第64話 平穏な日々

 翌日の朝。マリーとリリーは、眠気を殺しながら起きた。ソフィの身体に魔ゴムを付ける作業が、思った以上に難航したからだった。それでも、全て付け終えてはいる。今日の夜には、またソフィを起こす事が出来ると予想された。


「お姉様、昨日は眠くて確認をしていませんでしたけど、魔ゴムを付けた状態では、裸に見えてしまうのでは?」

「え? ああ、う~ん……確かに?」


 昨日の状態では、ソフィは機械チックな身体というだけだったので、あまり気にならなかったが、魔ゴムを付けた現在では、裸の人に見えなくもない。


「身体の大きさは、私よりも少し大きいくらいだから、私の服は合わないし……まぁ、後で考えよ」


 今考えても良いアイデアは出てこないと考えたマリーは、後回しにする事を決めた。そんなマリーに、リリーはため息を零す。


「はぁ……私の服をお貸ししますわ」

「良いの?」

「はい。あのままでは、私の方が落ち着きませんので」

「ありがとう」


 そんな話をしながら、キッチンに行き料理の配膳をして行く。


「何だか、ご機嫌だな」


 同じようにキッチンに来たアルが、マリーとリリーが昨日よりもご機嫌だというのを見抜いた。


「うん。昨日、新しい魔法が成功したからね」

「ほう。それは、俺も気になる情報だな」

「じゃあ、今日の夜に、見せてあげる。お母さんにも見せたかったから」

「そうか。それは楽しみだ」


 アルは、新しい魔法が見られると知って、小さく笑った。

 朝食を食べ終えたマリー達は、水着に着替えて、湖で泳いでいた。一昨日は浅瀬を楽しんだので、今度は湖の中央で遊ぼうという事になったのだ。

 体型の違いからか、マリーとセレナは、ワンピースタイプ。コハク、リリー、アイリは、ビキニを着ていた。マリー達からリリーたちへ怨嗟の声が出てきていたが、湖に入った後は、そのような些末(?)な事も気にならなくなっていた。


「この湖、本当にすごいね! 透き通って、そこまで見えるよ!」


 湖の綺麗さを内側から見て、マリーは、大興奮していた。その目には、ゴーグルが付けられている。他の面々にも、ゴーグルが付いていた。


「カーリー殿が、ゴーグルを用意してくれて、良かったな。水の中が、よく見える」

「師匠は、私達が泳ぎたいって言い出すのを見抜いていたのかもしれないね」

「確かに、お母さんならあり得るかも。水着も人数分用意していたくらいだしね」


 マリー、アル、コハクが話していると、水面にセレナとリリーが顔を出した。


「ぷはぁ! 負けたぁ!」

「苦しかったですわ……」


 セレナ達から、少し遅れてアイリも顔を出す。


「はぁ、はぁ、勝った!」


 三人は、湖で潜水対決をしていた。意外にも、アイリが一番長く息を止めていられた。


「意外と捕れるものだね」


 そう言いながら、水面に顔を出したのは、お手製の銛を持ったリンだった。銛の先には、一匹の魚が付いていた。


「すごい。さすが、リンくん」

「この調子だと、今日の夕飯も魚になりそうだな」

「魚づくしの旅行になるね」


 皆、思い思いの楽しみ方で湖を満喫していた。途中から、リンと一緒にアルも魚突きを始める。そんな中で、マリーは、ぷかぷかと湖に浮かんでいた。すると、頭に柔らかい感触がしてきた。


「ん? リリー?」

「ううん。私だよ、マリーちゃん」

「ああ、アイリか」


 ぷかぷかと浮きながら移動していたら、アイリの胸に到着していたのだ。


「胸だけじゃ、リリーかアイリか分からないね……」

「私よりもリリーちゃんの方が大きいけどね。あっ」

「あっ? うぷっ!?」


 マリーが、アイリと変な話をしていると、いきなり腰を掴まれて、湖に引きずり込まれる。ゴーグルは付けていたので、水の中に視線を向けると、ニヤニヤとしているセレナがいた。マリーとしても、こんなことをするのは、セレナしかいないと思っていたので、そこに驚きはなかった。

