第5話 1回戦!VS魔女ポーラステロ!!
そして迎えた大会初日。オレは眠い目を擦って1回戦の会場に向かっていた。首都の地下に張り巡らされた地下魔列車を乗り継いで、会場の最寄り駅に到着する。兄貴は別の場所で同時に行われる試合の警備に配属されてるから今回は応援無しだ、と思ったんだけど。手を振りながら走ってくる姿が一つ。見慣れた茶髪のその人は。
「よっすー。弟くん元気~? あんまり眠れなかったって感じの顔だけど緊張してたのかな?」
今日は
「アストから今日の配属先変わってくれって急に頼まれたのはこういうことだったんだ。あいつやっぱブラコン~」
いや、断ったのかよ。とはいえ、オレも文句言える立場じゃないし。というかカナヴィにいちゃんにも兄貴にも応援に来てほしくないといえば来てほしくない。オレも結構複雑なのだ。そんなこと言えばまた『思春期だな~』とか言われること請け合いだから、オレは黙って横を通り抜ける。
「頑張ってな~」
ひらひらと手を振るカナヴィにいちゃんを背に、オレは会場に足を踏み入れる。とはいえ、待ってるのは熱狂のスタジアムとかではない。予選第1回戦なんてそんなものだし、そもそも
選手室はシンプルで、最低限の机と椅子、連絡用のモニターとロッカーの他は選手用の
魂が
「『佇むものなし無名都市』」
「『我は其の写し鏡、敬愛する者は何処』」
聞えてきたのは賭け
「うん、まあ俺になるよなぁ。ルーはお兄ちゃんが大好きだもんな」
何も、ポーラステロが兄貴に変身したんじゃない。魂による干渉の結果、俺にだけそう見えてるだけだ。聞こえてくる声もポーラステロが喋ったことを俺がそういう風に認識してるだけ、ただそれだけなんだってわかってはいるんだけど。
「やりづれえ!!」
叫んで無名都市を踏みしめて跳ぶ、そのまま
「
伸ばした腕が赤い茨に変化してポーラステロの首に巻き付く。ぐ、と力を入れて引けば兄貴、じゃなかった。ポーラステロの体がフィールドの中心に佇む
「
にぃ、と兄貴が。違う。兄貴じゃない。ポーラステロが悠然と微笑んだ。目と目が合う。いつもは鮮やかな緑の、オレとお揃いの瞳の色が今は
「ヘンルーダ、お前が戦う必要は本当にあるのか?」
やめろ、オレを暴くな。兄貴の顔で、兄貴の微笑みで、兄貴の声でオレを苛むな。幻聴だとわかっていても俺を蔑むその顔は兄貴がするものと同じで。違う。兄貴はオレを蔑んだりしない。時々怒られることはあっても、オレと兄貴は対等な、そう。対等な兄弟なんだから。――そうだっけ?
記憶のつまった小さな箱をこじ開けて中身を引っ張り出されるような頭痛。思い出したのは、体を引き裂かれるような痛み。抑えつけられた脚が、縛られた腕が軋む感覚。兄貴は微笑んで、ずっとオレに何かを語り掛けてたっけ。あれ?
兄貴はほんとうにオレを対等な存在として見てくれているのか?
不意に思い出した情報のせいか、定義崩壊を起こしかけてさらさらと崩れていく
「可哀想なヘンルーダ。俺に愛されてると思いたいんだな」
うるさい。崩れかけた足で跳び上がって一転して憐れむような表情を浮かべる兄貴の傍に着地する。両手を広げる兄貴の……こいつ、兄貴じゃないんだっけ。じゃあ、殺していいや。精神干渉系の
「
低く囁いて茨を引き、兄貴の偽物を抱きすくめる。オレの腹を貫いて生える刃が過たずポーラステロの
「
感嘆の声を洩らし、ポーラステロは膝をつく。
勝負は決した。
「YOU WIN!!」の表示を背に、オレは接続を解除する。魂が肉体に引き寄せられて戻る瞬間のあの嫌な浮遊感の後、目を開けたオレは。
「いってぇ!!」
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