第14話 死神・ギャンブル・バニースター その2

 美少女としての品位を下げるからあまり暴力を振るいたくはないけど、能力の発動条件がそれなのだから仕方ない。

 本当はやりたくないけど、ここは心を鬼にして、苦汁をなめた顔で振るうしかない。


 ごめんね!


「その割にはノリノリなんだよねえ……」


 言いながらもバニーさんは私の攻撃をひょいっと躱す。

 というか私のパンチに腰が入ってなさ過ぎる。

 蹴りも同様。

 空ぶった後の体勢維持が全然できず、勢いに体の軸が持っていかれる。


 喧嘩慣れしていない弊害。

 もたつく動作はバニーさんにとってのチャンスになる。


 ノールックのトーキック。

 つま先が私の横腹を打つ。

 み、鳩尾じゃなかったのが救いか……、威力もそこまで強いわけじゃない。

 しかしなんて微妙なところを……。


 直撃しながら擦ったような……打つというより切った、みたいな。

 打撃とは違った鋭い痛みが体を走り抜ける。


 逃げる事をやめて向かい合ってから、一分さえ経っていないけど、もう泣きそう。

 ……帰りたい。

 ベッドにダイヴして寝たいんだけども……もちろん許してくれないよね。


 バニーさん、変わらず戦闘態勢。

 超攻撃型。

 性格と一緒だあ。


「あれ? もう逃げるの? 腰抜けねえ」

「腰砕けなバニーさんに言われたくないね!」


 とりあえずノリで言い返してみたけど、意味が分かんないな……。


 見た目、砕けるほど腰は使ってそうだけども。

 しかし私と同一なら、そういった経験はまったくないわけで。

 ふーん、はーん、まあそうだけども、へえー。


 バニーさんは、まだなわけね。


「……そういうゆかぽんだって、そうでしょうが」

「そうですけど? それがなにか? こちとらまだ十六歳なんですぅ」


 年増なバニーさんと違って遅れてないんですからね。


「私ちゃんだってまだ十九だわ!」


 と言うけれど、バニーさん、だって年齢、変わらないでしょうが……。

 いつまで経っても、あなたは十九歳のまま。

 遅いも早いも概念がないんだけどね。


 そんな常識を忘れたように怒るバニーさん。

 んん? バニーさんが動揺してる。


 顔を真っ赤にしながら息荒く。

 なるほど。

 じゃあ今、バニーさんの攻撃は当たっても、威力が減少する可能性が高いってわけね。


 なんとなく分かってきた――バニーさんとの戦い方。


 この能力との付き合い方。


 こういった見極めを駆使していくしかない。

 ヒットアンドアウェイ。


 チャンスの場合に突っ込んで(これは突撃という意味で)、

 チャンスでなくなったら退いて体勢を立て直して。


 まるでコンピューターゲームみたいだね。


 私自身は裕福ではないから持っていなかったけども、団員仲間が持っていたのをちらっとやったことがあって、それのワンシーンが、まさに今みたいな感じ。


 つまり、なるほど――バニーさんとは、中ボス感覚で戦えばいいのね。


 繰り返していればいずれ慣れて、片手間で相手できるくらいになるんだろう……。

 慣れってすごいね、バニーさんでも、その程度にまでは落ちるって事だから。


「この程度なら、なんとかなるかも」

「……煽っているわけじゃあ、なさそうね。じゃあ本心? へえ、腹立つ女ぁ」


 なぜかバニーさんがさらに怒った。

 なんで? 

 いやまあ、怒ってくれるのはこっちとしては助かるんだけども、あんまり勝手に怒られても、私の心中が気持ち悪い。


 方程式が分からないのに正解を出しちゃった、みたいな。

 いやそれ、なにがどうなってこの答えが出たのよ!? みたいな、もやもや感が残る。


 気持ち悪い。

 教えてバニーさん!


「知るか。テキトーな事を考えていないで、さっさと逃げれば?」


 繰り出された拳が家の周り、石の塀を砕く。

 瓦礫が落下し、山を作った。

 私が通った道付近の家がことごとく倒壊していくんだけども……、

 まだ怪我人がいないのが幸いだった。


 みんな仕事で助かったぁ! 

 しかし家に帰ってきた時、崩壊した我が家を見てどう思うんだろう……。

 まあ、まず唖然とするだろうけど。

 怒るのなんて、二の次だ。


 だから今だって。


 ――住民! と目が合ったけども、目をごしごしと擦って、窓から顔を出したおばあちゃんは家の中へ戻って行く。

 よしっ、信じられない光景に戸惑っている様子。

 この感じじゃあ、しばらくは怒られないだろう。


 傍から見たら死神であるバニーさんは見えないわけだから、私一人が暴れ回り、トチ狂っているようにしか見えないけど。

 なにそれ、ハイパー不本意!


