君が望むストーリー⑧
「あ、もしもし四音? さっきぶり。 ちょっと聞きたいことがあるんだ」
次に電話をしたのは先程大学で一緒だった四音だ。 四音は明るい性格だが色々な話を書き、綴と最も似た作品を書いている。 綴は事情を説明しシエルと話せるようにした。
『うーん、そうだねぇ・・・。 俺は、変わった作品を書きたいからかな』
「変わった作品? だから不幸なストーリーを書くと?」
『そうそう。 最後はハッピーエンドで終わるとか、常に波乱万丈な物語を書くとか、それは俺にとって普通なんだよ』
「それは綴に近いかも!」
「普通で悪かったな」
シエルの言葉に綴は突っ込みを入れた。 すると四音がフォローを入れる。
『いや、綴が書く物語は全てがハッピーエンドというわけではないし、変化があると思うよ』
「そうなんですか?」
『うん。 でもまぁ、さっき言った書き方は多くのクリエイターがやっていることだから、俺はそうしないっていうだけ』
「他の人があまり書かないことを書くんだ!」
『その通り!』
「へぇ、新しい発想!」
四音の答えにシエルは楽しそうに目を輝かせた。
『そう言ってくれてありがとう。 俺は新しい感覚を、みんなにも味わってほしいんだよ。 だから俺は、いいことばかりを書かないんだ』
それから四音の話は続いた。 しばらく聞いて満足するとシエルは電話を切る。
「四音との話はどうだった?」
「四音さんと綴は、仲がいいの?」
「まぁ、最近はよく一緒にいることが多いかな」
「ふーん。 さっきの白夜さんと違って、とてもポジティブな人だった!」
「だろ? 全く性格が違っても似たような作品が生まれるんだよ」
「だから物語は、人によって味が違うから面白くていいんだよね」
天那が最後にそう言った。
「そうそう。 流石天那さん、分かってるね」
シエルは『へぇ・・・』と言いながら何かを考え込んでいる。
「シエル? どうかした?」
「いや、別に・・・」
「勉強になったか?」
「うん、かなりなった。 ただ・・・」
「ただ?」
シエルは気まずそうに顔をそらす。
「・・・たくさんの人の意見を聞いていたら、僕の我儘なんて言える立場がなくなってきたなって・・・」
「・・・」
しょげるシエルに何も言えなくなる。 天那もそわそわし出したところで時計を見ると、そろそろ待ち合わせの時間が迫っていた。
「あー、ごめん。 そろそろ俺たち行かないと」
バッグを持って立ち上がる。 シエルがいるのは正直嫌だったがどうしようもない。 更に先程までとは違いシエルの口数は少なくテンションが低くなっていた。
「あ、この後は彩未とデートなんだっけ?」
「そうそう。 もうすぐ待ち合わせの時間だからさ」
「本当だ、いつの間に。 彩未とのデート、楽しんでね」
「ありがとう。 今日は世話になった。 ほらシエル、立って」
このまま天那のところに置いていきたい衝動を抑え、腕を無理に引っ張り無気力なシエルを立ち上がらせる。 シエルを自宅以外の自分の目の届かないところへおくのは難しい。
「シエルさん。 またいつでも遊びに来てね」
「・・・うん。 また、サイダーを飲みにくる」
そう言ってシエルは小さく笑った。 綴はそれを聞いて何も言えなくなる。 シエルに次の機会なんて、もう来ないかもしれないのに。
「じゃあお邪魔しました。 天那さん、また学校で」
そうして天那の家を後にした。
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