第49話 後始末 4
「どうやって?」
どうやら飛竜騎士の隊長さん、俺の話に乗ってきたようだ。俺は話を続けた。
『飛びバッタは攻撃されれば反撃する。眼が赤い攻撃色を帯びる』
「ああ、その通りだった」
『そして、攻撃してくる方向に向く、群れとして、な』
隊長の身体がブルッと震えた。前回のことを想い出したのだ。
「ああ……、そうだった」
『北から攻撃を加える。そうすれば群れ全体が北を向いて進み始めるはずだ』
俺の言葉に隊長の表情が明るくなった。隊長だけでなく、俺の言葉が聞こえる範囲にいた竜騎士の顔が変わった。
「そうか!そうだな。そうすればヤルガ直撃は防げる」
こんな簡単なことを失念するほど、飛竜騎士達には余裕がなかったのだろう。
『で、北に向かったバッタを根気よく削っていけばいい』
攻撃を続けていれば、バッタは北を向き続けるだろう。今回はのろまな地上軍などない編成だ。一方的に攻撃できる。
「「「おおー!」」」
竜騎士達が右手を突き上げた。重苦しい雰囲気が吹き飛んでいる。方策が決まってそれが有望そうなら、彼らは戦士だ、やるだろう。
「よし、お前……、あなたの言うとおりにやってみよう」
少しだけ、俺に対する評価を変えたようだ。呼称がお前からあなたに変わった。
「北から奴らを攻撃するぞ」
隊長の言葉に竜騎士達は編隊を組んで北に飛び始めた。
『俺は俺でやる。念のために言っておくが俺の方へ武器を向けるな。そんなことをすれば敵対行動と見なすからな』
俺の言葉にいちいち反応せず、飛竜騎士は北の空、高度200mに1列に並んで攻撃態勢を取った。バッタは我関せずで緑を喰っている。
『アリス、降りるぞ』
『えっ。地上で戦うの?』
『そうだ、頭の悪い飛びバッタ共にはっきりと北から攻撃していることを教えてやらなければならないからな。空からの攻撃だけでは理解できないかもしれない』
要するに俺は前の攻防戦のときの地竜の役目をやるつもりだった。
俺はアリスのポケットから重機関銃を出して貰って、三脚に据えた。その前に擲弾をもう少し追加しておこう。攻撃は派手な方がいい。バッタのなけなしの脳みそにもはっきり分かるだろう。
「どれくらい?」
アリスの問いに、
「10発もあればいいだろう」
アリスがポケットからグレネードランチャーと擲弾を取り出して俺の前に置いた。5連発で撃てるから2回分だ。
バッタの群れの中に飛竜のブレスと俺が撃った擲弾が着弾し始めた。あちらこちらで爆発が起こりバッタが吹き飛ばされる。あっという間に10発の擲弾を撃ち尽くした。不要になったランチャーをアリスに返して、俺は機関銃にとりついた。魔銃の方が効率的なのだが、どこから攻撃されているかバッタに分からせるには、こういった物理的な力で攻撃する方が良いと思ったのだ。
『アリス、近づいてくる奴は頼むぞ』
これだけの群れだ。機関銃の弾幕をすり抜けてくる奴が当然いる。それはアリスに任せることにして俺は撃ち始めた。機関銃弾は文字通りバッタをなぎ倒した。一直線に撃てばバッタの密度が薄い回廊ができる。
さて、どれくらいの時間一方的に攻撃できるのか?前回――ヤルガ防衛軍が攻撃したとき――は10分保った。
今回は3分だった。あの小さな脳みそにも経験は蓄積されるらしい。
飛びバッタがこちらを向いた。眼が赤くなる。俺に近い方から扇状に広がっていって全部のバッタの目が赤くなったとき、一斉に飛び立った。地面にいるときより俺から見て的が大きくなる。薙ぐように連射する。生体材料で機関銃の射撃を防げるような殻は作れない。バッタに当たった弾はバッタの外殻を突き破り虫体を引きちぎって殺していく。機関銃で殺したバッタからは魔結晶が取れないが仕方ない。どうせ魔結晶が欲しい上位変異個体は少ない。出来るだけ効率的に殺すのが今要請されていることだ。飛竜からのブレスも次々にバッタを落とした。飛竜に乗った騎士達からの攻撃魔法もバッタを落としているが、バッタの数が多い、多すぎる。俺の顔の横でアリスが攻撃を始めた。高速火弾を使っている。次々とアリスの目の前で生み出される火弾が1発の無駄もなくバッタを貫く。
しかし、俺とアリスが持ちこたえられたのは2分もなかった。弾帯一つを撃ち尽くして次の弾帯を装着しようとしたとき、バッタが数匹俺に向かって突進してきて、横からアリスの高速火弾で弾き飛ばされたところで機関銃を諦めた。
その場から垂直に上昇する。半秒も経たず、俺がいた場所がバッタだらけになった。バッタの足と身体で機関銃が蹴り飛ばされている。
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