君が望むストーリー⑨




二人は彩未との待ち合わせ場所である駅前へと到着した。 彼女の姿はないが、時刻を確認するとまだかなりの余裕があったため待つことにした。


「ねぇ、彩未さんと会ったら何をするの?」


シエルは先程から元気がない。 それでも必死に笑顔を作っているのが分かった。


「いつも通り一緒に晩御飯を食べにいって、あとはゆっくりするかな」


毎週金曜日の夜は、二人で一緒に過ごすと付き合った時から決めていた。 ただ今日はシエルがいるためいつもと違う。 それを説明しなければならない。 

彩未が来ていないのも丁度いいことから、シエルにどうしてもらうかを言い聞かせ時間を潰した。


「彩未さん来ないね・・・。 綴はいつまでここにいる予定?」


だが待ち合わせの時間が過ぎても彩未は姿を現さなかった。 普段なら連絡なしで遅刻してくるといったことはない。


「そりゃあ、彩未から連絡が来るまで」


携帯を見るが何の連絡もない。 綴からも何度か連絡を入れているが返事はなかった。


―――・・・おかしいな。

―――彩未は真面目だから、約束の時間前には絶対に着いているはずなのに。

―――遅れるとしても、必ず連絡をしてくれるのに・・・。


徐々に不安が募っていく。 そして待ち合わせの時間から一時間経った頃、ようやく携帯が鳴った。


「彩未からか!?」


そう思ったが携帯に表示されているのは彩未の母の名前だった。


―――彩未のお母さんから・・・?


普段ない相手なだけに不思議に思うのと同時に、嫌な予感から背中に汗が滲んだ。


「はい、もしもし。 ・・・お久しぶりです、はい・・・」


綴が電話している間、シエルはその様子を眺めていた。 綴の様子が明らかにおかしいのだ。


「え、本当ですか!? ・・・はい、はい、分かりました。 今すぐに向かいます!」


顔を真っ青にした綴は震えた手で通話を切る。


「彩未さんからだったの?」

「いや、彩未のお母さんからだ。 彩未が車に撥ねられて、病院へ運ばれたって」

「え・・・」

「早く病院へ急ごう!」


彩未の母から教えてもらった病院へ二人は駆けた。 そこで彼女の母と合流し、事態を把握する。


「あの、彩未さんはッ!」

「綴くん! 彩未は・・・」


彩未の母の目線の先には赤く表示された“手術中”という文字。 赤く輝くそれが深刻さを物語っていた。


「ッ・・・」


彩未は意識不明の重体らしい。 医者の話では今夜が峠、命が助かるのかすら分からないようだった。 綴は呆然として離れたベンチに腰を下ろす。 病院の匂いが現実感を高め、ポロポロと涙が零れた。


「・・・えっと、これも平凡な日常?」

「んなわけねぇだろッ!」

「だ、だよね・・・」


シエルもゆっくりと綴の隣に腰を下ろした。 そして呟くように言う。


「・・・ごめん。 もう、僕のストーリーを変えてほしいだなんて言わないよ。 嫌なことって本当に突然起きるんだね。 綴の今のストーリーは、もう変えられないんだもんね・・・」

「・・・悪い。 今は一人にしてくれないか」

「・・・分かった」


今はシエルの相手をする余裕は全くなかった。 シエルも事態の深刻さを悟ったのか、一度綴の傍を離れたがすぐに戻ってくる。


「あ、あの、綴・・・。 どこにいればいい・・・? 外でもいいんだけど、僕はこの世界の人じゃないから、知らない人から話しかけられるのは少し怖くて・・・」


綴はバッグの中から黙ったまま家の鍵を取り出し渡した。 “家にいろ”という意思を読み取ったのかシエルは小さく頷いた。 そのままここを離れようとすると、今度は天那が入れ違いでやってきた。


「綴くん! 彩未は!?」


息を切らしながら尋ねる彼女に首を横に振るだけで応えた。


「彩未には会った?」

「・・・会ってない。 待ち合わせ場所へ向かっている途中で、事故に遭ったんだと思う」

「ッ、そう・・・」


天那は綴の隣に座った。 シエルは最後に何かを言おうと口を開くが、それ以上の言葉は出ず静かに口を閉じて去っていった。



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