第700話 ゴドウィンの死と、残されし者。そして……
「やったか!?」
「ちょ、和泉リーダー。そのセリフはやばいって!」
「なんだ? もしかしてまだトドメを刺せていないのか?」
〈バルドゼラム+10〉によって首を切り離されたゴドウィンの下に、信也達他のメンバーが駆け寄ってくる。
龍之介はお約束のセリフを信也が吐いた事にツッコミを入れるが、信也はその事に理解が及ばずしかめっ面をしていた。
「ああ、待てお前達。近寄る前に仕上げをするから少し離れてくれぃ」
北条の言葉に近寄って来た面々はその場で立ち止まる。
それを確認した北条は、ゴドウィンの死体の辺りに"光輝魔法"の【天上回帰】を使用した。
ソレが何なのかは分からないが、以前悪魔司祭を倒した時にも感じた黒い気配。
それは悪魔の魂なのかもしれないし、もしかしたらそれが本体なのかもしれない。
マージも言っていたように、フィールドで活動している悪魔はただ殺しただけでは終わらないという話を北条も聞いた事があった。
なので今回も悪魔司祭の時同様に、前の時よりはハッキリと感知できる黒い気配に向けてトドメの一撃が放つ。
それによって完全に黒い気配が消えた事を感じ取った北条は、ようやく一息ついた。
「今ので終いか? よーやったでホンマ」
「ゼンダーソン……。今回は協力してくれて助かったぞぉ。改めて礼を言っておく」
「ええてええって。今回の事は俺にとっても経験になったからな!」
ゼンダーソンにとっては、格上の悪魔相手との戦いはまさに望むところであった。
それも同格やそれ以上の者達と共闘する機会など、そうそう得られるものではない。
「これで帝国の災厄の悪魔も潰えた……か」
「本当に強い悪魔だったな……。拠点に襲ってきた連中といい、北条さんが予知夢を見ていなかったら、成す術もなく蹂躙されていただろう」
「そう考えると恐ろしいですね……」
エスティルーナやメアリーも北条の下へと集まってきた。
そこで改めて北条は全員の状態を確認して、大きなダメージやゴドウィンが何か置き土産を残していないかをチェックする。
「細川さんは……大丈夫そうだなぁ。死んでから発動する呪いのようなものもなさそうだし、後は最後の問題を解決するだけだぁ」
「それなんですが、本当に大丈夫なのですか? 黒い影というのは今のゴドウィンより強力な悪魔なのですよね?」
「おう、シャンティア。最後の一撃は良かったぞぉ」
「あ、はい……ではなくてっ! ゴドウィンの"悪魔結界"は結局最後力押しで破れましたが、更に高位の悪魔となれば力押しで破るのは無理なのでは……」
「せやな。さっきは調子こいて攻撃食らいまくてたから、どうにか割る事ができたんやと思うで」
「ホージョーは"漆黒魔法"を使えるのかもしれんが、それだけで戦うのは無謀すぎる。先ほどの戦を見れば、
「俺と和泉リーダーのダブル"神妙剣"でも、トドメを刺せなかったしな。あれにはビビッったぜ」
仲間達からは次々と心配の声が上がるが、その事は北条も重々承知していた。
だからこそ、最後の仕上げとして帝国の各都市で大虐殺まで行ってきたのだ。
ただエスティルーナが指摘した、生命力の高さは想定以上ではあった。
これまでダンジョン内で戦った悪魔には、称号がついていなかった。
しかしゴドウィンにはきっちりスキル系の称号や『ヒューマンキラー』などの称号と共に、『頑健なる者Ⅴ』の称号があったのを確認している。
それだけでHPがかなり膨れ上がる計算だ。
「まあ助っ人は用意出来たし、やばくなったら無理せず逃げる事にするさ。それより、そろそろ危険だからお前達はそこに集まってくれぃ。一旦本区画の方へと飛ばすぞぉ」
すでに信也達人間は集まってきていたが、竜形態のヴァルドゥスとヴィーヴルも北条の呼びかけに同じ場所へと集う。
ブラックヒュドラ以外が全て揃ったのを確認すると、北条は"空間魔法"で自分以外の皆を転移させた。
「さて……」
先ほどまでの激しい戦闘が嘘だったかのように、辺りは静まり返っている。
ゴドウィンの"山割り"によって起きた土砂崩れも一先ずは落ち着いた状態を保っており、何か刺激を与えない限りはこれ以上崩れる事はないだろう。
