第40話 死神・シックスセンス・フォー その2

 作戦会議。


 距離を取っていた俺らは、一旦集まる。

 難しいと思っていたが、シックスセンス・フォーは邪魔する事なく、逆に促してくれた。

 良い奴、とは思わないが。

 ……思えないが。


 俺が作戦会議に絡む事で、取るに足らない策になると思っているのだろうか。

 否定はしない。

 俺の頭で考えられるレベルの策なんて、あいつは見破るだろう。

 そして予測するはずだ。


 俺はそんなに分かりやすいのか。

 まるで幼馴染みたいな奴だな……しかし、実際に付き合いは長い。

 宿敵であるからこそ、そりゃそうだが。


 なんだかんだと俺とメビウスとシックス……、

 このトライアングルが記憶の維持をしている。


 シックスの方は、共有であり、肉体的に同一ではないのだが。

 大した違いじゃない。

 そんな些事、大したことねえよ。


「生き返るってどういう事よ! ふざけてるんなら私っ、帰るからね!」


 むすー、と頬を膨らませながら、ゆか。

 ふざけてるのはお前じゃねえのか……。


 表情には出さないが、同じ気持ちなのはこねぎも同じだったらしい。

 枢も静観している。

 俺と目が合うと視線を逸らすのは、さっきのやり取りにちょっとした後悔でもあったりして。


『鳩ちゃん、頑張れ!』


 ……俺も恥ずかしくなってきたな。


 そして、ハイスライムはその小さい体を活かして(?)足元に鎮座する。

 真上を見ているのはスカートを覗くためで、成功している。

 ま、言わないでおいてやる。


 どうせすぐに気づかれて、踏み潰されるだろうし。


「ふざけてなんかいねえよ。ちゃんと理由があんだ。お前らには言ってなかったな。敵、シックスセンス・フォーの能力は平行世界――パラレルワールド間の共有。それは知識であったり、状態であったりする。あの細腕に、巨大な岩の塊を投げられる力があると思うか? 下手したらゆかより細いだろ。あんなもん、ほとんど骨と皮みたいなもんだ」


「遠回しに私をデブと言っているのかな」

「言ってねえよ。解釈は自由だがな」


 スタイルいいじゃねえか。

 言うと、ゆかは満更でもなさそうに喜ぶ。

 そして一名、軽く不機嫌になっていた。

 枢には後でフォローしておこう。

 今はこんな会話をしている場合じゃないんだよ。


「あれはあいつの力で持ち上げてるわけじゃねえんだ。辻褄合わせ……別の世界でのシックスが、とにかくなんとかして、町を破壊した。それを今いるこの世界と同期させたわけだ」


 そうなると――どうなる。

 向こうの世界が親で、この世界が子ならば、破壊に合わされる。


 違いが修正され、辻褄が合わされる。

 岩の塊が崩落した、という設定で町が破壊されるのだ。

 もしかしたら、向こうの世界でも本当に岩が崩落したのかもしれない。

 ――が、そこはどうだっていい。


 そういう結果になった事で、この町も破壊されたのだ。


「……そっか」


 こねぎが頷く。

 父親だけではなく、全員が生き返るという奇跡への道が、分かったのだろう。


「どういうことなんだ?」


 足元のハイスライムは久しぶりに喋ったが、無視されていた。

 おおい! とツッコミながら飛び上がったが、ゆかによって踏み潰されていた。

 体が分裂しない、ちょうどいい力加減で、地面と挟まれている。

 固定されているので、身動きが取れない。

 再び喋ってもなに言ってるか分からねえ。


 悪いな、助けられない。

 というか俺を巻き込むな。

 抗いながらちょっと喜んでるじゃねえか。

 変態は救えねえよ。


「こねぎちゃん、どういうことなの」

「お前も分かってねえのかよ」

 

 いや、非難はしないが。

 分からなくともおかしくはない。


 分かっていては欲しいけど。

 これ、枢にも言ってるからな? 

 推理を俺に教えたのはお前なんだけどなあ……。


「えと、つまり、破壊が同期されて変化するのなら、その逆も可能ってこと」

「ああ、なるほど。破壊ではなく、救済を同期させる……って?」


 へえ、とゆかも頷く。

 まあ、頭の回転は早い方だし、きっかけさえあれば芋づる式に分かってくるか。

 女子は基本的にスペックが高い。


「方法には納得したけど、それ、あの敵がやろうと思わなくちゃできないんじゃないの……?」


 あいつを倒したから自動的に戻る……ってわけじゃない。

 町を破壊したのと同じく、あいつが別の世界とこの世界を同期しなくてはならない。

 まあ、それは、俺が上手くやるよ。


 これでも長い付き合い……幼馴染なんだから。

 片方は好意で片方は敵意という、奇妙な三角関係。

 三角なだけで、なにもこじれていないが。


 俺とシックスの間でしか、いざこざはなかったりするのだ。


『作戦会議は終わったか?』


 性別が重なり合った声。

 ……ちょっと待て、あと一分で終わらせる。


 あんまり待たせるのも悪いだろう。

 待ちくたびれて暇潰しに世界破壊旅行でもされたら敵わない。


 あいつは自由が欲しく、目的は枢の殺害であって、あとのことはどうでもいいのだ。


 破壊したって、気にしない。

 世界が更地になっても、あいつは、まあいいかと無関心に。


 好きな部分を戻せるから、という意味も強いと思うがな。


「枢だけは安全のために、レジェンダリー・ボックスに入れておいてくれ。

 いいだろ、ハイスライム」


「別に構わねえよ」


 きりっとした顔で言うが、地面と足裏に挟まれたままなのは滑稽だ……。

 そろそろ離してあげて。

 今のところ良いところが一つもないよ。

 こいつはひたすら鼻の下を伸ばしただけだ。


「結局、この牛の骨の能力はなんなの?」


「背中に背負う棺桶に入れたものを、保存する能力だな。

 たとえばゆかが入り、百年経とうとも、肉体は現在のまま維持できる……。

 若いまま時間を止めるのも、そうだな」


「へー、そうなのか。お前、詳しいな」


「ま、一度見てるしな」


 過去にな。

 しかし、お前は知っておけよ、使い手なんだから。


 ハイではあってもスライムには酷な話か?


