二人の反応は冷ややかだった。
【冷たいなぁ二人とも。まぁ、この大魔術師である私ですら解除出来ない代物だからね! 期待値が下がるのも仕方ないか!】
一人納得するラファに、シャインとフレナはため息をつく。
有翼人達が暮らすショヨク国は魔術に秀でた者が多く、その中でも最高位が大魔術師なのだが、三身一体の呪いは前例がないらしく、その大魔術師であるラファですらお手上げなのだ。
もう一度ため息を吐くとフレナは、
【……人がいたら面倒だし。この中は狭いからシャインに変わった方が、いいんじゃない?】
ダークエルフは、純粋なエルフの突然変異で産まれる亜種であり、希少な上禁忌の存在とされ畏怖される事が多いのだ。
【そうだな。変わるか】
光に包まれ、フレナはシャインと交代する。
「さてと……行くか」
シャインは手持ちのライターを点け、ゆっくりと遺跡に入って行く。
【私に変われれば、魔術で火を灯すことなど造作もないのだけれどね! 交代すると掛けた魔術もリセットされてしまうから困ったものだね!!】
【……毎回ライターを出すたびに愚痴るな】
たいそう面倒くさそうにそう言うと、シャインは遺跡の中を進んで行く。
フレナの言う通り、規模の小さい遺跡はすぐに中央部だろう広間に出た。
「……何が出る?」
【魔術的な気配は感じないな! シャインが触れても大丈夫だろう!】
ラファの言葉に、シャインは少し安堵すると広間の中を調べ始める。
壁には一面に古代文字が書かれており、中心部には円形の台座があった。
「儀礼用か?」
慎重に台座に近づく。だいぶ古い年代の物らしく大部分が欠けているが、かろうじておそらく儀礼に使うものだろう、埃を被った両手に乗せられる程度の大きさの水晶玉が置かれていた。
【ふむふむ。マナは感じないね! ただのなんの力もない水晶玉だろう!】
ラファの解析を元に、シャインは水晶玉を回収する。
「他に部屋は……なさそうだな……ん?」
台座に違和感を感じ、覗き込む。
【……古代文字。とは別の文字?】
フレナが疑問形で言う。それにラファも反応する。
【そうだね。見たところ……古代ではなく比較的最近のものだろう。ただ、ショヨクの言葉ではなさそうだ】
【……古代エルフ。の文字でもない……と思うよ?】
二人の言葉に、シャインは一人頷くと、
「アタシの故郷、マーテル共和国の言葉でもなさそうだな。……ユスティティア連合国か?」
ユスティティア連合国とは、この世界の大半をしめる、ゼルガ、ガーデス、スザリ、ハルストレム、グーガスラヒ、ユスティティアからなる大国のことだ。
今シャイン達がいるのは、加盟国の一つゼルガの端に当たる。
【どうだろうね? とにかく私が作った複写の石版にくっつけてくれたまえ!】
そう言われ、シャインは石版を取り出し文字を写す。
作業はすぐに終わり、今度こそ遺跡を後にする。
****
遺跡から出ると、昼前だった。
うーんとシャインは伸びをすると、
【アタシの足では、町まで時間がかかるな。フレナ、交代だ】
シャインの身体から光が放たれ、フレナと交代する。
「……人と遭遇しない。といいんだけどな、怖がられるの、嫌だし……」
そう文句を言いながらも、フードを深めに被ると、フレナは歩き出した。
そうして歩いていると、突如悲鳴が聞こえてきた。
「! 近い?」
【フレナ、待て! アタシと代われ!】
【……そんな暇。ないよ!】
そう言うと、フレナは慌てて声のした方に向かう。
すると、そこには一人の少年と思わしき人物とそれを囲む複数の大蛇がいた。
少年らしき人物は、紫色のショートボブに紫色の瞳をした中性的な顔に、薄紫の服に黒い長ズボンに革靴を履いており、傍らには大きなリュックに沢山の武器が入った荷物があった。
【商人か?】
冷静に分析するシャインとは裏腹に、フレナは勢いよく大剣を振りかぶる。
一体の大蛇を倒すと、少年を守るかのように前に立つ。
「……君。大丈夫?」
突然の展開に、声にならないのか少年は頷くだけだった。だが、フレナは気にせず、
「……歩ける?」
首を横に振る彼を確認すると、フレナは大剣を持ち直し、六体はいるだろう大蛇と向き合う。
「斬り伏せる……よ!」
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