第701話 第五位階悪魔 ヴェネトール
女悪魔の先制攻撃をどうにかして凌いだ北条。
もしこの攻撃がそのままジャガーマウンテンにぶち当たっていたら、どうなっていたか。
その結果を北条は予知夢の中で目撃している。
あの時ジャガーマウンテンに開けられていた巨大な穴は、恐らく先ほどの魔法によって穿たれたものだったのだろう。
実はこのジャガーマウンテンの内部には、ポータルルームや収容所の施設が置かれていた。
よって、あの予知夢の中では女悪魔によってポータルルームも破壊されていたハズで、北条以外の者が転移で逃げる事も出来なくなっていたと思われる。
……そのような事を考えながら、今度こそ北条は女悪魔に対して"解析"を使用する。
すると膨大な情報が北条へと押し寄せていった。
≪ヴェネトール 第五位階悪魔 レベル163≫
≪所有スキル:苦無術:超級 短剣術:特級 突剣術:超級 杖術:超級 突剣術・極 魔術杖術 体術 纏魔術 軽装備:超級 爪術 魔爪術 火魔法:超級 土魔法:特級 風魔法:超級 水魔法:超級 神聖魔法:超級 氷魔法:超級 付与魔法:超級 呪術魔法:超級 劫火魔法 颶風魔法 大海魔法 純聖魔法 氷霜魔法 暗黒魔法 漆黒魔法 精神魔法:超級 添加魔法 呪詛魔法 毒魔法 筋力強化:極 体力強化:極…………≫
ヴェネトールという女悪魔の名前と、第五位階という悪魔の位階。
そしてゴドウィンを大きく上回る高いレベル。
それから多くのスキルを確認する事が出来た。
戦闘系スキルや魔法系スキルは、当然のように超級に達したものや上位スキルが並んでいる。
そして優先順位的に真っ先に調べるユニークスキルとレアスキル。
ユニークスキルには"異常なる祝福"という祝福系のスキルを持っており、レアスキルに関してはは十個以上持っているようで"鑑定"も所持していた。
("異常なる祝福"は、相手を一度に複数の状態異常にするスキルか。モルっとしてボルっとした奴が吐く臭い息のような感じだな。俺には余り効かんと思うが、ユニークスキルなだけに注意はしておこう)
北条が解析している間にも、"鑑定感知"のスキルに何度か反応があった事から女悪魔も鑑定をしていたんだろう。
しかし何度も使用している事からも分かる通り、女悪魔側は北条のステータスを見る事に失敗しているらしい。
「君、人間だよね? そこに倒れてるゴドウィンをやったのは君なのかい?」
「……まあそんなようなもんだぁ。それより、そんな高いところからじゃあ話もしにくい。下りてこないかぁ?」
「何か企んででもいるのかな? まあ、いいけどね」
ヴェネトールは既に"悪魔結界"を展開している。
それは土壇場でスキルに目覚めたゴドウィンのものと比べると、見ただけで違いが分かるほどの強固な結界だった。
ゴドウィンがそうであったように、ヴェネトールも"悪魔結界"に対しては絶対の自信があるのだろう。
北条の誘いにのってすんなり地上へと下りてきた。
その間にも北条の"解析"スキルは働いており、幾つか気になるスキルをピックアップしている。
(正直ゴドウィンならステータスでは全て勝ってたんだが、こいつは流石にどれも高いな。器用は結構負けているし、魔力と敏捷も向こうが上だ。そのほかの筋力などは恐らく俺の方が高いだろうが……)
「ねえ、もしかして君。ボクの事見てる?」
「そりゃあ見るに決まってるだろぅ。悪魔を前にして目を離す訳にいくまい?」
「そうじゃなくて。ボクの事鑑定しようとしてるでしょ? でも無駄だよ。そんな必死に見つめても何も見えたりはしない」
"鑑定感知"は所持していないが、感覚的なもので自分が鑑定系スキルを使われている事を認識するヴェネトール。
しかし、このどうやら実際は"解析"によって情報がすっぽ抜かれている事に気付いてなさそうだ。
(まあ"鑑定"があっても、普通はこんな高レベルの相手には通用しないだろうからな。……にしても、"時流感知"というスキルがあるが、以前予知夢を見た時に気付かれたのはこのスキルのせいか?)
