第26話 ヤルガ

 次の日の朝食後から街中の探検だった。購入した服に、ベルトに手挟んだ拳銃型の魔銃、それに魔鋼製のナイフと財布を持って俺は街に繰り出した。背嚢とライフル型の魔銃、それに脱いだ装甲戦闘服はアリスのポケットに入れた。本当に便利だ。常に全財産を持ち歩けるわけだ。ポケットより明らかに大きい背嚢が、飲み込まれるようにポケットに収納されていくのはかなりシュールな光景だった。背嚢だけでも40kgはあるはずなのに、


「重さは掛からないの」


 アリスは平気な顔だったし、ピナフォアが重力で引っ張られている様子もなかった。



 ヤルガは6km四方の正方形の都市だ。四辺は概ね東西南北を向いており、それぞれの市壁に門が一つずつ、つまり東門、西門、南門、北門があった。西はコーヴェジ河という大河に接しており、西門の荷の出入には水運も使われている。ヤルガでは3本の街道が交差している。北に延びるニオラ街道、東西に延びるティズリア街道、南に行くレガンティア街道だ。このうちニオラ街道はヤルガとファダを結ぶだけの道でこの中では一番通行量の少ない街道だった。


 ヤルガのほぼ中央に政庁があり、政庁の前を通る大通りはそのまま、東西に走るティズリア街道に繋がっていた。政庁の前、南側には広場があり、様々な行事や催し事に使われる。多いときには数万人が集まることがあるという。政庁の東隣にこの世界の最高神クローフィニアをはじめとする5柱の神を祭る神殿がある。クローフィニアは時の神、その他には、明の神メーランジュ、暗の神アムディア、天の神スキィーエリ、地の神キヴィジェで、全て女神だった。実在の神々で本神殿のあるシュラムニケでは時々降臨するという。


 政庁の周りが貴族街、街は上級貴族の合議制で運営されている。政治に関与する主な貴族家は7家、法律や予算は一応拡大貴族会で審議され、承認されたあと貴族会に回される。最終決定を下す貴族会の議長は7家の持ち回りになっている。


 商業地区、工業地区、住宅地区がほぼ分かれており、南東の隅には大都市に付きもののスラムもある。


 そんなことを俺は、商業地区にある持ち帰りの食い物屋や屋台から買ったものを食いながら街をぶらぶら歩いて頭に入れていった。アリスは俺の左肩に座って同じようにキョロキョロしている。坐っているように見せているが体重を掛けず、俺の動作を阻害しないようにしているのはさすがだった。ただ時々俺が食っている肉串なんかに横から食いついてかじり取っていく。アリスの語彙も随分普通の言葉で上書きされたようで、夜に俺に刷り込む言葉もまともになってきた。それに伴い俺の言葉も流ちょうになった。


 その次の日は街中をぶらぶら歩いた。面白そうなものがあれば買う予定だったが(なにしろ持ち運ぶ心配をしなくて良い)、結局買ったのは香辛料くらいだった。


 カラズミドの店によってこれまで狩り貯めていた魔結晶の一部を売った。この世界の金をこれからも必要とするだろう事が分かったからだ。


「これはまた、いろんな魔物を狩られたようですな」


 街からかなり離れなければいないような魔物の魔結晶もある。そんな魔物をヤルガから狩りに行くと5~6日掛かることが普通だった。それだけヤルガでは貴重な魔結晶だった。カラズミド自身が店に出てきて相手をしてくれた。ニコニコしながら魔結晶を鑑定している。


「ああ、旅の途中でいろいろ狩ったからな。あんたなら適正な価格で買ってくれそうだ」


「そうですな。商売には信用が第一と心がけております。質の良い魔結晶はいくらあっても足りませんからな」


 全部で金貨15枚になった。色変わりオオカマキリの魔結晶ほどの額にはならなかったが、何しろたくさんあったので結構な金額になった。


 傭兵協会に行くと、3人の指名手配犯の捕縛の報償、16人の犯罪奴隷の代金で金貨20枚になったと告げられた。指名手配されていた3人の裁判が終わって刑が決まると報奨金の額が決まる。今日裁判があって、判決は死刑だそうだ。上告はないから確定判決になる。ヤルガのような交易都市では流通の障害になる山賊・匪賊に対して刑が重くなる傾向がある。

 約束通り折半と言うことであの傭兵クランのあたまであるベルナティスと10枚ずつ分けた。負傷者にはカラズミドの方から多少の見舞金が出ているようだ。ちなみに傭兵団の名はあたまの名を付けるのが普通で、あのクランはベルナティス傭兵団と呼ばれている。どの傭兵団もほぼ固定のメンバーで運営されており、名の高い傭兵団――ベルナティス傭兵団もそうだという――は加入するのも難しいようだ。



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