第696話 荒れ狂うゴドウィン
◆◇◆
獣化したゼンダーソンとヴァルドゥスが前衛を張り、後衛と間隙をついての攻撃を回復したヴィーヴルが。後衛にエスティルーナと北条というフォーメーションでの戦闘は、徐々にゴドウィンを消耗させていった。
北条は魔力を消耗する魔法や闘技スキルは控え、遠距離から弓や投擲攻撃をして援護し、時折支援魔法などでフォローをしている。
エスティルーナは上位精霊を全て呼び出して、隙あらば魔法攻撃を叩きこんでいた。
「いい加減……死に晒せぇい!」
息を乱しながら、ゼンダーソンが闘技最終奥義スキル"獅子炎獄殺"を放つ。
元々"炎纏"で纏っていた炎が、更に強く熱い炎となってゼンダーソンを取り巻き、そのままゴドウィンに向かって無数の拳が撃ち込まれる。
それに対しゴドウィンは、格闘技系の闘技スキルでゼンダーソンの連打攻撃を幾つか相殺しながら、被弾した分は気合で耐えていく。
ゼンダーソンもダンジョンの祝福を幾つも受けており格上相手に健闘してはいたが、レベル差はいかんともしがたいものがあった。
レベルが上がりにくくなる百一レベルからは、レベルアップ時のステータス上昇幅が大きくなる。
それと同じで更にレベルが上がりにくくなるレベル百二十六以上からは、更にステータス上昇幅が大きくなっていく。
「ハハハハハッ! いいぜ、アツイ魂の籠った良ーい攻撃だ!」
攻撃を食らっているというのに、ゴドウィンの顔には抑えきれない愉悦の表情が浮かんでいる。
どこぞのMドワーフとは違って、純粋に戦闘に貪欲な者が見せる強者と戦う悦びによるものだ。
「ふぅぅっ……ふぅぅ。俺の乾坤一擲の攻撃を食らって、そない余裕そうなとこ見るとへこむわ」
"獅子炎獄殺"を最後まで撃ち終わったゼンダーソンは、最後にゴドウィンを殴ると同時にその勢いを利用して、背後に大きく飛んで距離を取る。
ゼンダーソンがゴドウィンと戦闘を初めてから、まだ一時間も経過していない。
ダンジョンの
ゴドウィンはそんなゼンダーソンに追撃を食わそうと前にでるが、機先を制するような北条の弓矢の一撃によって、出足を挫かれた。
「チッ、厄介な……。テメェがこん中で一番つえぇだろうに、チマチマとした援護ばかりしやがって。つまらねえ野郎だな」
ゴドウィンとしては、ガチンコバトルをしかけてくるゼンダーソンのような者が好みに合っている。
それはゼンダーソンも同じだったようで、悪魔という人類の宿敵のようなものを相手にしつつも、戦っている時は楽しそうな表情を浮かべていた。
「……もしやお前。奴の事を知らないのかぁ?」
「ああん? 奴ってのはお前に恨みを持ってるとか言う、あの女の事か?」
てっきり夢に出てきた黒い影とゴドウィンは繋がっているものだと思っていた北条だったが、ゴドウィンの反応からしてどうもそうではなさそうだ。
このバトルジャンキーな悪魔が、悪魔司祭のような謀略や腹芸に秀でているようには見えない。
「オッサン! 助太刀に来たぜ!」
ゴドウィンとの束の間の会話のやりとりが始まったこの段階で、長井を仕留めた龍之介達が転移してくる。
「長井はどうしたぁ?」
「彼女は完全に息の根を止めました。もう私達の前に現れる事はないでしょう……」
「おう! 最後は和泉リーダーが縦に真っ二つにしちまったからな!」
「真っ二つ……? 死体はどうしたんだぁ?」
「それなら、マージさんが魔法の炎で灰になるまで燃やしてくれたよ」
信也の返答を受けた北条は、何か魔法を使用した後にニッと笑顔を浮かべた。
「ふ、ふふふ……なるほどなぁ。じゃあ、あとはそこにいるゴドウィンをやってしまおう」
新たに現場に到着した三人に対し、ギラついた視線を送っているゴドウィン。
敵が増えたというのに、楽しそうな表情は微塵も揺るがない。
「いいぜ、いいぜえぇ……。人間相手にこれほど危機感を感じたのは、いつ以来だあ?」
「オッサン!」
「あいよぉ」
北条は早速転移してきた三人に"添加魔法"を使用していく。
