第24話 魔導車に乗って 5

「あんた、魔物に対しても凄腕だな」


 カラズミドとの話が終わって、魔導車の後部へ行くと、荷物が片寄せられ人間が座ることのできるスペースが作られていた。腰を下ろすと男が話しかけてきた。この傭兵隊のあたまだという。確かに山賊達との戦いを見た感じでも傭兵達の中で一番の腕利きだった。


「俺はゴルディ・ベルナティスだ。この傭兵隊のまとめをしている」


 話しかけられて、俺は少しだけ頭を下げて挨拶した。傭兵隊のまとめというかあたまがどれくらい偉いのか分からなかったからだ。


「いや、魔物狩りで食っていたから、慣れているだけだ」


「一人で狩るのか?」


「こいつがいるからな。一人でもやれるんだ」


 俺はアリスを差しながら答えた。アリスは一見無表情のまま、俺にだけ分かる遣り方で笑って見せた。


『傭兵ってね、結構重んじられているみたいだよ。街の外って魔物やら匪賊やらであんまり安全じゃないから、護衛や魔物狩りをする傭兵が必要とされているみたい。一人じゃなく何人かで仕事を請け負うのが普通で、そう言うグループの頭だからまあまあの社会的地位を持っているよ』


 俺の思いを読んだようにアリスが教えてきた。読心術でも仕様の中に入ってきたのか?


「そうか。俺たちは護衛を主にやっているが魔物狩りにも手を出している。あんたと一緒なら相当な大物も狙えそうだな」


「ああ、俺一人では大物を仕留めても運びきれない。そんな機会があったらよろしく頼むよ」


 傭兵ってのがそんな立場なら、顔見知りになって悪いことはないだろう。


 大山猫でも、戦闘狂熊でも俺だけだと魔結晶とわずかな素材を持ち帰ることが出来るだけだ。アリスは血塗れの素材をポケットに入れることを拒否している。


――汚れるのはいや、掃除のしようがないのだもの――


 こいつらと一緒ならかなりの素材を持ち帰れる。報酬を山分けしてもその方が稼げるだろう。


「ああ、機会があればよろしく頼む」


 ゴルディ・ベルナティスが右手を出してきて俺も握り返した。こっちにも握手って習慣はあるんだ。軽度コミュ障としてはよく話しをした方だろうと俺がアリスを見るとウィンクしていた。



 ヤルガの街へはカラズミドの顔パスで入った。カラズミドが保証人になると言うと門衛達は素直に通してくれた。

 身分証に当たる物を傭兵協会で作っておく必要があるとカラズミドからアドバイスを受けた。俺はヤルガの正門を入ってすぐにある傭兵協会に先ず寄った。カラズミドも傭った傭兵達がきちんと任務を果たしたことを報告しなければならないようだ。俺と一緒に傭兵協会のドアをくぐった。


 さらに傭兵協会に捕まえてきた山賊共を引き渡した。ベルナティスが傭兵を指揮して山賊を引きずってきて、協会の裏手から建物の中に入っていった。ずっと縛られっぱなしでかなり弱っていた奴もいたが死んだのはいなかった。

 傭兵が捕まえた山賊は傭兵協会から警備隊に引き渡されるのが通例だとか。指名手配書と照らし合わせ、裁判の結果を見て報奨金の額が決まると、俺が傭兵協会に所属するための手続きをやっているときに無愛想な協会の職員から言われた。ちなみに登録証を作成するときの保証人もカラズミドがなってくれた。

 犯罪奴隷としての値段も奴隷商が査定するそうだ。だから後日、もう一度来るようにとのことだ。

 銀貨2枚の登録料は報奨金から引かれる。まあ報奨金の配分をどうするかも俺としてはカラズミドと相談しなければならない。取りあえず登録を済ますと、この世界にアヤト・ラトウィッジという人物が居ることになった。登録証に俺の名前と、特記事項として従魔付きと記されてあった。登録証は石、というかセラミックで作ってあった。作るのに特殊な魔法が必要で偽造が難しいのだとか。


 それからカラズミドの店に行った。街の大通りに面した大きな店だった。商っているのは金属製品――武器や防具――が主で、ファダまで行ったのも、ファダで作られた金属製品とインゴットを買うためということだった。インゴットを買ったのはカラズミドの店、というより工房でも金属製品を作っているからだ。武器が主で、注文主に合わせた特注品を作るのだという。ファダで作られた武器もあるのだがそれは言わば既製品で、武器を必要とするような者達は少し腕が上がるとそう言う注文品をほしがるそうだ。

 俺はカラズミドから金貨18枚を受け取った。その中から金貨2枚を保証人になってくれた礼としてカラズミドに払った。まあ相場だとアリスが言った。さすがに傭兵協会でも正体の分からない流れ者を、誰でも彼でも登録させるわけではない。

 山賊捕縛の報奨金は折半と言うことでまとまった。傭兵には怪我をした奴も居たからその分傭兵の取り分を多くしてもいいと俺は言ったが、カラズミドが怪我の見舞金は自分が出すからと言って折半になった。



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