 セレナのニヤニヤ顔にイラッときたマリーは、水の中で、セレナの頬を摘まんで引っ張る。


「相変わらず、馬鹿な事をばかりしてる二人だね」

「うっ、我が姉ながら、否定出来ない」


 二人の様子を上から見ていたコハクの言葉に、アイリは苦笑いをしてしまう。

 水中での喧嘩を終えた二人が浮上してくる。


「全くセレナって、本当に子供だよね」

「マリーも子供でしょ。体型とか」

「人の事言えないでしょ!」


 ほぼお決まりとなった喧嘩に、コハク達は、何故か安堵してしまっていた。本当に、いつも通りのマリー達だった。

 一方その頃、カーリーはと言えば、別荘にあるテラスで、本を読みながら座っていた。


「全く、騒がしい子供達だねぇ」


 そんな事を言うカーリーの顔は笑みが浮かんでいた。


────────────────────────


 その日の夜。これまでの夜とは違い、リビングに皆が集まっていた。唯一いないのは、部屋で準備を進めているマリーとリリーだけだ。二人の目の前には、魔ゴムを纏い組み立てられたソフィの姿があった。


「よし! 後は、動力を付けて……」


 マリーは、ソフィに魔力を流していく。十分な魔力を得たソフィは、眠りから覚める。


『おはようございます。主様、リリー様』

「おはよう。立てる?」

『はい』


 ソフィは、返事をしてから立ち上がる。その動作に、ぎこちなさはなかった。昨日の調整の成果だ。


「魔ゴムを付けたけど、昨日と違うところはある?」

『いえ、全て正常に動きます』

「良かった。でも、ここまで来たら、髪の毛とか目もしっかり人に寄せるべきだったかな?」

「それは良いですね。もっと可愛く出来ると私も思いますの。ですが、取り敢えず、今は、こちらの服を着て下さいます?」

『かしこまりました』


 ソフィは、マリーとリリーの手を借りながら、服を着ていく。言語的な知識はあるが、まだ服の着方などは、学んでいないからだった。


『お手数お掛けします』

「ううん。後で、知識の補給をしないとね。本を読めば大丈夫かな?」

「そうですわね。知識と言えば本だと思いますの」

「だよね。まぁ、それは後にして。皆のところに行こう」

「はい」


 マリーとリリーは、ソフィを連れて、リビングにやって来た。ソフィを初めて見たアルとリンは、その姿に腰を上げた。


「大丈夫だよ。この子が、私の新しい魔法……っていうか、魔道具。ソフィだよ。ソフィ、お母さんのカーリーとアルくんとリンくんだよ」

『はじめまして。カーリー様、アル様、リン様。ソフィと申します』


 ソフィが喋った事に対しても、アルとリンは目を見開いていた。


「ふむ……受け答えはしっかりと出来るようだね」

「うん。上手くいった。後は、知識の蓄積と継続して、どのくらい運用出来るかかな」

「そうさね。それは、向こうに帰ってからすると良いさね」

「うん! どう? 合格!?」


 マリーは、魔法陣も成功したので、もうカーリーから合格を貰えるかもしれないと思っていた。


「まださね。さっき言っていた確認を終わらせて、納得のいく内容を得られて、レポートを上げられてから、合格にして上げるさね」

「うっ……今のうちに書けるところまでレポート書いとこ……」

「そうすると良いさね。ソフィと言ったね?」


 カーリーの視線がソフィに移る。


『はい』

「マリーの事を、どの程度認識しているか訊いていいかい?」

『私の主様と認識しております』

「そうかい。あんたには、マリーを守って貰いたい。そのために、ある程度の戦闘は出来るようになって欲しいんだが、どうだい?」

『かしこまりました。主様の御身を守らせて頂きます』


 マリーを守る事自体は、ソフィにも何も抵抗はなかった。自分の創造主であるためとも言える。


「それとマリー。ソフィの皮膚を魔ゴムだけにするのはやめておくさね」

「え? 何で? 良い感じだと思うけど……」

「義手や義足としたらね。でも、ソフィを人に見せたいのなら、もっと人に近くする方が良いさね。それと顔もね。溶け込ませれば溶け込ませるほど、この子は活きてくるよ」

「そう? 分かった」

「まっ、取り敢えず、今日のところは、動かしたままにしておくと良い。起きたら、魔法陣の消耗度を確認する事を忘れないように」

「は~い。ソフィ、行くよ」

『かしこまりました』


 マリーは、ソフィを連れて部屋に戻っていった。リビングに残ったアルは、ため息を零す。


「はぁ……これは、かなりとんでもない物を作り上げたのでは?」

「そうさね。馬車で魔法陣を見た時には、あの子の発想に驚かされたよ。恐らく、マニカの義手を作ったから、思い浮かんだ発想だろうね。まぁ、思考するというのは、剣の方からの発想だろうが」

