第50話 バッタ殲滅 1

『上昇しろ!』


 飛竜隊が旋回している高度を超えたとき、俺は隊長に指示した。


『上位変異種ならその高さまで届くぞ!』


 懸命に下方を飛ぶバッタを攻撃していた隊長がはっとしたように前を見た。まさに上位変異種のバッタが真正面から突っかかってきたところだった。慌てて顔を上げた飛竜がブレスで撃墜した。バッタを攻撃するのに夢中になりすぎいつの間にか高度が下がっていたようだ。飛竜隊が慌てたように上昇を始めた。上昇体勢に入ったまさにその時、1匹の飛竜に上位変異種のバッタがぶつかった。体格の違う飛竜はさすがに1回の体当たりではぐらついただけだったが、乗っていた飛竜騎士が飛竜の背から落とされた。悲鳴を上げながら落ちていった飛竜騎士が自分の飛行魔法で体勢を立て直したのは、後1秒も墜ちれば地面に激突するという高度だった。その高度は飛びバッタの群れの中だった。次々に体当たりしてくる飛びバッタに翻弄されて、騎士は地面に激突した。


「カーラ!」


 隊長が呼んだが勿論反応はなかった。騎士を失った飛竜がふらふらと編隊から外れていった。他の飛竜騎士が降りていくより、俺がまっすぐに降下する方が速い。俺はハンドガン型の魔銃を乱射しながら墜ちた騎士の側に降りた。


「アリス、頼む」


 アリスに、近づいてくるバッタの始末を任せて騎士の様子を見た。左腕が変な方向に曲がっているが飛行用の皮鎧の下で胸は上下している。


「よし、まだ生きている」


 俺は騎士を担いだ。担いでみて初めて分かった。


――こいつ、女だ――


 俺はカーラを担いだまま飛び上がって、バッタの群れから離れた。全速を出したかったが、それではこいつの体が保たない。俺の横でアリスが的確に近づいてくるバッタを落としている。5kmほど離れてカーラを地面に横たえた。手早く全身を調べた。あちこちに内出血があるが、左手の骨折以外に大きな傷はなさそうだ。バッタに小突き回されて半分気を失っていても飛行魔法を発動し続けていたのだろう。その辺りは良く鍛えられているようだ。


 俺はバッタとの戦いに戻ることにした。ハンドガンをライフルに交換して飛び上がった。



―――――――――――――――――――――――――



「バッタの上昇限度より上に行け、バッタを囲むように旋回しながら撃ち下ろせ。間違っても水平に撃つな。仲間に当たるぞ」


 私の命令に竜騎士達が上昇を始めた。カーラのことは気になるが、今はバッタを攻撃する方が先だ。それにあいつがカーラをバッタの群れの中から助け出してくれたのが見えた。カーラを地面に横たえて、頭の上で両手で○を作っている。どういう合図なのか分からないが多分、カーラは大丈夫という意味なのだろう。あいつがカーラの横から垂直に飛び上がりぐんぐん上昇するのが見えた。あっという間に私達の高度を超えた。また頭上を取られたわけだ。


 100尋も上がればバッタはそこまで上がってこられない。私の命令で、飛竜騎士達はほぼ等間隔に開いて、バッタの群れを囲うように旋回を始めた。次々にブレスと魔法を撃ち下ろす。旋回輪の直径は2里強だろうか?当然全部のバッタが旋回輪の中に入っているわけではないが、8割は閉じ込めた。徐々に輪を狭めて行けば叩きつけるブレスと魔法の効率――1発で撃ち落とせるバッタの数――も良くなる。


 あの男は我々よりさらに300尋は高いところにホバリングしている。空中の1カ所にとどまり続けるなんて飛竜には出来ないことだ。両手に奇妙な杖を持って下を見下ろしている。頻回にその杖の先端が光って魔力塊が撃ち出される。魔法杖なのだろうか?旋回輪から抜け出そうとしたバッタを撃ち落としているのだ。旋回輪の中には撃ってこない。基本的に旋回輪に閉じ込められたバッタの始末は我々に任すつもりらしい。驚いたのは男の横を飛んでいるピクシーからの攻撃魔法だ。男と同じように旋回円を抜け出しそうなバッタを狙っている。火弾だと……思う。私達の火弾より小さくて速い。それを次々と撃ち出してくる。バッタの頭を狙っているようだ。当たるとバッタの頭が爆ぜる。ピクシーがこんな攻撃魔法を持っているなんて初耳だった。それに攻撃対象が男と重複しない。男とピクシーが同じバッタを狙う事がなかった。すぐ側を飛んでいるとは言え、意思疎通は完璧のようだ。


 旋回輪はドンドン小さくなっていった。閉じ込めたバッタはあらかた撃ち落とした。


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