「何時現れる? ゴドウィンとの戦いで、最後MPを使ってしまったからな。出来るなら少し間隔を開けてくれると助かるんだが……」
そう一人呟いて北条は空を見上げる。
二度目の予知夢では、空中を飛んでいる黒い影が映っていた。
それも丁度今いるジャガーマウンテンの上空辺り。
黒い影に気を取られて地上は余り観察できなかったが、見た感じだと大分戦いが沈静化した状態だったと北条は記憶している。
「しかし、今回は恐らく二度目の予知夢より状況は良くなっているハズ。つまり、以前の夢では戦いが収まっている段階で黒い影が現れたが、今回は時間的余裕があるんじゃないか?」
北条のその予想は当たり、それからしばらくの間黒い影らしき存在が姿を見せる事はなかった。
その間にすっかり拠点に侵入した敵の排除が完了したようで、信也から〈ケータイ〉の連絡が届く。
【む、そうか、よくやってくれたぁ。では和泉達は渡しておいた転移魔導具で、拠点を退去してくれぃ。俺の従魔達もそちらに向かわせてるから、そいつらも壺に入れて一緒に頼む!】
【分かった! 北条さんもくれぐれも無理をせず、絶対に帰ってきてくれ!】
【ああ、また会おう】
少々想定外の部分もあったが、ここまでの流れに大きな問題はない。
「ん?」
拠点から次々と消えていく気配に、北条はこれまでの対策が上手く機能している事に手ごたえを感じていた。
……だというのに、拠点にはまだ一つだけ気配が残っている。
それもかなり衰弱しているようで、感じ取れる気配は酷く弱弱しい。
「おい、これはだれな…………ッ!!」
一人拠点に残された者が気になり、思わず小さな呟き声を漏らす北条。
しかしその事に意識を集中する前に、上空から小さな声が聞こえてきた。
「ふむ、どうやら少し……いや大分か? 手遅れだったらしい」
その声を発した者はジャガーマウンテンの上空に浮かんでおり、その背には当然のように悪魔の翼が生えている。
クラシックな手品師のような服装をしており、手にはステッキを持ち、頭にはシルクハットのようなものを被っている。
恐らく今の状態が本来の悪魔の姿だと思われるが、それにしては見た目は人間に近い。
まるで有名歌劇団のスターのような顔立ちをしており、悪魔らしくどこか魅惑的でアンニュイな雰囲気を醸し出している。
また悪魔の象徴ともいえる角だが、先ほど一瞬帽子の位置を直すために軽く被りなおしていた時には確認出来なかった。
角の無い個体なのかもしれない。
肌は全身薄い灰色をしており、耳がエルフとは違う感じで尖っている。
見た目だけだと男女の区別が一見つきにくいが、先程聞こえてきたアニメの少年役の女性声優のような声からして、男ではなく女なのだろう。
「……まあいい。あそこにあるゴドウィンの死体と共に、近くにいる男を消せばいいか」
相手の姿と位置を確認した北条は、続けて"解析"を発動させようとした。
しかし急激な魔力の動きに、慌てて"解析"をキャンセルする。
とんでもない威力の魔法が来ることを予想した北条は、魔法を反射する"マジックリフレクション"のスキルを、"スキルエクスパンドスコープ"のスキルで範囲を拡大させて発動させた。
「――と至る絶無の調べ。暗穴は全てを飲み込む。【アビスホール】」
女悪魔が魔法の詠唱を終えると、直径百メートルほどもある筒状の漆黒が空から落ちてきた。
瞬時にして辺りが薄暗くなるほど、全く光を通さない筒状の漆黒は、即座に北条へと降り注ぐ。
……が、北条の肉体へと届く前に、範囲を拡大した"マジックリフレクション"へとぶつかる。
本来であれば打ち込んできた相手に魔法を跳ね返すスキルなのだが、余りに強力な女悪魔の魔法は、受け止めるだけでも精一杯だ。
「んんならあああああっ!!」
それでもどうにか角度を調節して、上手い事降り注ぐ漆黒の柱を跳ね返すと、女悪魔の方ではなくジャガーマウンテンの山頂の方へと反射していく。
その漆黒の柱は山頂部分を完全に抉り取り、歪な形へと一瞬にして変化させた。
「ハァッハァ、こりゃあ後で直すのが面倒だな……」
北条は苦い顔をしながらも、涼しい顔してとんでもない魔法を放った女悪魔に、再び視線を向けた。
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