「ソフィの事が広まれば、マリーに作って欲しいと言う者達が押し寄せますよ」


 アルの懸念は、ソフィの様な人形を作れと言い寄る輩が出て来る事だった。軍事の面で言えば、そう言った戦闘人形は、利用価値が高い。それを理解しているからこその懸念だ。


「非売品さね。私だって何でも売る訳じゃない。マリーにもそこら辺は伝えておくつもりだよ」

「お願いします。こればかりは、俺の方では対処出来ない事柄なので」


 噂を流したり、マリーの身を守るくらいの事はアルでも出来る可能性があるが、そういった輩を押える事に関しては、アルでも無理があった。


「そうだ。コハク、姫さん、クリストンの姉妹には、ソフィの見た目に関して、意見してあげて欲しい。マリーだけだと、少し不安だからね」

「分かりました」

「それじゃあ、頼んだよ。遅くならない内に早く寝な」


 カーリーは、そう言いながら部屋へと戻っていった。


「それじゃあ、私達も戻るね。アルさん、リンさん、おやすみ」

「「おやすみ」」

「ああ、おやすみ」

「おやすみ」


 コハク達も部屋に戻っていく。最後まで残っていたアルとリンも、部屋へと向かう。


「マリーさんが心配かい?」

「どちらかと言えば、安心するべきなんだろうがな。ソフィは、かなりの発明だが、それ故に周囲の反応が怖い」

「まぁ、軍事面で言えば、人への被害を減らせるって事だからね。父上達が気付いたら、それとなく言っておく事にするよ」

「ああ、俺もそうしよう」


 アル達は、自分達の親が気付いたら行動するという風な意見で合致した。


────────────────────────


 部屋に戻って来たマリーは、軽くソフィのメンテナンスをしていた。


「う~ん……魔ゴムだけじゃなくて、人らしくか……お母さんも難しい事言うなぁ」

「身体のほとんどは服で隠せますわ。気にするべきは、露出部分だと思いますわ」

「なるほどね。じゃあ、真っ先に考えた方が良いのは顔か……」


 ソフィの顔は、まだ魔ゴムを付けただけで、髪もなければ、目も機械的だった。


「目はどうしようもないけど、髪か……私の髪を切ったら……」

「駄目ですわ!?」


 自分の髪を切って、ソフィに付けるかと考えたマリーだったが、即座にリリーに止められた。


「でも、他に何かあるかな?」

「髪と同じような柔らかさを持つ糸があればいいと思いますわ」

「そんなのある?」

「それは……分かりませんが……」

「柔らかいか……王都に戻ったら、ネルロさんに相談しようっと。それまでは、ちょっと不格好かもだけど、これで代用しよう」


 マリーは、手早く金属の板で髪のようなものを作る。平べったく、人の髪には、決して見えないが、何も付いていないよりもマシというようだった。


「ソフィ、どう?」

『動きに支障はありません』

「後は……今から、作れるものといえば……目かな。一回外すけど、大丈夫?」

『はい』


 実際の視界は、絶対に必要な訳では無いので、目を外されても問題は無かった。目に白目の塗装をしてから、ソフィに戻す。