「冷蔵庫みたいな事ね」


「冷蔵庫は腐るだろ」


 近いのなら、缶詰とか? 

 いや、そこはなんでもいいよ。

 たとえなくても分かってるんだから。


「冷蔵庫よりは冷凍庫じゃないの?」

「もういいよ! 時間を止める棺桶で通じるだろ!」


 あいつを待たせてるんだから! 

 これは俺の感覚で分かるが、結構不機嫌だからな、シックスは!


 待ってくれてるんだからちょっとは気を遣え! 

 って、宿敵になにを言ってるんだ俺は! 

 しかし、長年の付き合いがあるとそういう気遣いは敵であってもしてしまう。

 これは老人的な考えかもしれない。


 過ごした日は長い……俺の体格はいつまでも変わらないが。


「枢、中に入るんだ――ここにいれば安全だから」

「……分かった」


 枢は素直に、レジェンダリー・ボックスに吸い込まれてくれた。


 枢からしたら、見えないためなにがなんだか分からないだろうが。


 これで枢の安全は基本、保証されたも同然だ。

 だが、不安要素があるとすれば――、

 さっきもこねぎを含め、これまで吸い込まれた者が脱出できたのは、シックスの攻撃のせいなのだが……。


 不意打ちをされなければ大丈夫だろう。

 楽観視しなければ、前に進めない。

 警戒はしながら、だ。


「さて――いいぞ、シックス」

『センスフォーをつけろ、いつの間にか慣れ慣れしくなったな』


「お前は男なのか女なのかはっきりしろよ」

『……女だ』


「…………見えなくもないが」


 シルエットは女性的、かな。

 男にしては、ほっそりしてる。

 まあ、いるけどこんな男も。


『今更だろう、そんな事情は。女だと言ったところで貴様は欲情などしないだろう』

「しねえよ」


 というか、欲情という言葉を知ってるところに驚きだ。

 お前の頭の中には自由しかないと思っていた。

 自由だけを純粋に追い求め、そのための障害は容赦なく破壊する。


 交渉なく利用する。

 搾取的に支配する――全てを自由に繋げるため。


 悪党だが、性格は汚くない。

 ――悪党に綺麗も汚いもないかもしれないが、こいつは綺麗な悪党だと思う。

 好感が持てる。

 ゆかが敵に回った時の方が、よほど質が悪い。


 ゆかの場合はイライラすると思うが、シックスの場合は、清々しく、敵対できる。


 ま、これは俺にしか分からねえ感覚だな。


「あれっ? 私、貶されてる?」

「噂くらい誰かしてるだろ。おかしな事じゃない」


 そーかなー、と首を傾げるが、そうだよ。

 ゆかは、まあいっかと忘れたらしい。

 お気楽な性格で助かった。


 さて、シックスが地に降り立ち、目の前に立ち塞がる。

 町は更地で、なにもない。

 ステージが広過ぎて、逆にやりづらいだろこれ。


 とりあえず言える事は、こんなの絶対に、カウントダウン・ハイパーの立方体は命中しないということだ……つまり、


「攻撃の軸は俺とゆかでいくしかないか……」


 レジェンダリー・ボックスは、戦闘能力がまったくない。

 俺のメビウスも、それもそうなのだが。


 しかし能力が全てじゃない。

 身体能力が死神全員、悪いわけじゃないのだから、肉弾戦だろうとできるはずだ。


 いや、メビウスはできなさそうだが。

 箱入り娘って感じで、こいつ、長時間も立てるのかよ。

 いつも俺にもたれかかってるイメージがあるが……。


「失礼じゃな、わらわも長時間くらい立てるぞ。……格闘技は無理じゃが」

「じゃあ使えねえよ……」


「そもそも嫁を戦いに出すとか、おぬしは正気か? 悪魔にしか見えんぞ」

「嫁じゃねえし」


 嫁でなくとも、確かに、女性を戦いに出すのはちょっと、と思うが……。


「バニーさん、いける!?」

「ばっちし、ぐーぐー!」


 あそこにいる二人組を見ちゃうとなあ。

 感覚が歪む。

 あれ、どっちも女なんだぜ?


「わらわはパスじゃ」

「それがいいよ」


 ゆかの助けになればいいと思ったが、必要なさそうだ。


 しかし、勝てるとも思えない……、

 俺の策は、シックスに見破られるはずだ……。


 だから俺はさっき、一つの嘘をついているわけだが――悪い、枢。

 ちょっと、びっくりするかもしれないが、あとで死ぬほど謝るから。


 策を見破られた後は、正直、賭けではある――、

 だが、だからこそ、ギャンブル・バニースターらしい。


 その幸運に賭ける。

 俺は、なにも言わねえからな。


「……?」


 しかし、俺のその心中を見抜いたように、死神ギャンブル・バニースターが俺を見た。

 目が合う。

 ウインクされ、しかも投げキッスをされた。

 そんな事をすれば、メビウスが対抗意識を燃やすって事を知りながら……。

 あいつ、遊んでやがる。


「あの女……始末しておかないと厄介じゃな」


 やめろ。

 だが、逃げ腰だったメビウスをやる気にしてくれたのは、助かった。


 逃げるためにも、逃げ腰じゃあ、できないからな。

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