「ところがじゃ、この話には続きがある」

「えっ?」

「私は交信に失敗したと謝罪して、謝礼も何も、もらわんと帰った。なのにあいつら、私のことを、詐欺師だ、インチキだと、言いふらしやがったんじゃ!」

 おばあちゃんが、ドンと拳でテーブルを叩いた。その拳が、ぷるぷると震えている。血圧が上がるんじゃないかと、少し心配になりながらも、話は続く。

「田舎は悪い噂が広まるのが早い。私は田舎に居づらくなって、逃げるように都会に出た。霊能者の真似事もきっぱりやめて、普通の仕事についた。そんで、見習い菓子職人のじいさんと出会って、結婚したんじゃ」

 なかなか波乱万丈なおばあちゃんの過去に、びっくりして声も出ない。こんな話を聞いたら、霊能者への憧れなんてどっかに吹き飛んでしまう。高校を卒業したら、霊能者になるべくどっかで修行しようと密かに思っていたけど、そんな考えすっかりなくなるほどの衝撃だ。

「霊能者って大へ……ん? でも今は少ないけど、その霊能者してるよね? なんで、また始めたの?」

「ああ、やめとったのは本当じゃ。実際、都会に出てからはずっと、死んだ人の声は聞こえんかった。再び聞こえるようになったのが、舅が亡くなってしばらくしてからじゃ」

「しゅうと?」

「絵梨ちゃんにとっては、ひいじいさんじゃな。ひいじいさんは、無口な人だった。早くに亡くなって、じいさんが跡を継いだんじゃが、ひいじいさんほどの腕がなくて困っとった。そんな時、私を通じてアドバイスをくれたんじゃ。じいさんも始めは信じてなかったが、何度もひいじいさんの言葉を伝えるうちに、信じてくれるようになってな。それからまた、亡くなった親戚の言葉なんかも聞こえるようになって……まあそんな感じで、親戚や知り合いの相談にだけ乗っとるんよ」

 私は考える。霊能力ってなんだろう? 一度は死んだ人の声が聞こえなくなって、再び聞こえるようになった。それがおばあちゃんの運命ってやつなのかな?

「まあ、あの家族が特別だったってのもあるが、仕事として金をもらったら、相手を選べんじゃろ? だから私は、相談を受ける相手を選んで、大丈夫そうな相手だけ受けるようにしてるのさ」

 そう言って、おばあちゃんはにっこり笑った。

 確かに、今日会ったご夫婦も良い人そうで、ああいう人は助けてあげたいと、私も思う。

「ところでさ、おばあちゃんの悪評を広めた家族の会社って、なんて名前? 結構大きかったんでしょ?」

 本当に腹が立つ。助けようとしてくれたおばあちゃんを、インチキ呼ばわりした人達。今でも商売してるんなら、そんな会社の物は絶対に買わないようにしてやる!

「絵梨ちゃんは知らんと思うよ」

「なんで? 社名変わったとか?」

「いいや。詳しくは知らんが、社長が亡くなってから、業績不振で5年ほどで倒産したそうじゃ」

「えっと、それってまさか……」

 死んだおっさんの仕業? 大事な会社を潰してまで、家族にやりたくなかった? それとも……

「大事な会社をやりたくなくて潰したのか、単に経営下手だったのか、今となっては誰にも分からんし、私には関係ないことさ」

 そう言って、せいせいしたような顔でお茶を啜るおばあちゃんを見ていると


 まさか、おばあちゃんが呪ったとか?


 そんなことが一瞬だけ頭をかすめたけど、私はそれを口にせず、お茶を口にした。

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おばあちゃんが霊能者をやめた訳 OKAKI @OKAKI_11

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