「まぁ……多少マシになったかな」

「先程よりも、人間らしさは出て来ましたわ。そのお洋服も差し上げますので、使ってください」

『ありがとうございます』

「それじゃあ、私達は寝るけど、ソフィは起動したままにするから。見張りをお願いね」

『かしこまりました』


 ソフィは、近くの椅子に座った。マリー達は、ベッドに入り、一緒に眠った。


────────────────────────


 翌日の朝。リリーよりも早く起きたマリーは、ソフィの様子を確認する。


「ソフィ……おはよう」

『おはようございます。主様』

「魔力の残量はどう?」

『問題ございません。動力炉、再生の魔法陣、どちらも正常に動作しています。ですが、大気魔力の変換効率が、想定よりも高いと申告します』

「へ? そうなの?」

『はい。そのため、想定よりも変換魔法陣の消耗が遅くなるかと』

「なるほどね。てか、なんで、そんな事まで知っているの? そこまで情報に詰めてないけど」


 マリーの疑問に、ソフィは近くにあった紙の束を見せる。


「あっ、もしかして読んでたの?」

『申し訳ありません。私の情報でしたので、知っておいた方が良いかと判断しました』

「そうなんだ。確かに、それは必要だったかも」


 マリーはそう言いながら、ソフィの身体に触る。魔法陣の消耗度合いを確認するためだ。


(知識の蓄積も問題はなさそう。後は、どのくらい蓄積出来るかだね。場合によっては、蓄積の容量を増やさないとだし、そこら辺も考えておこう)


 考え事をしながら、確認は進んでいく。


「……う~ん、大丈夫そうかな。確かに、考えていたよりも変換魔法陣は消耗してない。再生の魔法陣があるからって考えてもね。変換効率が上がったのは、全身を魔鉄仕様にしたからかな。魔力を長持ちさせる事に集中させたからなぁ……後は、全力で運動した場合の消耗度も確認しよう。取り敢えず、一緒に散歩行こう」

『かしこまりました』


 外着に着替えたマリーは、ソフィと一緒に散歩に出る。ソフィには、簡単に作った靴を履かせている。

 すると、外のバルコニーにカーリーがいた。


「あ、お母さん。散歩に行って来るね」

「ああ、気を付けるんだよ。ソフィの足回りの動きもね」

「うん。分かってる」


 マリーは、そう返事をして歩き始める。ソフィは、カーリーにお辞儀をしてからマリーに付いていった。


「歩行に問題はなさそうだね」

『はい』


 初めての外での歩行試験だが、マリーと変わらずにソフィは歩くことが出来ていた。


『こちらはなんですか?』


 ソフィは、自分の横にある大きな湖を見ながら、マリーに尋ねる。


「ん? 湖だよ。大きな水溜まりみたいなものかな。ここまで綺麗な湖は、珍しいんだ」

『湖……』

「気に入った?」

『はい。私は好きです』


 マリーは、自分から訊いたというのに、ソフィの返事を聞いて驚いた。ソフィが感情を持っているという事が、確定した瞬間だからだ。


(知能は付加したけど、感情は? どこから来たんだろう? 知能から? まぁ、別に困った事では無いから良いか)


