第39話 死神・シックスセンス・フォー

『推理小説、最近はまってるんだよね』

『つまらないよ。人が死ぬ話なんて不謹慎だ。ちやほやされる探偵が、妬ましい』


『うーん、そういう人間関係をピックアップしたわけじゃないんだけどね……。

 じゃあこうしよう! 私が謎を出すよ! それを君が解くの。

 君が探偵役。謎と君だけの、一対一の勝負。

 面白そうでしょ? 暇潰しだと思ってさ』


『まあ、いいけど……』



『生意気だよ、まったく。昔から変わらないけど、変わったよね、鳩ちゃんはさ』

『うるさいなあ、次は枢が問題を出す番だぞ。あと、鳩ちゃん言うな』



『俺は、死にたくない……!』

『大丈夫だよ、君は、きっと――』



 最初は俺が不愛想で、しばらくすると俺も打ち解けてきて、

 最終的には弱音を吐くくらいに、枢を信頼していた俺がいた。



 生きる希望をくれたのは、間違いなく枢だ。

 生かしてくれたのは、メビウスではあるが。


 二人に助けられて、俺はこうしてこの地に立っている。

 探偵として、過ごせている――幸せに。


 それは今も昔も変わらない。

 昔の俺が、恩返しのために枢を救おうとしないわけがない。


 枢のためなら死んでもいい。

 究極的に、俺はそう言えるのだ。


『わらわの力を使え――すれば、戻れるぞ』


 さっき、メビウス・フォーマットの能力は危険察知と言ったが、あれは正確に言えば、『セカンドテンポ』と呼ばれる、第二の能力だ。

 レベルアップではなく……死神の能力が追加される。

 力勝負の最中にパワーが増すのではなく、手が増えると言った感覚だ。

 だからさっきのも、嘘ではない。


 メビウス・フォーマットの危険察知は、セカンドテンポであり、

 では、ファーストテンポ……とは言いはしないが、デフォルトで備わる能力は……時間遡行。

 巻き戻す力――やり直す能力。


 リトライの、反則技。


 例外を抜き、俺とメビウス・フォーマットだけが知識を維持する。

 だから俺は、体は十四歳であっても、年齢で言えば老人だ。

 しかし時間=大人というわけではないだろう。


 新しい経験、様々な体験を経て、大人、中年、老人になっていく。

 同じ事の繰り返しである俺は、結局、大人ではないのだ。

 年相応でなくとも、まだまだ子供だ。


 失敗の連続だったのだから、進歩はしていない。

 進化はできていない。

 ずっと、立ち止まったままだった。

 結果、こうして枢を一度、助けてはいるが、失敗は数知れない。


 何度巻き戻ったかも、覚えていない。

 巻き戻しても巻き進められないため、過ごした時間は人の数十倍。

 ……数百倍。


 もう覚えていないから、予測ができない。

 ひたすら長い時間だ。


 その時間で、俺は、大きな過ちを犯してしまい――、

 そして、シックスセンス・フォーという宿敵を生み出してしまった。


 一直線上の時間の真下を移動できる俺に対して、

 シックスセンス・フォーは、左右を自由自在に操作できる。


 パラレルワールド。

 俺が時間を繰り返し、たくさんのイフの世界を作り出す裏で、シックスセンスフォーは、その全ての世界の出来事を知り、共有できる。


 だから、


「ある一つの世界では、枢は死神に憑かれているが、この世界では憑かれていない。

 だが、シックスセンス・フォー自身が知識を共有しているため、自動で生まれてしまう。

 たとえ、枢が死にかけていなくとも――」


 枢が死にかけたきっかけを作ってしまったのも俺だ――、

 だから、自業自得と言えば、そうだ。


 自業自得なのだから、俺が決着をつけるしかないのだ。

 天敵である、シックスセンス・フォーと。


 イレギュラーとして生まれたこの世界の例外的な死神は、既存のルールに囚われない。

 自由になるための『宣言』を必要としない。

 シックスセンス・フォーは、いつでもどこでも、枢を殺せる。


 そして、自由になれる。

 ――せっかく救った枢を、殺されてたまるか。


「お前らが必要なんだよ、こねぎ……ゆかぽん、ハイスライム。

 この三人が集まる事でシックスセンス・フォーを倒せると、俺は予想してる」


 根拠はあるぜ? 

