トリニティ・カース~呪いで三身一体になった冒険者達の旅路~

河内三比呂

序章

第0話 彼らの旅路

 轟音が大地に響く。

 かたや魔獣達の群れ。かたや、魔術を操る魔術師達と科学で造られた大砲などの銃器。

 物理が効く魔獣には科学を。

 魔術が効く魔獣には魔術を。

 それぞれが役割を担い、協力しながら今日も魔獣達と戦う。

 だが、魔術と科学が混合することはない。なぜなら、かなりの高度な技術であり、それを扱える者は、『奇跡使い』と呼ばれるからだ。

 今日も彼らは協力しながらも、決してまじり合うことはなく、共存しながら日々を生き抜いて行く。


 ここは、魔術と科学が共存する世界、ユスティティア。


****


 辺境の地。荒野の果てを一台の馬車が走る。荷台に乗るのは一人の若い女。


 二十代前半の、赤いストレートロングな髪と瞳。黒い七分丈の革ジャンに、白の半袖にホットパンツにロングブーツというラフな格好をし、腰には二丁拳銃を身に付けた彼女は、静かに目を閉じ座っていた。


 そんな彼女に、御者台に座る老人が声をかける。


「お姉さん、冒険者かい?」


 老人の問いに、ゆっくりと目を開け、


「……ああ」


 愛想のない答えにも、老人は気にせず話を続ける。


「女一人でこんな辺境の地まで何用ですかい?」


「……ただの遺跡調査だ」


「遺跡? 仲間も連れずにですかい?」


 女は首を振ると、


「いや……仲間ならいる」


 それだけ答えると、彼女はもう話はいいだろうと言った感じで目を再び閉じた。

 老人もこれ以上は会話してもらえないと感じたのだろう。静かに馬を動かす。


 しばらくして、突如馬が止まり暴れだした。


「どうどう!! どうしたってんだ!?」


 慌てる老人に荷台から女は出ると、


「下がっていろ。……魔獣だ」


 そう言うと彼女は二丁拳銃を構える。それと同時に、茂みからどう隠れていたのか二メートル程の黒い体毛で覆われた犬のような獣が現れた。


「ひぃぃ!!」


 馬達は暴れ、馬車は怯える老人ごと彼方へと走り出してしまった。

 置いて行かれた女は、静かに拳銃を獣に向けると、


「こい」


 それを合図に、獣は立ち上がり右腕を振り上げた。女はそれを左に避けると、弾丸を獣に向けて放つ。だが、当たったはずの頭部には傷一つない。


「……物理が効かないタイプか。


 そう言うや否や、彼女の身体から光が発せられ、包み込まれる。

 そして現れたのは、背中に翼を生やしたセミロングのウェーブかかった金髪に青い瞳の、緑色のみっちりとした服に白い腰布と手袋とブーツを履いた二十代後半の男だった。


 男は宙に浮くと、


「全く! シャインめ、直ぐに私に変わるのは良くないと思うんだが!!」


 すると、男にしか聴こえない、内側から声がした。


『そういうなラファ。アタシでは勝てないのだから仕方ないだろう?』


『全く! 諦めが早いのはいい事なのかどうなのやら!』


 内なる声にて反論すると男・ラファは、バタついている獣に向けて、手にしていた杖を向ける。


「消え失せるがいい! フォア・フランメ!」


 ラファがそう言うと、杖から巨大な火球が発生し獣目掛けて飛んで行く。その大きさ故に獣はかわせず、消し炭となった。


「ふう。こんなものかな?」


 ラファは地上に降り立つと、


「ここからは徒歩か。夜になりそうだし……フレナの出番だな!」


 ラファの身体が光り、今度は褐色肌に尖った耳の、黒い短髪に黒眼の、白いフード付きのマントで顔を隠し、下に銀色の甲冑を着て、身の丈程の大剣を背負った十代後半の青年が現れた。


「……ボクの足でも。遺跡までは、二日程かかるんだけどな……」


 そう文句を言いながらも、青年フレナは遺跡に向け歩きだした。


 二丁拳銃の使い手、シャイン・グレンベック・レッド。

 魔術に長けた有翼人、ラファ・シファー・ステンディダンバルネル。

 大剣を操るダークエルフ、フレナ・アルストレイ・ブラッディングス。


 彼らは五年前、とある事故に巻き込まれ、三人分の魂に一つの身体、つまりは三身一体の呪いを受けてしまったのだ。


 彼らの目的はただ一つ。この呪いの解除。そのために今日も旅をする。冒険者として。

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