他にも色々と気になるスキルはあったものの、北条が気になったのはまずそこだった。
ただヴェネトール当人は、その時の事を覚えていない様子。
あの時はあくまで予知夢の中での話だったので、今目の前にいるヴェネトールはまた違った未来……予知夢とは別の時間軸のヴェネトールなのかもしれない。
「別に鑑定できなくとも、見るべき箇所はあるだろう?」
「弱者なりの知恵という奴? 涙ぐましいものだねえ実に」
あざ笑うかのようなヴェネトールだったが、すでに北条はステータスや称号、そして所有スキルからこの悪魔がどのようなタイプかを見極めている。
これまでフィールドで出会った悪魔は、長井を除いて二体とも肉体派だった。
だがヴェネトールは魔法メインであり、何より状態異常系や補助に特化したスキル構成になっている。
バフもデバフも使えるし、"異常誘発"という状態異常系のスキルや魔法の成功率が上がるパッシブスキルも所有していた。
(バリバリな戦闘タイプではない……。だがそれでも先ほどの威力の魔法をポンッと打てるほどに、レベルの差は大きい。それでもこのタイプの悪魔ならまだやりやすそうだ)
「それでもそのおかげで、そこのゴドウィンを倒す事は出来た」
「ふうん……。肉体だけでなく、魂までも完全に消滅しちゃったみたいだね。予備の〈漆黒石〉はあるけど、これじゃあ使えないな」
「なんだぁ、その不吉な名前の石は」
「ボク達悪魔の魂を一時的に宿す事が出来る石だよ。肉体なんて単なる器に過ぎないからねえ」
ヴェネトールの説明を聞いて、これまで見聞きした事が間違いではなかったと確信する北条。
あの悪魔司祭との戦いの後に放った【シャイニングピラー】の魔法。
そして今回ゴドウィンの死した場所に放った【天上回帰】の魔法は、しっかり意味があった行動だったようだ。
「随分と口が軽いんだなぁ? 俺も悪魔について調べた事があるが、そんな情報はどこにも載ってなかったぞぉ。人間みたいに個体差もあるだろうが、お前は大分お喋りな奴らしいなぁ」
「どうだろうね? 情報がなかったっていうけど、人間って貧弱だから、ボクみたいなお喋りな悪魔がいてもそれを伝える事が出来なかっただけじゃないの?」
「はっ、確かにそうなのかもしれんなぁ」
「という訳で、君にもそろそろ死んでもらうよ。全ての終わり。生命あるもの全てに訪れし定め。黒魔の力にてここに顕現せよ。【デス】」
先ほどと同じように、膨大な魔力の動きを感知した北条は、〈バルドゼラム〉を手にヴェネトールへと迫る。
しかし当然の事ながら、"悪魔結界"を打ち破る事は出来ず暴風のような斬撃の嵐は、ヴェネトールに一切傷を与えられない。
その間に魔法の詠唱を終えたヴェネトールは、勝利を確信する。
ヴェネトールが使用したのは"漆黒魔法"の一つであり、その名の通り相手に死を与えるという単純明快な魔法だ。
即死攻撃というのは成功してしまったら死んでしまうため、生まれ持って"即死耐性"でも持っていない限り、人間にとってはこれ以上ない程の効果的な攻撃方法だ。
それもヴェネトールは百六十三と高レベルなため、通常の人間であればまず間違いなく即死効果が表れる。
「……あれ?」
だからこそ、ヴェネトールは魔法の効果が現れない事に微かな同様と心の隙間が生まれる。
そこへ更に、特殊能力系スキルの"アテンショントリック"を使用する北条。
これは相手の注意を他所に逸らすだけのスキルであるが、魔眼スキル同様にこのスキルも"悪魔結界"に阻まれる事はなかった。
この二つの条件が重なった事で、かすかに"悪魔結界"に揺らぎが生じていた。
それはほんのわずかな間の事であり、別に結界が一部破れたとか、脆くなったりだとか、解除されたという訳でもない。
『転移陣起動』
そのほんの一瞬の間に、北条は日本語のコマンドワードで、予め仕掛けてあった転移の魔法陣を発動させる。
予知夢を見てこの場所が最初の戦場になる可能性が高いとみて、まっさきに仕込んでおいた転移魔方陣だ。
魔石を贅沢に消費し、普段北条が魔法を使う時よりも多量な魔力と引き換えに、転移魔法が展開される。
北条の右手は、ヴェネトールの"悪魔結界"へと触れた状態だ。
すでにヴェネトールへの"解析"は終わっていて、"空間耐性"だとか"空間魔法"だとかのスキルを保持していない事は確認済。
問題は"悪魔結界"がどう作用するかという事であったが、結界の一瞬の揺らぎをついた効果もあったのか。
次の瞬間には、ジャガーマウンテンに二人の姿はどこにもなくなっていた。
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