第27話 竜騎士

 街に入って6日目の朝、朝食を済ませて今日も街中に出かけようとした俺に、


「今日は政庁前広場で竜騎兵の行進パレードがあるよ」


 と教えてくれたのは宿の女将さんだった。


「竜騎兵?」


 つい疑問を口に出したが、


『竜を使役する兵だよ。この世界の最強の暴力装置さ』

『知っているのか?』

『うん、街中で盛んに話に出てたものね、皆の楽しみみたいだよ』


 この野郎、いや野郎じゃなかったか、知っているなら一言先に言え。お前に聞こえる声も俺には聞こえないんだぞ。


『だって、その場で言う方が新鮮な驚きになるじゃない。本当は政庁の方へ行ってから言おうと思ってたんだけど、女将さんに先に言われちゃった』


 聞くと、年に2回、その偉容を見せるため竜騎兵のパレードがあるそうだ。地竜騎士がティズリア街道から政庁前広場を行進し、その上空を飛竜騎士が飛ぶという。この世界の最強の暴力装置というなら是非見ておかねばならない。それにしても竜を使役することに成功しているのか、この世界は。



 パレードの一番の特等席は政庁前広場だ。パレードが始まる1時間も前からぎっしりの人混みで、身長175cmの俺では前の人間の後頭部しか見えない。この世界の成人男性の平均身長は俺より高いようだった。女でも俺より背の高いのがザラにいる。まあアリスを浮き上がらせて視覚を共用すれば良いのだからと焦っては居なかった。だから後ろの方でのんびり控えていた。それにしても年に2回あるというのだから、街の住人にはおなじみの行事だろう。それなのにこんなに人が集まるなんて、この目で見なければ信じられない。


 広場の縁に沿ってずらりと並んだ屋台で適当に食い物を買ってほおばりながらパレードの始まりを待っていた。俺が買ったのは小麦粉を水で溶いて薄く焼いたものの上に香辛料を効かせた肉と野菜を油で炒めたものを載せて巻いた料理だ。一応大きな木の葉で包んで手づかみにならない様にはしてある。熱を加えた香辛料の香りが立って、商隊の夜営で食ったものよりずっと美味かった。

 例によってアリスが横からちょんちょんとかじっていく。昼間から酒を売っているのはこれが一種のお祭りになっているからだろう。パレード前に既に酔っ払って広場の端で横になっている奴も居る。


『アヤト、相変わらずこんなB級グルメが好きだね』


 放っとけ!お前も美味そうに食ってるだろう。


 10時頃からパレードが始まった。東市門を入ったところにある広場が出発点で、40頭の地竜が2列になって行進してくる。地竜は2足歩行で頭の高さが2.5m、騎士を乗せる背が1.8mの所にある。走るときは頭からしっぽの先まで地面にほぼ平行になり、馬より速いと横で自慢顔に話してくれた爺さんが言った。

 頭の天辺から尻尾の先までの長さが6m、尻尾が体長の半分を占める。地竜騎士達は兜をかぶり、つま先までを覆う金属の全身鎧を着ている。おそらく竜を降りたら自力で歩くのが精一杯だろう。身長の2倍はある長槍を小脇に抱えている。主要武器は魔法だから本当は魔法杖でも抱えるべきだが、槍の方が見栄えがするのでこうなっているそうだ。それが2頭ずつペアになって、等間隔でズシリズシリと近づいてくるのはなかなか迫力のある見物だった。


 地竜騎士が政庁前広場に差し掛かったときに、東の方から飛竜が編隊で飛んできた。群衆の喚声がひときわ高くなった。


「どうだ、あれが俺たちの飛竜騎士だぞ」


 さっきから隣で爺さんがうるさい。お前新参だろうとか言って、ずっと俺にくっついていろいろしゃべりかけてくる。まあ情報収集には良いんだが唾を飛ばして喋りまくる爺さんは正直うるさい。しかし、広場で停止している地竜騎士の上で編隊飛行を見せてくれる飛竜騎士は確かに見物だった。飛竜は地竜より少し小型で体長5m、前肢が大きく張り出して、胴体との間に膜があって翅のようになっている。


――あの翅だけじゃないな、魔力と併せて飛んでいる、方向転換やブレーキを掛けるときに使うのは主に翅のようだ――


 飛竜騎士は背に鞍を載せて、それに乗っている。11騎の飛竜騎士が1騎、1騎、と3騎編隊3つに分かれ、先頭の1騎の先導で、分裂、集合、突進、分裂を繰り返す様はよく訓練されて見事なものだった。


「どうだ?すげえだろ」


 爺さんが反っくり返って自慢した。


「先頭の一騎が隊長なのか?」


「そうさ、アビゲイル・メジテ様さ。7貴族筆頭のメジテ家の直系で、ヤルダが生んだ最高の飛竜騎士様だ」


 飛竜騎士は全身鎧を着てはいなかった。さすがに素肌剥き出しの所はなかったが兜の他、鎧は胸と腰の部分だけで、それも皮鎧だった。まあ地竜騎士が来ているような金属製の全身鎧では重すぎて飛ぶのに邪魔だろう。




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