 原因が不明だが、確かめる術もないので、マリーは考えない事にした。


「ふんふふんふ~ん」


 自分が考えた魔道具が上手くいって、ご機嫌なマリーは、鼻歌を口ずさみながら、ソフィと一緒に湖の周りを散歩していく。


「ここら辺には、一度も来た事ないから、見る景色一つ一つが新鮮だなぁ。あっ! あれが、セレナ達が言っていた火山地帯かな?」


 マリーは、遠くに見える山脈を見てそう呟いた。その山脈の所々から、煙が上がっている。


「火山って、初めて見たかも」

『火山とは、なんでしょうか?』

「う~んと、火を噴く山って感じかな。そんな四六時中噴き出してはないけど」

『そうなのですね。では、あの状態は珍しいという事ですね』

「へ?」


 ソフィに言われて、改めて火山を見ると、丁度大きく火を噴き出したところだった。直後に、轟音が聞こえてくる。


「ん……」


 大きな音に耳を塞いでいると、次々に火山が噴火していった。


「うわぁ……あんなに噴火するものなんだ……」

『あの状態は、正常という事でしょうか?』

「まぁ、絶対にそんなわけないよね。早く別荘に戻ろう!」

『かしこまりました』


 マリーは、ソフィと一緒に、別荘に走っていった。図らずもソフィの走行試験になったが、問題無く走る事が出来ていた。


 ────────────────────────


 別荘に戻ったマリーは、すぐにリビングに向かう。リビングには、既に皆が起きて集まっていた。


「お母さん! 火山が、続け様に噴火したんだけど、大丈夫なの?」

「ああ、まぁ、大丈夫ではないね。あそこまで大規模に噴火するのは、五十年ぶりくらいさね。その時も、大火事になったりと大変だったと聞くね。まぁ、それよりも、あの麓にある街が心配だね」

「街があるの!?」


 カーリーの言葉に、マリーは驚きを隠せない。


「ああ、温泉で有名な場所がね。一応、こういう事態にも対応出来るようになっているはずだけど、少し心配だねぇ」

「じゃあ、早く助けにいかないと!」


 マリーがそう言うと、他の面々も同じく頷いた。カーリーは全員の顔を見回す。そして、大きく息を吐いた。


「はぁ……何を言っても、無駄そうだね。分かった。助けに行こうじゃないか。ただし、私の指示には従ってもらうよ」


 マリー達が、その言葉を受けて頷くと同時に、別荘に入ってくる人影があった。


「カーリー殿!」


 入ってきたのは、グラスフリートとライネルだった。二人は、マリーの傍にいるソフィに一瞬目を剥きつつも、首を振って我に返った。


「父上」

「アルゲートも一緒か、ちょうど良かった。カーリー殿、アルゲートとリンガルを借り受けたいのですが、よろしいですか?」


 グラスフリート達が来た理由は、アル達を借りるためだったようだ。騎士団として、今の状況を見て見ぬふりは出来ないからだ。


「街の避難誘導のためだね。私達も協力させて貰おうか」

「……かなり危険な状態が予想されます。カーリー殿達には、避難をして頂きたいのですが……」

「いや、協力させて貰う。他ならぬ、マリー達の頼みだからね」


 カーリーの言葉を受けて、グラスフリート達は、少し思案顔になった。民間人に協力してもらうというのは、騎士団としては承諾しがたいものだった。本来であれば、一緒に避難してもらうはずだからだ。


「……分かりました」

「グラス!」

「今は、人手が多い方が良い。それに、カーリー殿なら、信用出来る。ですが、せめて、リリアーニア様だけでも、避難してください」


 グラスフリートは、リリーの方を見てそう言った。グラスフリートの意見は当然のことだろう。リリーは、学院の生徒である前に、一国の姫なのだから。


「お断りしますわ。私も避難誘導に加わります!」


 リリーは、胸を張ってそう言った。


「先程も申しましたが、あそこは、今、かなりの危険地帯になっています。当然ながら、死の危険もございます。そのような場所に、リリアーニア様をお連れするわけにはいきません」


 ライネルが、再度リリーに言い聞かせようとする。


「くどいですわ」


 リリーは、頑なに指示に従わない。ただの我が儘と言えば我が儘になってしまうが、リリーとしても、困っている民を見捨てて、自分だけ逃げる事は出来なかった。それに、大切な友人が危険と隣り合わせで、避難誘導しようとしているというのに、一人だけ安全な場所で待つなど出来なかった。


「分かりました。同行を許可します」


 頑なな意志を持つリリーに、説得は無理だと判断したグラスフリートは、リリーの同行も認めた。


「では、カーリー殿の指示に従ってください。街までは、馬車で行きます。準備を」


 結局、マリー達は旅先でもトラブルに巻き込まれるのであった。

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