「死神だけずるい!」

「そう? 私ちゃんはゆかぽんが羨ましくて仕方ないけど。交換でもする?」


「しないわよ。死神はずるいよね、せこいよね、と言っただけで、憧れなんてないし」

「…………あっそ」


「死神として生まれたんならその中で楽しく生きればいいじゃん。自分で楽しみを見つけられないくらい、生きるのが下手なわけでもないでしょ?」


「死神は『主』に縛られてるって言ったでしょ。自由なんて、ほとんどないわよ。ゆかぽんはいいわよね、美少女だから、外見はいいから、苦労しないでも生きられて。なにもしなくても楽しいんじゃないの? 良い男が、なにもしなくとも寄ってくるでしょ」


「寄ってこられてもねえ。外見に惹かれた奴なんて、所詮はその程度よ。中身を知って、幻滅。というかまあ、私の振る舞い一つでみんな引いていくんだけども」


 じゅうぶん知ってる、とバニーさんが納得した。

 なんで知ってるんだ。

 思い出の中での話なんだけども。


「私とゆかぽんは同一と言ったでしょ。なんでも知ってるわよ」

「うわっ、プライバシーの壁がまったくねえぞ」


 住宅の塀と同じく。

 壊されてるじゃん。


 全部筒抜け。

 あれもこれも。

 でも、どうやら思考までは読めないようだ。

 それは……でも、今はこうして戦っているからであって、もしかしたら普段は読み取られていたのかもしれない。


 もしそうなら――と言っても、別に不都合はないか。

 あの時は、読まれて困る事は別に考えてなかったし。


「あのねえ、男に興味ない私が、男を惹きつける外見を持っていても、幸せじゃないのよ」

「ふーん? 男に飢えてるものじゃないんだ、美少女って」


「すげえ偏見だ。それは美人でも当てはまると思うけど……」

「死神が男を欲すると思う?」


「そう言えば、……死神って欲情するの?」

「そっくりそのまま、興味はゆかぽんと一緒って言っておくわ」


「うわっ、エロっ」

「あのね、そのままブーメランになって返ってくるって理解してる?」


 冗談だよ、と訂正。

 まったく興味がないわけじゃないけど、私としては、うーん、って感じで。

 積極的に知りたいというわけでもない。

 まあ、話題として出されたらもちろん繋げる事はできるけども。


 男なんていらない。

 自分で言いたかないけど私ってばロリコンだし(ショタコンではないと否定しておく!)。


 同年代に興味はない。

 私が認めた美少女以外は死ねばいい。

 いやまあ、さすがにそこまでは言わないけども。


 普通に生きててくれても構わない。

 私にちょっかいを出さなければ。


 視界に入るなと言うほど、鬼畜ではないつもり。


「ん? じゃあさ――ちょっと待って。……バニーさんも、ロリコンなの?」

「変態と一緒にするなよッ」


 不本意だったのか(そりゃそうか)、拳を塀に叩き付けるバニーさん。

 横向きのクレーターができた。

 塀は倒れず。

 破壊するまでには至らなかったらしい。


「なんで、急に怒って――」


 と、私の言葉が遮られたのは、塀の一部が欠けて落下してきた瓦礫の塊が、頭部に直撃したからだった。

 人の頭の二倍の大きさで、私の身長よりも頭二つ分、高い位置から。

 その質量が落ちてきたのだ。

 言葉なんて途切れる。

 意識なんていとも簡単に――あれ? 全然、痛くない。


 地面へ落下し、真っ二つに割れた塊を見る。

 石の塊だ。

 これが、落ちてきて直撃したのに、全然痛くない事ってある? 


 当たりどころの問題じゃない。

 こんなの、どこに当たろうがそれなりに痛いはずなんだけども――、


 あ。


 バニーさんの能力。

 もしかして、間接的な攻撃にも能力が!?


「…………」


 当たらない当たらないと押され気味だった私の、知恵電球がぴっかーん、と点灯。


 直接的な攻撃は、私のせいもあるけど、バニーさんの身のこなしのせいで当たらない。

 でも、私の考えが正しいのなら。

 手数はかなり多くなる。

 バニーさんでも気づいていない、裏技が使えてしまうぞ!


 テンションの上がった私は鼓動が早くなっているんだけども、まったく気づかずに。


 上から目線の嘲笑を見せつける。

 これこそが私って感じで――本領発揮!

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