メアリーも信也も支援系の魔法は使えるが、やはり北条の使用するそれが一番効果が高い。
「ゼンダーソンは……ほれっ。これでも飲んで、少し後ろに下がってなぁ」
そう言って北条が放り投げたのは、ポーションの瓶だ。
色の濃さからしてかなり等級が高いと思われる、スタミナ回復効果のある〈グリーンポーション〉。
それから魔力回復用の〈ブルーポーション〉も放られている。
前衛系であるゼンダーソンは魔法は使わないが、闘技スキルにはMPも必要となる。
これまでの戦闘で派手に闘技スキルを使っていたゼンダーソンの為に、〈ブルーポーション〉も渡す北条。
「おおきに。ほなら、少し休ませてもらうわ」
ゼンダーソンは戦闘バカではあるが、死にたがりではない。
あれだけ戦ってしっかりゴドウィンの強さを認識しているゼンダーソンは、自分の状態が悪い時に必要のない戦いに身を投じる事はしなかった。
「じゃあ続きといこうじゃねえか」
ゴドウィンのゴングの言葉と共に、メンバーを入れ替えての第二回戦……いや、ヴィーヴルとの戦闘を含めればこの場での戦闘の第三回戦が切って落とされた。
冒険者がダンジョンの魔物と戦う際、もっとも魔物側からして厄介なものは、連携と回復だ。
この辺りはどうしても魔物側が遅れを取る部分だ。
しかし基本的には個々の力で上位魔物に劣る人間達だが、魔物に抵抗する為に生み出した技術や戦術によって、今日の繁栄を築いてきた。
そしてそれは対
一人ずつ潰そうとするゴドウィンの猛攻を、連携を駆使しながら仲間を守り、魔法で治癒を施す。
そうした戦闘はゴドウィン視点からすれば、再生能力の強いヒュドラを相手にしているようなものだ。
というより、実際にゴドウィンはヒュドラを相手していた。
それも真っ黒い、上位種であるブラックヒュドラを。
「ハァァッ!? こいつはブラックヒュドラか? んなもんまでテイムしてんのかよ!」
さしものゴドウィンも、
ちなみにこのブラックヒュドラはテイムしたのではなく、【ロングサモンビースト】によって召喚されたものだ。
ブラックヒュドラの九つの頭部には、一本だけ再生力の強い本体が存在する。
そして本体以外の八つの頭部からは、猛毒、炎、氷、雷、麻痺、酸、腐食、呪いの特性を持つブレスを吐く。
特に強力なのは猛毒のブレスで、"毒耐性"スキルが仕事してないんじゃないかという位、多大なダメージを負う。
悪魔は種族的に状態異常への耐性が高い上に、"悪魔の肌"や"デビルクオリティ"によって耐性も得ている。
そんなゴドウィンであっても、ブラックヒュドラの猛毒ブレスは出来るなら避けたいと思わせるほどであり、ブラックヒュドラの召喚によって戦闘は北条達優位の展開となっていた。
龍之介の〈魔断刀〉も、メアリーの〈デーモンパニッシャー〉も、ゴドウィン相手には非常に有効であり、レベル差やステータス差の割にはきっちりダメージを与える事に成功している。
ブラックヒュドラの猛毒ブレスをうっかり浴びてしまえば、しばらくは毒の継続ダメージが入り、さしものゴドウィンも動きが若干鈍ってしまう。
「はっ、はははははは! こりゃあ、このままじゃあ勝ち目はなさそうだ。久々に全力で行かせてもらうぜぇ」
「何言ってやがる。そんだけ追い詰められておきながら、今更……」
大分ゴドウィンを追い込んだと思ったタイミングでのゴドウィンのこのセリフ。
最初は強がりで言っているのかと思った龍之介も、ゴドウィンが真の姿を現すのをみて、挑発の言葉が途中で途切れる。
人間形態時は少しガタイの良い、いかにもといった風体の前衛の戦士風だったゴドウィン。
しかし
背中からは悪魔の翼が生え、全身赤い肌をしたその姿はこれまで以上に見る者に畏怖をもたらす。
「さあ! もっと俺を楽しませてくれよ!!」
そう言ってフワリと空へと飛びあがったゴドウィンは、殺意をむき出しにして龍之介の下へと襲い掛かっていった。
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