第1戦 ギャンブル・バニー・スター【ゆかぽん】
第3話 ゆかぽんのマジックショー
大量殺人犯がこの町に潜んでいるらしい。
あらかじめ知っていればこの町に滞在する事もなかったのに……。
ああいや、でもお金がもう底を尽きかけてるから、次の駅にすら到達できないんだけども。
戻る事もできないし。
……くぅ、だからあらかじめ知っていれば!
しかし文句を言ってもしょうがない。
町に辿り着かなければそんな事を知ることはできなかったし。
一つ手前の町で降りようが、どうせ今みたいな問題が起こるはずだ。
私って、昔から不幸体質なんだよね。
そのおかげで、トラブルには慣れている。
だからトラブルが起こっても大抵の事はなんとかできてしまうのだ!
「いや、トラブルなんか起こらないのが一番だよ……」
感覚が麻痺してるな……。
まあともかく、まずは宿屋を探すとしよう。
と、足を踏み出したらお腹の虫が鳴いた。
大きめの音で、隣のお姉さんが微笑んでいた。
あう……。
「宿よりも先に腹ごしらえをしよ……」
微笑んだお姉さんを追いかけ、おすすめのお店を聞いた。
「うむ、美味しかったけどお財布には優しくないな……」
さすが綺麗なお姉さんだけあっておすすめしてくれたお店は健康に良い食材を使った料理で、体には良かった。
その分、お財布には厳しかった。
お腹は膨れたけど、財布はダイエットできた……なんて反比例。
すっからかんの財布は重さを感じない。
「ここは……っと」
お店から出ると見える大きな噴水。
遊具はないけど公園のような雰囲気だ。
名義的には広場なんだろうけど……ここがこの町の待ち合わせスポット。
駅から真っ直ぐ、メインストリートを歩いて辿り着く場所だから分かりやすい。
「場所は、いいんじゃないかな……人は多いし人通りも良いし、期待できそう」
私は背負うカバンを地面に置く。
中から衣装を取り出し、手作りの紙吹雪を頭の上からかけ、その間に早着替え。
ふふん、戦闘準備ばっちり。
黒と赤の派手な衣装で、大きなネクタイ。
頭にはシルクハット。
スカートによって出る美脚はタイツで色っぽさを表現。
これぞ人目を惹く衣装、分かりやすい演者の格好だ。
すると私の着替えをじっと見つめていた男の子がいた。
アイドル並の可愛さである私の生着替えが見られるなんて、一生の宝物だぞ?
まあ私はそいつをエロガキと呼ぶけど。
ちょいちょい、と手で招く。
私がいざ動けば、人なんてすぐ集まるけど、新しい街での活動はまず子供から攻めると決めている。
子供の噂の広がり方は凄いよー、あっという間に広がってすぐに友達が集まってくるんだから。
そして最終的には親と老人を巻き込む。
老若男女、私の虜になるんだよ。
……。
なって、なれば、いいなあ……。
「なんだ姉ちゃん」
「いいものを見せてあげよう、エロガキ」
いいもの? と男の子は首を傾げた。
坊主頭の、アホ面をして。
というか、エロガキに否定しないどころか反応もなしとは……。
そんな目線で見てないと。
私、そんなに魅力ないの?
まあそうだよね、子供には分からない魅力が詰まってるからね。
詰まってるだけで外に出ないんだよね、意味ねー。
ともかく記念すべきこの町での一人目のお客さん。
子供でもアホ面でもエロガキでもお客さん。
大事にしていこう。
一円を笑う人は一円に泣くんだよ?
だから、その、このたった一人のお客さんも、まあ、そういうことだ!
「さあ、ミス・クエスチョンが贈るびっくりどっきりショーの開演ですよー!」
男の子は、おおー、と手をぱちぱち、視線は明後日の方向。
――興味まったくねえな。
いいもん、その興味、向けてこそ奇術師なんだから!
「こらこら少年、お姉さんがいいもの見せてあげようと言っているんだから、見ていた方が得だぞー? 大人しか見れないような過激なものまであるんだぞー?」
全部は見せないちょびっと刺激強めの誘惑があるけど、それを出すかは悩ましい。
このエロガキにはもったいない。
「興味ねえぞロリババア」
「ああん!? 誰がババアだぴっちぴちの十六歳だわ!」
ロリのところで容姿に関して言及していないところが憎らしい!
中身がババアだと向こうは訴えているわけだ。
中身がババアってなんだ! センスなら今風でしょうが!
「ま、まあいいわ……所詮は子供の言うことよ」
落ち着け、クールに、ホットに、ヒートに。
……熱いのが勝っちゃった!
「ショー? なんだ、ロリババア姉ちゃんはマジシャンなのか?」
「マジシャンじゃなくて奇術師だよ。まあ、奇術師=マジシャンって認識でもいいけどね。
あと、ロリババア姉ちゃんはごちゃごちゃ過ぎる。人間ケルベロスみたいだから」
三つの頭が一つの体にって奴ね。
実際いるんだよ、そういう亜人。
生きにくそうだったけど、まあそこは、本人達が折り合いをつけているんだろう。
「あれか、瞬間移動とかすんのか?」
「それは大きな箱がないとできないんだよねー。今ないから無理」
「人体切断マジックは?」
「あれも大きな箱ないとできないからねー。今持ってないし、無理」
「じゃあ、剣を突き刺して、無傷なヤツ!」
「あれは箱がないと――」
「なんで箱持ってないん!?」
喰い気味で男の子が前のめり。
いや、ごめん。
これはほんとお姉ちゃんが悪かった……。
というかなんでそんなに箱を押してくるんだろう……、
確かにマジックとしては有名だけどさ。
でもあれってどうなるか予想がつくくせにかける時間長くない?
長々とやられても、「いや知ってるし」ってならないのかな。
やる側のふとした疑問。
やる側としてもゆっくりできて楽なんだけどさ。
その分、下準備がねー。
旅をしながらショーをしている私にとっては、あの大きさの荷物は邪魔でしかない。
だから自然と、簡単で早くできて、なおかつ凄さが分かりやすいものに偏るわけ。
「瞬間移動も人体切断も危機一発もできないけど、こんなのできるよ」
私は降参のポーズをしてから、ねこだましのように、ぱちん! と拍手。
男の子はびっくりして目を瞑る。
再び開けた時、なんと、私の手には二つのステッキが!
「あ」
その二つのステッキを投げる。
左回転。
左のステッキは右へ、右のステッキは山なりに投げて左へ。
で、くるくると何周かした後……なんとステッキは三本に。
「ん、あ……あ!」
気づいたな少年。
気づいたところで、あらよ、四本目。
「え、あ……え!?」
五本目、六本目、七本目。
私もそろそろ、男の子の様子を見れないくらい大変になってきた。
八本目は……やめとこう。
まだ失敗の演出をするタイミングじゃないな。
演出と言ったけど、単純に失敗だけども。
巻き戻しのように、逆回転に変え、数を減らしていく。
残り二本……、一つ消して、一本。
最後の一本はくるくると手首の周りで回し、そして手の平で掴む。
「どうかな、これが私の得意技のジャグリングよ!」
「ほー、見どころあるじゃん」
なに目線なんだお前は。
しかしまあ、好評でほっとした。
私としては結構な大技を繰り出したので、ここでつまんねーとか言われたら、思わず手が出そうだ。
「他にはないのか」
「声帯模写とかかな」
「マジシャン……?」
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