 繰り返した別の世界では、それぞれが、シックスセンス・フォーを追い込んだ。

 しかし別世界の知識を共有している相手には、一人では足らない。

 その原因に辿り着き、経て、先の答えは、三人をまとめてしまう事だった。


 全員が死なずに集合する。

 そして、俺の意思が絡まないようにする。


 絡んでしまえば、シックスセンス・フォーはこれまで別の世界で相対した俺の傾向から策を予想できてしまう。

 だから俺の意思が絡まず、三人で導き出せる一手を期待していた。


 まとまるように、俺もできる範囲で手助けはしていたが――、

 ここまで持ってきたのは紛れもない、お前らだ。

 誰かじゃない、お前ら全員が、この状況を作り出した。


「シックスセンス・フォーを倒せるのは、お前らしかいねえんだ、こねぎ!」

「…………人、任せじゃないの」


 厳しい一言だ。

 確かに、そうだ。

 俺は、お前らを鍵とか、ピースとか言っておきながら、丸投げしているだけだった。

 物は言いようだ。

 だが、俺がここでとんずらするとは言ってねえぞ。


「お父さんが、死んじゃった……」


 それに――、

 と、こねぎは破壊された住宅街を見る。

 そこの土地も更地で、なにもない。


 シックスセンス・フォーの一撃が猛威を振るった。

 ゆかぽんの大切な人がそこにいたらしい……彼女もまた、枢に見せる怒りが強かった。


 バクンタウンは、壊滅状態だ。

 俺らとシックスセンス・フォーしか、生物はいない。


 ラストバトルには、相応しいとは思わないか?


「…………」


 こねぎも、ゆかぽんも、無言だった。

 ハイスライムはなにがなんだかわけが分からず、女の子二人の怒りに怯えるだけだった。

 しかし、ちゃっかりそちらについている辺り、冷静じゃあないか。


 いいポジションを見つけやがって。


「シックスセンス・フォーを倒すより、そこの人を殺す方が簡単でしょ」

「お前、それ本気で言ってんのか?」


 こねぎは、唇を噛む。

 血が、つー、と流れた。


「本気で言ってるわけない! でも、じゃないと、お父さんが浮かばれない――、

 もっと大きな被害が出る! ここで早いところ、芽を摘んでおかないと――」


「全員、生き返る」


 俺の言葉に、二人はさらに顔を真っ赤にして――って、おい、聞けよ! 

 ふざけて言ったわけじゃねえよ!


「信用ないのう、おぬし」

「胡散臭いってのは、自覚してるところだ」


 なにせ迷探偵。

 とにかく怪しいだろ。


「自覚しておったのか」

「まあな。けど変えねえよ、これは、俺の誇りだ」


 ふうん、文句はないがな、とそれだけを言い、彼女はまた身を翻す。

 ……ちょっと、元気づけてくれたらしい。


 下手くそだな。

 けどまあ、効果は絶大だ。

 いて欲しい時にいてくれる。それがどれだけ嬉しいか――。


「枢」


「?」

 と首を傾げた彼女に、


「俺の事を呼べ、ちゃん付けで!」


「鳩ちゃん!」


「応援しろ!」


「鳩ちゃん、頑張れ!」


「頑張る!」


「……わらわを踏み台に使ったのか……?」


 使われるだけありがたいと思え。

 ……いやごめん、普通にありがとう……助かった。


 お前がいなきゃ、やっぱり俺はダメだ。

 好きじゃないけどな。


 好きなのは枢だけど、必要なのはメビウスだ。

 それは不変で、確定的だ。


「もう一度言うぜ、お前ら。全員が生き返る――これは、嘘じゃねえよ」


 勝てば全てが元に戻る。

 それもまた、シックスセンス・フォーの能力なのだから。

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