第4話 小銭稼ぎのミス・クエスチョン

 ……マジシャンぽくはないよね。


 喜劇寄りの技術だと思うけど。

 でもでも、団長に習得しておけと言われたから練習したんだよ! 

 いいじゃない、マジシャンぽくなくても。

 マジシャンぽくないからこそ、新鮮なんじゃないの!?


 で、声帯模写を見せたけど反応はあまり良くなかった。

 ……ただ、通りかかった年配の方が足を止める事が多くなった。


 いつの間にかお客さんも増えてるし。

 どうして私のショーはちょうどいい年齢の人が来ないんだろう。

 ……子供と老人ばっかじゃん!


 いや、お客さんがいるだけありがたいんだけど……。

 お客さんが一人も来ないのにするショーほど、虚しいものはない。

 私の同期に一人いるけど、あれは痛い。

 泣きそうになる。


 見てあげたいのに素通りしたくなる。

 悪循環できちゃってるじゃん。


 無事に旅が終わったらコラボでもしてやろうかな……。


「はーい、これはみんなにプレゼントねー」


 子供全員に、風船で作った魔獣をあげる。

 男の子にはドラゴンが人気だった。

 女の子は猫(二足歩行の賢い種族だ)が人気だった。


 十人ちょっとだったので、手間もかからず風船も数が足りた。

 後で補充しておくかな。


 ふむ……、後半はほとんど風船ばっかりだったな。

 いいのか、これで。

 いいのかな。

 子供達も喜んでくれてるし、まあ、いいんじゃないかな。

 ……私はすっごい楽だったけど。


「お姉ちゃん、ありがとー!」


 五歳くらいの女の子に最後、風船を渡し終えたらそんなセリフ。

 ぎゅーっと、風船を割る気かくらいに抱きしめる女の子が可愛すぎる。

 私もぎゅーっとしていい? ダメ? ダメだよね、後ろにお母さんいるもんね。


 ちっ、いなけりゃ遠慮なく抱きしめたのに……お持ち帰りしたのに。

 それにしてもこの子、私の旅路の中でも歴代ベスト三に匹敵する可愛さだ……。

 これは順番が変動するかも。


 ああ、子供って癒される……あ、でもさっきのアホ面は論外ね。

 面白いけど、喋ってて楽しいけど、ワースト三だよあいつは。

 まったく、一緒に旅したら楽しそうだし、将来が楽しみだけどね……、

 あれ? 意外と私ってあいつ好きだったりして。


 そんなあいつは……既にいねえ。

 風船持ってどっかいきやがった。

 くぅ、いやまあ、子供からお金を巻き上げる気なんてないんだけども……、

 だから収入が少ないんだよねえ。


 置いておいた缶を見る。

 さてさて、今回の売り上げは……ふーん、へー、ほー。


 おばあちゃんがちょっと入れてくれたらしいね。

 ほんのちょっとだけ。

 え? 文句はないけど? 

 入れてくれただけありがたいもんだよ。


 だからお母さん達が、缶など目に入りませんでしたの如くすぐに去っていっても、全然、気にしてないし、怒ってないからね? 

 いやうん、本当に。

 私だったら入れるんだけどなあ。


「お姉ちゃん、次はいつ来るのー?」


 私の中の可愛い子ランキング第三位の女の子(元三位を蹴落とし、ランクインしました)が無邪気に聞いてくる。

 数分後……数秒後にまた会いたいけど、というか離れたくないけど、さすがに気持ち悪いか。

 嫌われたくはないからね。


「んー、また明日、同じ時間にね」

「うんわかったー! ねえねえ、おねえちゃんのお名前はー?」

「私はミス・クエスチョンだよ、友達にも教えてあげてねー」


 クエスチョン? と首を傾げる女の子。


「おねえちゃんの名前がしりたい。それって、げいめい、ってやつなんでしょー?」


 芸名……よく知ってるね。

 そうだね、ミス・クエスチョンは芸名だね。


「うん、だから――」

「お姉ちゃんの事は、ミス・クエスチョンって呼んでね。分かった?」


「おねえちゃんのなま――」

「ゆかです」


 女の子が怯え始めたので白状した。

 ま、まあ、嘘ではないし。


「ゆかちゃん、また明日ねー」

「はーい」


 手を振って、見送る。

 ……あれ? あの子は名前教えてくれないの?


 しっかりしてるなあ。

 このご時世、個人情報は大切に扱わなくちゃいけないしね。

 さすが現代っ子、お母さんしっかりしてる!


「ふう、終わった終わった。さて、売り上げを計算して――」


 ああ……計算し終えたけど、やべえ。

 夕飯はぎりぎり、しかし、宿が取れないな……。

 今日のこれが頼りだったんだけども……はあ、どこかでもう一回公演しますか。


 しかしこの広場でもあんまり集客できないとなると、別の場所も期待できなさそう。


 南の方に商店街があったけど……、

 いや、まだ諦めるのは早い。

 まだ初日、これから巻き返せる。


「今日を越すことが困難だけども……」


 私は早着替えで私服へ。

 目立たない地味めな服装だ。

 パーカーとスカート。

 それでも美少女感は漏れ出てしまう、私ってば美少女! 

 すれ違う人、みんなが見てしまうのが丸分かり。


「それは違う意味で見てると思うけど……」

「なにか言った? バニーさん」


 いつの間にか、私の隣に立っていたバニー姿のお姉さん。

 ピンク色の髪、派手なバニー衣装。

 露出が多めで、綺麗な肌だ。

 だけども私よりも年上なので可愛くはないです。


 主観的で個人的な感想なので、不快に思わないでね。


「うんうんなにも? 私ちゃんはいま着いたばかりで、ゆかぽんが私服に戻ったところからしか知らないから、なんにも言えないですよー」


「いつもいつも、唐突に現れますね、あなたは。

 あと、私の本名を呼ぶな。書き起こすだけでも腹立たしい」


「そんな事言ったらお母さんとお父さんが悲しむよ? 必死に考えて『ゆかぽん』にしてくれたんだから。……ゆか、ぽん……っ、ぷすっ、くすくす!」


 バニーさんはいつものように笑う。

 ……相変わらずの名前いじりだ。


 そろそろ飽きないかなー。

 このくだり、何千回目なんだろうなー。


 はあ……、落ち着いて、クールにクールに、オーバーヒート。


「――なんでこんな恥ずかしい名前に!」

「可愛いけどねー。ゆかぽん。ぽんっ、のところがポイント」


「うっさい!」


 恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 じゃあなってみればいい。

 ゆかぽんって名前になってみればいいよ! 


 そしたら私の気持ちが分かるもの。

 いくつになっても、いじられ慣れないんだよねえ……。


「それは感情的になりやすいゆかのせいでは……?」


 バニーさんは気を遣ってくれたのか、ぽんを取り除いてくれた。

 というかいつもその呼び方なんだからいちいちぽんをつけなくていいんだよ。

 悪ノリだ、バニーさんの悪いところ!


「ごめんごめん、怒っちゃやーよ、ゆかちー」

「あなたは呼び名を統一してくれません……?」


 かなりの頻度で変わるから私も反応できない時がある。

 まあ、どれだけあだ名をつけられても、ゆかぽんよりは全然マシだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る